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有箱

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第十五話

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 消去ボタン実施日――――という名の調査日まで、残り数日になった。

 折角見に行くなら写真も撮っておきたい。そんな願望を叶える為、昨日カメラの購入を決定した。もちろん、承諾してもらえるかは当日しか分からない。

 買い物はいつも近場で済ませてしまうのだが、付近にカメラを扱う店が無く、本日は少し遠出してきている。ビルの多いこの街には、少しだけ窮屈さを覚えてしまう。
 こうして赴くのは随分と久しぶりだ。2作目の作品を持ち込みに遣って来た時が最後かもしれない。

 懐かしき風景を仰ぎながら歩いていると、久々に聞く声が降ってきた。

「高羽さんじゃないか、久しぶり。電話して以来か?」

 焦点を合わせると、軽く右手を上げる担当の姿が見えた。落選の結果が遣り取りの最後だったからか苦笑している。

「……お久しぶりです」

 極自然と、緊張感が身を包んだ。担当の口からどんな言葉が出てくるのか、癖のように構えている。持ち込みにいった時と似たような心持ちになってしまっている。

「最近どうしてる? もしかして彼女でも出来たか?」

 まるでオヤジが放つような質問に、一瞬だけ絶句してしまった。脳内に、とある人物が浮上したからだ。

「えっ、いや、出来てないっすよ……!」

 葉月だ。しかし、葉月と僕は一ファンと一作者である。尊敬や感謝はあれど、恋に似た感情を抱いた覚えは無い。きっと、想像してしまったのは身近な女性が葉月しか居なかったからだ。

「作る気は無いのか? 婚期逃すぞ?」

 面白がっているのか担当はやたらと押してくる。それが段々と恥ずかしくなってきて、ついつい会話を捻じ曲げていた。

「今、新しい作品書いてるんです。とは言え、中々納得出来るものは完成しないんですが」

 今の今まで楽しげに言葉を繰り出していた、担当の顔付きが突然変わった。少し抜けかけていた気が、反射的に引き締められる。

「……あのさ、ずっと言おうと思ってたことがあるんだが……」
「……えっと……、なんでしょうか?」

 胸騒ぎに気付かない振りをしてとぼけた。途中で撤回してくれる事を期待し鈍感な振りも決め込む。
 しかし、それは叶わなかった。

「……高羽さん、字書きには向かないと思うんだよなぁ……」

 ザクリと、言葉の棘が突き刺さった。 
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