サンタヤーナの警句

宗像紫雲

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サンタヤーナの警句(第二十二話)

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                 二十二

 そうこうするうち、鉾田から「コメントが取れた」というメールが届いた。それらを転送してもらってざっと目を通した。

 「経済アナリスト A氏
   
   トランプ政権時代に『円安派為替操作だ!』、『日本は為替操作国だ!』とま
  くし立てたアメリカ政府が、てのひらを返したように沈黙を守っている。日銀の為替
  介入に対しても『日本の立場はよく理解している』とまで言っている。
   “ドル高”は輸入コストの削減をもたらし、インフレ抑制効果が働くとともに貿
  易赤字も縮小  させるから、アメリカにとって決して悪いことではない。11月
  に中間選挙を控えるバイデン政権にとっての最重要課題は、いかに目先のインフ
  レを鎮静化させるかだ。1ドル147円の節目を越えると一気に150円まで円
  安が進む可能性がある。『ミスター円』こと榊原英資元財務官が最近のテレビの
  インタビューで『1ドル160円、来年末には180円まで円安が進む』と語っ
  ていたが、日銀がこのまま緩和政策を放置し続ける限り、そういう世界が現実の
  ものとなるだろう」

 「あけぼのフィナンシャルグループ 執行役員市場調査部長 B氏

   景気を犠牲にしてもインフレを鎮めるというFRBの強い意志が功を奏して、
  インフレ懸念が後退したとの見方から、長期金利が頭打ちとなり円安も一時的に
  方向感を見失った。しかし、8月の株式市場と同じくこれは「過度な楽観論」と
  言えよう。すでにサンフランシスコ連邦銀行のデイリー総裁からは「インフレ抑
  制まで断固として利上げを継続する」という発言も聞かれ、10月13日に公表され
  る消費者物価指数(CPI)の結果いかんでは、さらに同様の発言が相次ぐ可能
  性もある。
   その場合は一時的に1998年につけた1ドル147円を試す局面も否定でき
  ない。ただし来年以降は本格的に米景気が減速し、インフレも鎮静化するだろう
  から、金利差は幾分埋まると見ている」

 「ジャイアントFX チーフアナリスト C氏

   ドル円相場の月足チャートは1ドル147円を目指す展開になっている。半
  面、ここが上値の強力な抵抗ラインとなる可能性が高く、一足飛びに1ドル15
  0円へ向かうかと言えば、多少疑わしい。テクニカル分析上も「移動平均収束拡
  散(マックD)」が上昇トレンドを描いているのに対し、「相対力指数(RS
  I)」には割高感が現れている。
   米国の景気後退が本格的に意識される展開となれば、リスクオフの円買いが起
  こる可能性を視野に入れておいた方がいいかもしれない。この先、円安と円高の
  どちらへ振れるとしても、ボラティリティ(価格変動率)の高い動きになるだろ
  う。現在の水準は今後の相場の行方を占う上で重要な節目にあると言える」

 「トラスト投資信託 チーフストラテジスト D氏

   景気後退が囁かれる米国経済だが、10月6日に発表されたサプライマネジメン
  ト協会(ISM)非製造業景況感指数は56・7%と、前月の56・9%からわずか
  に低下したものの市場の予想を0・3ポイント上回り引き続き高い水準を維持し
  ている。労働統計局(BLS)が公表した8月の非農業部門雇用者数は31・5万
  人増加し、失業率は3・7%で低水準。
   依然として強い経済を覚ますため、連邦準備制度理事会(FRB)は今後も利
  上げを続けるだろう。年末に向けて1ドル150円までいく可能性は十分にあ
  る」

 まさに「百家争鳴ひゃっかそうめい」といった感じで、実にいろいろな見方があるものだ。作り手としては感心するが、読者の方はどうだろうか? あまりにバラバラの話をいっぺんに聞かされると、却って何も印象に残らないものだ。次の取材が交通整理の役目を果たしてくれればいいが……。

 六本木にある大規模複合施設のオフィス棟に、その会社はあった。どうした訳か外資系はこの街が好きだ。今でこそ地下鉄も増えて行きやすくなったが、ディスコが林立したバブル全盛期には日比谷線しか通っていなかたのに……。
 あらかじめ送ってもらった受付番号を専用端末に入力して、来館カードを出力する。これをかざさないとゲートを通れない。ニューヨークのワールドトレードセンターはこれほどハイテクではないものの、入館前に身分証明書のチェックが必要だったが、空から体当たりされてしまえば為す術もなかった。
 ゲートは無事に通れたが、どのエレベーターに乗るかで迷った。低層階は直通で行けるが高層階行きは途中で乗り換えねばならない。東京の高層ビルにはめずらしくない作りだが、初めて訪れるビルの場合はやはり、迷う。

 すったもんだの挙句、どうにか約束時間の前に目的地へたどり着いた。
 受付を済ますとグレーのスーツ姿の女性が迎えに来た。それが広報の担当者だった。来客への応対と社内の会議に併用する部屋がいくつも並び、壁にはいかにも外人が好みそうな純和風の屏風絵やら紡ぎの着物やらが、美術品のように展示されていた。
 通された部屋には大きなモニターとテレビ会議システムが設置されていた。これで海外の同僚たちと打ち合わせをするのだろう。わざわざ聞くのも野暮だから、広報の女生とは簡単な挨拶だけにとどめることにした。
 女性は少しお待ちくださいと言って部屋を出て行った。少ししてノックの音がしたので立ち上がると、メイド姿の女性がコーヒーを運んできた。何かスゴク高級なホテルに来たような錯覚にとらわれたままさらに待っていると、グレーのスーツが戻ってきて「大変お待たせしました」というが早いか、目的の人物が入ってきた。

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