337 / 466
第二部第十三章スチムソンドクトリン
第十三章第三十一節(土地商租権)
しおりを挟む
三十一
満蒙問題の中核に挙げられるのは、「鉄道に関する権益」とされている。
満洲事変を巡る国際聯盟「十月理事会」が紛糾した際、幣原喜重郎外相が主張した日華両国間に取り極めるべき「五大綱」の中でも最も重要な項目と位置付けられた。
であるから、「二十一箇条」の交渉にいてもさぞやこれを巡る思惑が交差しただろうと思いきや、北京政府との交渉においてこの問題は終始「ハードルの低い問題」と位置付けられた。
ただこの問題は、北京と協議したことを奉天の張作霖・学良とあらためて協議し直すなど、後年の火種として残った。
中央政府と合意した約束ごとを、地方政府が履行しないとか、中央政府を名乗る勢力が複数現れるなど、二十世紀初頭にこの大陸で起こった複雑怪奇な現象は、他の近代諸国になぞらえるべきものではない。
それでも鉄道の問題はまだいい。
すでに満洲へ移り住んで生活の基盤を築こうとする日本人や日本国籍化した朝鮮人たちにとって、切実な課題は「土地」の問題だった。
すでに述べたように「二十一箇条」の交渉における満蒙問題の中心は、日本人の居住権と現地政府側の警察および徴税権にどの程度従うかであったが、極めつけは土地の「商租権」に関する問題だ。
「商租権」とは租借権の個人版と思えばよい。農業のような土地と長期にかかわる事業においては、地主にいつ契約解除を求められるか分からない状態では土地の耕作もままならない。日本側は当初、土地の所有を要求したが、北京政府が外国人による土地の所有を認めなかった。それ故、「租借期限九十九年」に等しい「永租」を求めた。
しかし、陸総長はあくまで「商租」にこだわり、その期限も「日本人に不都合の無い程度の長期間」という、漠とした答えしか与えなかった。
また日本人による農業への従事に対しては、新たに「土地章程※」を定めその制限の範囲内で許可すると主張した。こうしたやり方は総論として「許可」するが、細則のなかで実質的に禁止するという、彼らの常套手段にほかならない。
結局この話は日本側が折れて「商租」を受け入れることとなったが、その商租権ですら度たび侵害される事案が重なり、満洲事変の遠因となった。
※章程=決まりごと。おきて。
満蒙問題の中核に挙げられるのは、「鉄道に関する権益」とされている。
満洲事変を巡る国際聯盟「十月理事会」が紛糾した際、幣原喜重郎外相が主張した日華両国間に取り極めるべき「五大綱」の中でも最も重要な項目と位置付けられた。
であるから、「二十一箇条」の交渉にいてもさぞやこれを巡る思惑が交差しただろうと思いきや、北京政府との交渉においてこの問題は終始「ハードルの低い問題」と位置付けられた。
ただこの問題は、北京と協議したことを奉天の張作霖・学良とあらためて協議し直すなど、後年の火種として残った。
中央政府と合意した約束ごとを、地方政府が履行しないとか、中央政府を名乗る勢力が複数現れるなど、二十世紀初頭にこの大陸で起こった複雑怪奇な現象は、他の近代諸国になぞらえるべきものではない。
それでも鉄道の問題はまだいい。
すでに満洲へ移り住んで生活の基盤を築こうとする日本人や日本国籍化した朝鮮人たちにとって、切実な課題は「土地」の問題だった。
すでに述べたように「二十一箇条」の交渉における満蒙問題の中心は、日本人の居住権と現地政府側の警察および徴税権にどの程度従うかであったが、極めつけは土地の「商租権」に関する問題だ。
「商租権」とは租借権の個人版と思えばよい。農業のような土地と長期にかかわる事業においては、地主にいつ契約解除を求められるか分からない状態では土地の耕作もままならない。日本側は当初、土地の所有を要求したが、北京政府が外国人による土地の所有を認めなかった。それ故、「租借期限九十九年」に等しい「永租」を求めた。
しかし、陸総長はあくまで「商租」にこだわり、その期限も「日本人に不都合の無い程度の長期間」という、漠とした答えしか与えなかった。
また日本人による農業への従事に対しては、新たに「土地章程※」を定めその制限の範囲内で許可すると主張した。こうしたやり方は総論として「許可」するが、細則のなかで実質的に禁止するという、彼らの常套手段にほかならない。
結局この話は日本側が折れて「商租」を受け入れることとなったが、その商租権ですら度たび侵害される事案が重なり、満洲事変の遠因となった。
※章程=決まりごと。おきて。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる