9 / 10
6-2
しおりを挟む
本物の父親――トイの手記にはこうあった。
"誰にも言ってないけれど、俺はある妖と通じ会うことができる。形がないから何の妖かは知らないけれど、いい妖な気がするな。
彼自信に自我はないようだが、俺たちのことを好んでくれているというのは伝わってくる。心配のようなものもしてきたしね。"
"俺が死んだ時は、母さんの隣に埋めてもらおう。けれど、それは誰に言っておけば良いんだろう。このままモタモタしてたら、共同墓地に入れられそうだな"
"アメには悪いけど、父さんの体はもう持ちそうにない。だから妖にアメを任せる約束をした。アメのことを側で見ていてほしいと頼んだ。アメが幸せになれるよう、大人になれるよう、見守ってやってほしいと。
この約束が上手く果たされているかは分からない。けれど、どうかアメが幸せに生きていればいいと思う。そして、無事に成長して大人になってくれればと願うばかりだ。"
「父さん、貴方は父さんとの約束を守ってただけなんでしょ」
「……俺は……」
トイの脳内に、朧気な記憶が浮かび上がった。
少し遠く、幸せそうな二人を眺める自分がいる。悪夢を見せているとも知らず、父親の記憶を覗き込んでは、仲間のように幸福を感じている。
代わりになってほしいと告げられ、姿をかえた。最初に眠っているアメを撫でた。そうしてから、記憶の中にあった墓へ、息絶えた父親を埋めた。
それから身代わりを勤め、いつしか自分が本物だと思い込んでしまっていた。
真実を前に戸惑うのは、アメもトイも同じだった。結局、残るのは残酷な選択だけで、逃れる術も、双方が幸福な答えもない。
だが、そんな中でも、トイは一歩早く答えを決めた。半端な終わりを迎えない為の、言葉を再び手繰り寄せる。
「アメ、俺はアメを愛している。でもきっとこれは、見ていた記憶を元にした感情にすぎないと思うんだ。それでも、全部の記憶を継いでいるからこそ言うよ。俺も、アメの本物の父さんも、アメに大人になってほしいし、幸せになってほしいと思ってる」
トイの願いだけが場に落ちる。真剣な訴えは、アメの叫びたいほどの拒絶を封じた。唇だけが、声を失ったように震えた。
「アメ、俺たちの為に、別れを受け入れてくれないか?」
「ず、ずるい……父さんはずるい……そんな風に言われたら……嫌って」
言えないって分かってるくせに――最後の言葉が嗚咽に覆われる。トイは日記を持ったまま、アメを力強く抱き締めた。
「ありがとう、アメ。俺は本物の父親じゃなかったけど、アメと過ごせて幸せだったよ」
見計らっていたかのように、女性が扉を開いた。
"誰にも言ってないけれど、俺はある妖と通じ会うことができる。形がないから何の妖かは知らないけれど、いい妖な気がするな。
彼自信に自我はないようだが、俺たちのことを好んでくれているというのは伝わってくる。心配のようなものもしてきたしね。"
"俺が死んだ時は、母さんの隣に埋めてもらおう。けれど、それは誰に言っておけば良いんだろう。このままモタモタしてたら、共同墓地に入れられそうだな"
"アメには悪いけど、父さんの体はもう持ちそうにない。だから妖にアメを任せる約束をした。アメのことを側で見ていてほしいと頼んだ。アメが幸せになれるよう、大人になれるよう、見守ってやってほしいと。
この約束が上手く果たされているかは分からない。けれど、どうかアメが幸せに生きていればいいと思う。そして、無事に成長して大人になってくれればと願うばかりだ。"
「父さん、貴方は父さんとの約束を守ってただけなんでしょ」
「……俺は……」
トイの脳内に、朧気な記憶が浮かび上がった。
少し遠く、幸せそうな二人を眺める自分がいる。悪夢を見せているとも知らず、父親の記憶を覗き込んでは、仲間のように幸福を感じている。
代わりになってほしいと告げられ、姿をかえた。最初に眠っているアメを撫でた。そうしてから、記憶の中にあった墓へ、息絶えた父親を埋めた。
それから身代わりを勤め、いつしか自分が本物だと思い込んでしまっていた。
真実を前に戸惑うのは、アメもトイも同じだった。結局、残るのは残酷な選択だけで、逃れる術も、双方が幸福な答えもない。
だが、そんな中でも、トイは一歩早く答えを決めた。半端な終わりを迎えない為の、言葉を再び手繰り寄せる。
「アメ、俺はアメを愛している。でもきっとこれは、見ていた記憶を元にした感情にすぎないと思うんだ。それでも、全部の記憶を継いでいるからこそ言うよ。俺も、アメの本物の父さんも、アメに大人になってほしいし、幸せになってほしいと思ってる」
トイの願いだけが場に落ちる。真剣な訴えは、アメの叫びたいほどの拒絶を封じた。唇だけが、声を失ったように震えた。
「アメ、俺たちの為に、別れを受け入れてくれないか?」
「ず、ずるい……父さんはずるい……そんな風に言われたら……嫌って」
言えないって分かってるくせに――最後の言葉が嗚咽に覆われる。トイは日記を持ったまま、アメを力強く抱き締めた。
「ありがとう、アメ。俺は本物の父親じゃなかったけど、アメと過ごせて幸せだったよ」
見計らっていたかのように、女性が扉を開いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる