11 / 22
第十一話
しおりを挟む
伏せた顔を上げた葉月は、目を赤くしながら笑っていた。希望を見つけた時の顔、そう表現したくなるような笑顔である。
「施設に行っても一人ぼっちで寂しくて、ずっとずっと自分なんか死んでもいいやって思ってたの。そんな時行った本屋さんで、司佐くんの小説が目に留まったの」
まだ互いの存在も知らない頃、小説を通じて僕らは出会っていた。そう考えると何だか気恥ずかしく、そして作品が尊い物に思えてくる。
葉月が見せていた悲しみは、何時の間にか笑顔に塗り潰され、淡く色を変えていた。
「その時は偶然だったよ。本は私にとって、気を紛らわす手段に過ぎなかったんだから。でも読んでみたらね、世界が開けた気がしたんだ」
誰かが批判した物語が、葉月の心には響いていた。その事実が嬉しかった。酷い過去を聞いた上で喜ぶのは間違っている気もするが、嬉しいものは嬉しいのだ。
「…………それって喜んで良いの?」
「喜んで良いに決まってるじゃん! 私はね! それから頑張ろうって思えたんだよ! 司佐くんの物語は私の心を救い出したんだよ!」
力説する葉月の目力が凄まじい。真っ直ぐこちらを見詰めてきて離さない。気恥ずかしくなり、先にそらしてしまったのは僕の方だった。
「…………ありがと、何か落選で落ち込んでるの馬鹿らしくなってきたわ……あと、いつか有名になれる気もしてきた」
軽く冗談を交えて告げると、葉月の口元が更に綻ぶのが見えた。
過去を思い出して辛くなっただろう。苦しくなっただろう。それなのに、最後は笑顔で締め括り、しかも励ましに変えてしまう葉月を僕は心の底から尊敬した。
「次はきっと大丈夫だよ! ね!」
「……よし! 頑張るか!」
意気込みを大切に、早速放置していた執筆作業に取り掛かり始めた。葉月は嬉しそうにして、本を一冊手に取った。
誰かの心には、いつかきっと届く。葉月のように、物語に救われてくれたなら嬉しい。そこまでいかなくても良い。誰かが何か大切な物を思い出してくれたら、考え方を少し変えてくれたら。
いや、少しでも、心に残らない程度でも、何かを感じてくれたなら十分だ。
次は絶対、誰かの心に残る作品を書き上げよう。
そっと決意を固め、ひたすらに文字を綴った。
「施設に行っても一人ぼっちで寂しくて、ずっとずっと自分なんか死んでもいいやって思ってたの。そんな時行った本屋さんで、司佐くんの小説が目に留まったの」
まだ互いの存在も知らない頃、小説を通じて僕らは出会っていた。そう考えると何だか気恥ずかしく、そして作品が尊い物に思えてくる。
葉月が見せていた悲しみは、何時の間にか笑顔に塗り潰され、淡く色を変えていた。
「その時は偶然だったよ。本は私にとって、気を紛らわす手段に過ぎなかったんだから。でも読んでみたらね、世界が開けた気がしたんだ」
誰かが批判した物語が、葉月の心には響いていた。その事実が嬉しかった。酷い過去を聞いた上で喜ぶのは間違っている気もするが、嬉しいものは嬉しいのだ。
「…………それって喜んで良いの?」
「喜んで良いに決まってるじゃん! 私はね! それから頑張ろうって思えたんだよ! 司佐くんの物語は私の心を救い出したんだよ!」
力説する葉月の目力が凄まじい。真っ直ぐこちらを見詰めてきて離さない。気恥ずかしくなり、先にそらしてしまったのは僕の方だった。
「…………ありがと、何か落選で落ち込んでるの馬鹿らしくなってきたわ……あと、いつか有名になれる気もしてきた」
軽く冗談を交えて告げると、葉月の口元が更に綻ぶのが見えた。
過去を思い出して辛くなっただろう。苦しくなっただろう。それなのに、最後は笑顔で締め括り、しかも励ましに変えてしまう葉月を僕は心の底から尊敬した。
「次はきっと大丈夫だよ! ね!」
「……よし! 頑張るか!」
意気込みを大切に、早速放置していた執筆作業に取り掛かり始めた。葉月は嬉しそうにして、本を一冊手に取った。
誰かの心には、いつかきっと届く。葉月のように、物語に救われてくれたなら嬉しい。そこまでいかなくても良い。誰かが何か大切な物を思い出してくれたら、考え方を少し変えてくれたら。
いや、少しでも、心に残らない程度でも、何かを感じてくれたなら十分だ。
次は絶対、誰かの心に残る作品を書き上げよう。
そっと決意を固め、ひたすらに文字を綴った。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる