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第十一話

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 伏せた顔を上げた葉月は、目を赤くしながら笑っていた。希望を見つけた時の顔、そう表現したくなるような笑顔である。

「施設に行っても一人ぼっちで寂しくて、ずっとずっと自分なんか死んでもいいやって思ってたの。そんな時行った本屋さんで、司佐くんの小説が目に留まったの」

 まだ互いの存在も知らない頃、小説を通じて僕らは出会っていた。そう考えると何だか気恥ずかしく、そして作品が尊い物に思えてくる。
 葉月が見せていた悲しみは、何時の間にか笑顔に塗り潰され、淡く色を変えていた。

「その時は偶然だったよ。本は私にとって、気を紛らわす手段に過ぎなかったんだから。でも読んでみたらね、世界が開けた気がしたんだ」

 誰かが批判した物語が、葉月の心には響いていた。その事実が嬉しかった。酷い過去を聞いた上で喜ぶのは間違っている気もするが、嬉しいものは嬉しいのだ。

「…………それって喜んで良いの?」
「喜んで良いに決まってるじゃん! 私はね! それから頑張ろうって思えたんだよ! 司佐くんの物語は私の心を救い出したんだよ!」

 力説する葉月の目力が凄まじい。真っ直ぐこちらを見詰めてきて離さない。気恥ずかしくなり、先にそらしてしまったのは僕の方だった。

「…………ありがと、何か落選で落ち込んでるの馬鹿らしくなってきたわ……あと、いつか有名になれる気もしてきた」  
 
 軽く冗談を交えて告げると、葉月の口元が更に綻ぶのが見えた。
 過去を思い出して辛くなっただろう。苦しくなっただろう。それなのに、最後は笑顔で締め括り、しかも励ましに変えてしまう葉月を僕は心の底から尊敬した。

「次はきっと大丈夫だよ! ね!」
「……よし! 頑張るか!」

 意気込みを大切に、早速放置していた執筆作業に取り掛かり始めた。葉月は嬉しそうにして、本を一冊手に取った。

 誰かの心には、いつかきっと届く。葉月のように、物語に救われてくれたなら嬉しい。そこまでいかなくても良い。誰かが何か大切な物を思い出してくれたら、考え方を少し変えてくれたら。
 いや、少しでも、心に残らない程度でも、何かを感じてくれたなら十分だ。

 次は絶対、誰かの心に残る作品を書き上げよう。
 そっと決意を固め、ひたすらに文字を綴った。
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