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第二部第十三章スチムソンドクトリン
第十三章第十四節(報道合戦)
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十四
単なる既成事実の確認に過ぎなかったはずの「二十一箇条問題」をこじらせた主犯は、日・漢・英字新聞の報道合戦だ。
交渉に臨むに際して加藤外相は、ことの重大性に鑑みてあらかじめ国内主要各紙の編集主幹を集め、事情を含ませた上で報道抑制の協定を結んだ。ところが一月二十二日付の『時事新報』※1が北京発特派員電を引用するかたちで早々に協定破りを犯し、『国民新聞』も同様の記事を掲載した。
ひとたび綻びが生じるや、他社に後れを取るまいと逸るのがこの業界だ。『東京朝日新聞』は一月二十三日、号外※2を発して北京側各新聞の憤怒に火を付けた。
筆者自身は現時点で件の号外を確認できておらず、わずかに同日付の『京都日出新聞』※2の号外のみを見つけたので引用する。
※1=かつて存在した日本の新聞で、『東京日日新聞』に吸収される。現在の『時事通信社』とは縁もゆかりもない。
※2=現在の『京都新聞』の前身。
「第一 満蒙問題の解決即ち旅大の租借期限を九十九年に延長し満鉄の期限また同様ならしむること。満蒙に日本人の居住及び土地所有権を許容すること。
第二 山東問題の解決即ち支那は従来独逸に与えたる山東省関係の全権益を日本に譲与すべし。
第三 全支那に亘る要求即ち全国の要所を商工業の為に開放すること。其の場所及び数は追って定むること。全国鉄道敷設の権利及び全国河川の航行権を許容すること」
同紙はこれら三箇条の前段に「我が政府の要求はすこぶる長文にして複雑なる」と、全文を入手したかのそぶりを見せたが、少なくとも第三条は明らかにデマである。そうであれば情報の出どころが疑われる。
果たして日華どちらが先にリークをしたのか分からない。ただ東京の情報は協定があって出せないが、「北京発の情報だから」といった詭弁が横行して結局、協定は意味をなさなくなった。
すると日本側の報道に反応して北京の新聞も派手にやり出した。
なお厄介なのは日華の報道合戦が英米またはドイツ人記者たちへと伝播して、情報攪乱のタネに使われたことだった。
再度繰り返すが、「二十一箇条問題」が起こったとき、日独は依然交戦状態にあった。しかも中華民国はこの時点で「中立国」の立場を取っていたから、北京界隈には依然として公使を含むドイツ人たちが大手を振って闊歩していたのだ。
二月十三日付の『タイムズ』社説は、「開戦以来ドイツは民国に対して種々の画策をめぐらし、現地新聞を買収してこれを利用し同盟諸国への離間工作に努めている」と非難し、外務省も北京政府がこれら外国人記者を雇って盛んに対日ネガティブキャンペーンを展開していると分析した。
単なる既成事実の確認に過ぎなかったはずの「二十一箇条問題」をこじらせた主犯は、日・漢・英字新聞の報道合戦だ。
交渉に臨むに際して加藤外相は、ことの重大性に鑑みてあらかじめ国内主要各紙の編集主幹を集め、事情を含ませた上で報道抑制の協定を結んだ。ところが一月二十二日付の『時事新報』※1が北京発特派員電を引用するかたちで早々に協定破りを犯し、『国民新聞』も同様の記事を掲載した。
ひとたび綻びが生じるや、他社に後れを取るまいと逸るのがこの業界だ。『東京朝日新聞』は一月二十三日、号外※2を発して北京側各新聞の憤怒に火を付けた。
筆者自身は現時点で件の号外を確認できておらず、わずかに同日付の『京都日出新聞』※2の号外のみを見つけたので引用する。
※1=かつて存在した日本の新聞で、『東京日日新聞』に吸収される。現在の『時事通信社』とは縁もゆかりもない。
※2=現在の『京都新聞』の前身。
「第一 満蒙問題の解決即ち旅大の租借期限を九十九年に延長し満鉄の期限また同様ならしむること。満蒙に日本人の居住及び土地所有権を許容すること。
第二 山東問題の解決即ち支那は従来独逸に与えたる山東省関係の全権益を日本に譲与すべし。
第三 全支那に亘る要求即ち全国の要所を商工業の為に開放すること。其の場所及び数は追って定むること。全国鉄道敷設の権利及び全国河川の航行権を許容すること」
同紙はこれら三箇条の前段に「我が政府の要求はすこぶる長文にして複雑なる」と、全文を入手したかのそぶりを見せたが、少なくとも第三条は明らかにデマである。そうであれば情報の出どころが疑われる。
果たして日華どちらが先にリークをしたのか分からない。ただ東京の情報は協定があって出せないが、「北京発の情報だから」といった詭弁が横行して結局、協定は意味をなさなくなった。
すると日本側の報道に反応して北京の新聞も派手にやり出した。
なお厄介なのは日華の報道合戦が英米またはドイツ人記者たちへと伝播して、情報攪乱のタネに使われたことだった。
再度繰り返すが、「二十一箇条問題」が起こったとき、日独は依然交戦状態にあった。しかも中華民国はこの時点で「中立国」の立場を取っていたから、北京界隈には依然として公使を含むドイツ人たちが大手を振って闊歩していたのだ。
二月十三日付の『タイムズ』社説は、「開戦以来ドイツは民国に対して種々の画策をめぐらし、現地新聞を買収してこれを利用し同盟諸国への離間工作に努めている」と非難し、外務省も北京政府がこれら外国人記者を雇って盛んに対日ネガティブキャンペーンを展開していると分析した。
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