存在抹消ボタン

有箱

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第十二話

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 聞こえてくるのはテレビの音声だけだ。隣に葉月が居ないのは少しばかり寂しさを感じる。二人で居ても差ほど会話は無いのに、居ると居ないじゃ空気感が全然違った。

 半分ほど埋まった原稿用紙を、ぐちゃぐちゃにして丸める。癖のように目もくれずゴミ箱へ放ると、外れたのかコロコロと膝元に帰ってきた。視線を上げると、いっぱいになって溢れ出しそうな紙くずが目に映った。

 いざ意欲を取り戻しても、現実は甘くはなかった。納得出来る文章、構成、ストーリーが中々降ってこないのだ。所謂、今は一先ず書いているだけとの状態に陥っている。
 何度も何度も書き直した。一旦はこれで行こうと決めても、時が経つ内に冷静になるのか不足があるように感じてしまうのだ。

[という事で、テレビの前の皆さんに特別なチャンスをご用意致しました!]

 興味惹かれる謳い文句が聞こえ、画面を見ると、大きな見出しで、

¨これで貴方も存在抹消のチャンス!!¨

 と書かれていた。存在抹消ボタンが知られているこの御時勢でなければ、かなりの人が眉を潜めるだろう。番組が叩かれるのは言うまでもない。いや、既に叩かれているかもしれない。

 それ以前の内容を見ていなくとも、一見して応募内容が読み取れた。
 どうやら番組では、抽選でボタン使用者を選抜する企画をおこなっているらしい。何の利点があり行うのかははっきりと分からないが、多分、興味を引いて盛り上げようといったところだろう。

 実は最近、存在抹消ボタンへの人々の関心が薄れている。なぜなら、何時まで経っても本物か偽物かさえ分からないからだ。博士は相変わらず主張を続けているが、耳を傾ける者も随分減った。

[またと無いチャンスですよ! 今人生に困っている方! 犯罪を犯してしまいそうな方! 是非是非ご応募ください!]

 問題発言を繰り返す司会者の言葉に、表示される文字に、僕は釘付けだった。応募はサイトからおこなうらしく、サイト名が堂々公表されている。
 僕は興味の元、用紙の隅にサイト名をメモした。

 もちろん、目的は応募の為だ。しかし、死にたいからでも消えたいからでもない。人生をやり直したい願望がないわけでは無いが、押す気は全く無い。

 作家魂が燃えたのだ。この目で直接存在抹消ボタンなる物を見て、よりリアルな描写をしたい。当選者と出会えたら、応募した理由や生い立ちについてインタビューしてみたい。
 そうしたら、微々たる程度かもしれないが、クオリティの向上に繋がらないだろうか。
 そう考えた結果の選択である。

 番組が終了し次第、早速検索ツールを開き、メモしたサイト名を打ち込んだ。
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