幸せな夢を見る

５-１

　そして、その日は突然やってきた。灯りも光もない、真っ暗な部屋に音が響く。

｢アメ！　大丈夫かアメ！｣

　トイの目の前には、床に倒れ込んだアメがいる。強がりを演じるべく、ベッドから抜けた瞬間に卒倒したのだ。
　息は絶え絶えで見るからに弱りきっている。死の訪れは、時間の問題とさえ思えるほどだった。

　トイの中で事態は想定内だった。それでも動揺はしてしまうが。ただ、シュミレーションは幾度も繰り返しており、次なる行動に迷うことはなかった。

｢アメ、ごめん｣

　トイは、扉へと鋭い視線を向けた。
　
　力ないアメを抱え、向かった先は医者の家だった。幸い今は夜間で、村人は静かに眠りに付いている。ゆえに邪魔されることなく直行できた。
　扉を叩くと、すぐに医者が出てきた。

｢どうした……ってあんたっ……｣

　拒否するようにドアノブが引かれる。だが、声と腕で何とか遮った。

｢お願いだ、アメを助けてくれ。アメの無事を見届けたら俺はちゃんと消えるから。あの人の元に行って消してもらうから。お願いだ……！｣

　懸命に訴える。トイの必死さとアメの姿に、医者は戸を引く手を止めた。

｢分かった、とりあえず入りなさい｣
｢……ありがとう。じゃあ俺は外に｣

　言いながら、アメを慎重に差し出す。だが、医者は手の平で拒否した。

｢誰か来たらどうするんだ。別の部屋を貸すからそこにいなさい｣
｢……ありがとうございます｣
　
　迅速な対応と治療の甲斐もあり、アメの容態は安定した。とは言え、また夢を見ているのか寝顔は苦しそうだ。
　遠巻きに見ていたトイは、安堵と心痛を胸に医者へと告げた。

｢先生ありがとうございます。アメのこと頼みます。じゃあ俺はこれで……｣