幸せな夢を見る

有箱

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 本物の父親――トイの手記にはこうあった。
 
 "誰にも言ってないけれど、俺はある妖と通じ会うことができる。形がないから何の妖かは知らないけれど、いい妖な気がするな。
 彼自信に自我はないようだが、俺たちのことを好んでくれているというのは伝わってくる。心配のようなものもしてきたしね。"
 
 "俺が死んだ時は、母さんの隣に埋めてもらおう。けれど、それは誰に言っておけば良いんだろう。このままモタモタしてたら、共同墓地に入れられそうだな"
 
 "アメには悪いけど、父さんの体はもう持ちそうにない。だから妖にアメを任せる約束をした。アメのことを側で見ていてほしいと頼んだ。アメが幸せになれるよう、大人になれるよう、見守ってやってほしいと。

 この約束が上手く果たされているかは分からない。けれど、どうかアメが幸せに生きていればいいと思う。そして、無事に成長して大人になってくれればと願うばかりだ。"
 
「父さん、貴方は父さんとの約束を守ってただけなんでしょ」
「……俺は……」

 トイの脳内に、朧気な記憶が浮かび上がった。

 少し遠く、幸せそうな二人を眺める自分がいる。悪夢を見せているとも知らず、父親の記憶を覗き込んでは、仲間のように幸福を感じている。
 代わりになってほしいと告げられ、姿をかえた。最初に眠っているアメを撫でた。そうしてから、記憶の中にあった墓へ、息絶えた父親を埋めた。
 それから身代わりを勤め、いつしか自分が本物だと思い込んでしまっていた。

 真実を前に戸惑うのは、アメもトイも同じだった。結局、残るのは残酷な選択だけで、逃れる術も、双方が幸福な答えもない。

 だが、そんな中でも、トイは一歩早く答えを決めた。半端な終わりを迎えない為の、言葉を再び手繰り寄せる。

「アメ、俺はアメを愛している。でもきっとこれは、見ていた記憶を元にした感情にすぎないと思うんだ。それでも、全部の記憶を継いでいるからこそ言うよ。俺も、アメの本物の父さんも、アメに大人になってほしいし、幸せになってほしいと思ってる」

 トイの願いだけが場に落ちる。真剣な訴えは、アメの叫びたいほどの拒絶を封じた。唇だけが、声を失ったように震えた。

「アメ、俺たちの為に、別れを受け入れてくれないか?」
「ず、ずるい……父さんはずるい……そんな風に言われたら……嫌って」

 言えないって分かってるくせに――最後の言葉が嗚咽に覆われる。トイは日記を持ったまま、アメを力強く抱き締めた。

「ありがとう、アメ。俺は本物の父親じゃなかったけど、アメと過ごせて幸せだったよ」
 
 見計らっていたかのように、女性が扉を開いた。
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