風紋(Sand Ripples)~あの頃だってそうだった~

宗像紫雲

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第二部第十三章スチムソンドクトリン

第十三章第十三節(グリーン大使2)

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                 十三
 
「お話はごもっともですが、本使へ一言もないというのは実に遺憾に堪えません」
 本音で言えば、自国の権益を侵害しかねないとの疑義のある提議を、「二国間交渉だから」といって英国の与り知らぬところで進められても困るのだ。しかもそれに被せて「“要求”と“希望”は自ずと異なる--」など、まるでヒトを煙に巻くようなこと言われても、何だか丸め込まれているような、詭弁きべんを弄されているような……。とにかく腑に落ちなかった。

 グリーン大使はあからさまに怪訝な表情をつくって見せた。すると加藤外相は、居住まいを正しややあらたまった口調で続けた。
「先刻も申した通り、それらは貴国の利害に一切かかわりのない事柄でもあるから、内告を控えたまでのことに過ぎません。そもそもこれまで貴国において、北京政府と諸々もろもろ交渉をなされるに際して一々我が方へこれをご通知なされましたかな?」
 そんなことを言われたら身もふたもない。
「そ……、それはそうかも知れませんが……」
 返す言葉もなく何だか釈然としないまま、不得要領の色を浮かべたところへ、外相はこうも重ねてきた。

「貴大使のお話によれば、何か貴方において内示を受けるがあるかに受け取れるのですが、それは如何にも解し難い。希望と言っても例えば警察官の採用など、満洲において既に実行されている事柄であって、何ら新しいことはありません」
「しかし、もし英国の外務大臣がそれらの条項を承知しなかった場合には、如何なされるおつもりですか?」
 グリーン大使はようやく一矢報いるつもりで母国の威厳を借用した。

「もし貴国外相がご意見を述べられるならば、相応の考慮を払うのはもちろんです。もっとも当方に於いて、そのような事態は予期しておりませんがね……」
 同盟国の外相があたかも自分を見下すようなことを言ってきたので、大使は少なからず気分を害した。一瞬だけグレー外相の顔が浮かんだが、そちらがそのつもりなら勝手にすればいい。あとで泣きを見ても知らないぞ--とばかりにこう言った。

「では北京政府に対して種々の“希望”をご提示されたとの事実と、ただいま伺った閣下のご意見を本国へ報告してもお差支えありませんね?」
 大使は当てつけのつもりで念を押したが、その底意は相手に伝わらず、淡々と返してきた。
「ええ、豪も差し支えありません。とくにグレー外相にはくれぐれも誤解なきよう、よろしくお伝えください」
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