5 / 6
いつか、たくさんの花を抱えて
あれから、僕らは逃げ続けた。
当然、戦いに巻き込まれ、怪我もした。だが、命からがら切り抜けた。
空腹などの問題もあったが、それでも諦めなかった。
一つ幸福だったのは、襲撃日を逃げ初めに充てられたことだ。あのタイミングで決めたのは正解だったらしい。
本拠地襲撃により、大体の敵兵は敷地内に目を光らせたのだろう。そのお陰で、少人数との戦闘のみで済んだのだから。
花は、もうすっかり枯れた。
だが、心に灯った残像だけで、僕らには充分だった。
「どのくらい歩いたかしら……」
か細い声でアルルテが呟く。繋いだ手は温かく、少し乾燥としていた。
「随分遠くまで来たよ。この景色が証拠さ」
朝夕を何度繰り返しただろう。満足に食料も得られない中、精神力だけで突き進んできた。
その結果が、今目の前にある。
「植物って、葉だけでも綺麗なのね」
「そうだね、こんなに綺麗な景色は初めて見たよ」
枯木だらけの地から一変、辺り一面に鮮やかな緑が広がっている。大木や草木が入り乱れた、ジャングルのような土地だ。
最初に草を見つけた時は、大いに感動した。それが進むに連れて徐々に増え、ここまで来た。
景色を目に映し、空気を吸い込む。爽やかさが、逃亡の成功を感じさせた。
アルルテは腹を擦り、採った木の実を見つめている。数秒吟味し口に放り込んだが、苦かったのか顔を顰めた。小さく笑ってしまった。
「アルルテ、僕少し先へ行ってみるね」
「分かったわ」
僕は僕で探そうと、少しだけ前進する。高い草を掻き分けて、未知の場所へと進んだ。
ふと、視界の端に色が過ぎった。吸われるように目を向けると、驚くべき光景が広がっていた。
「アルルテ! アルルテ来て!」
景色から目が離せないまま、声だけを張り上げた。心が震える。表現し得ない感動が、形となり瞳から零れた。
「どうしたの? 何か……」
何も知らないアルルテがやって来る。だが、同じ場所を見たのだろう。声が消えた。
左目に姿が映る。やや視線を動かすと、アルルテも泣いていると分かった。瞳から、目に見えるほどの涙が溢れている。
見つけたのは、一面黄色の花畑だった。
「綺麗……」
「うん、こんなに綺麗な景色は初めて見たよ……」
「それ、さっきも言ってたわ」
「言ってたね」
向き合うと、勝手に笑顔が零れてきた。これまで感じたことのない幸福感に、全身が包まれている。
「でも、本当にそうね」
アルルテが、ゆっくりと歩き出した。僕も真似して踏み出す。
二人して、花に触れられる距離まで近付いた。
「夢、叶ったわ。ありがとうニイチ」
アルルテが屈み、優しく花びらを撫でだした。揺れる花も、何だか嬉しそうに見える。
「ううん、僕こそありがとう。君がいてくれなきゃ、ここまで来られなかったよ」
眺め始めて数秒、アルルテが茎に手を添えた。優しく手折り、一輪だけ摘む。
そうして立ち上がり、僕へと差し出した。
「あげる」
「ありがとう」
受け取り、目の前に寄せる。仄かな香りが鼻先を掠めた。
「実はこの花、ニイチにあげたかった花なの。って言っても、これも名前が難しくて忘れちゃったんだけど」
「いつかに言ってた花?」
確か、逃亡を決めた日、そのようなことを話していた。現実になるなんて、あの時は考えすらしなかったけど。
「そうよ、覚えてくれてたのね。この花、どんな名前だったかしら……」
「いつか、知った時に教えてくれればいいよ。それよりも聞いていい?」
「うん」
君の夢が、一輪の花が、僕らを未来へと繋いだ。
もしかするとあの時、光の下で花が何かを伝えてくれたのかもしれない。
少し温かな風が吹いて、アルルテの髪を揺らした。花々も、僕らを祝うように揺れだす。
「この花の心は?」
いつか僕も、花に乗せて君に返そう。
当然、戦いに巻き込まれ、怪我もした。だが、命からがら切り抜けた。
空腹などの問題もあったが、それでも諦めなかった。
一つ幸福だったのは、襲撃日を逃げ初めに充てられたことだ。あのタイミングで決めたのは正解だったらしい。
本拠地襲撃により、大体の敵兵は敷地内に目を光らせたのだろう。そのお陰で、少人数との戦闘のみで済んだのだから。
花は、もうすっかり枯れた。
だが、心に灯った残像だけで、僕らには充分だった。
「どのくらい歩いたかしら……」
か細い声でアルルテが呟く。繋いだ手は温かく、少し乾燥としていた。
「随分遠くまで来たよ。この景色が証拠さ」
朝夕を何度繰り返しただろう。満足に食料も得られない中、精神力だけで突き進んできた。
その結果が、今目の前にある。
「植物って、葉だけでも綺麗なのね」
「そうだね、こんなに綺麗な景色は初めて見たよ」
枯木だらけの地から一変、辺り一面に鮮やかな緑が広がっている。大木や草木が入り乱れた、ジャングルのような土地だ。
最初に草を見つけた時は、大いに感動した。それが進むに連れて徐々に増え、ここまで来た。
景色を目に映し、空気を吸い込む。爽やかさが、逃亡の成功を感じさせた。
アルルテは腹を擦り、採った木の実を見つめている。数秒吟味し口に放り込んだが、苦かったのか顔を顰めた。小さく笑ってしまった。
「アルルテ、僕少し先へ行ってみるね」
「分かったわ」
僕は僕で探そうと、少しだけ前進する。高い草を掻き分けて、未知の場所へと進んだ。
ふと、視界の端に色が過ぎった。吸われるように目を向けると、驚くべき光景が広がっていた。
「アルルテ! アルルテ来て!」
景色から目が離せないまま、声だけを張り上げた。心が震える。表現し得ない感動が、形となり瞳から零れた。
「どうしたの? 何か……」
何も知らないアルルテがやって来る。だが、同じ場所を見たのだろう。声が消えた。
左目に姿が映る。やや視線を動かすと、アルルテも泣いていると分かった。瞳から、目に見えるほどの涙が溢れている。
見つけたのは、一面黄色の花畑だった。
「綺麗……」
「うん、こんなに綺麗な景色は初めて見たよ……」
「それ、さっきも言ってたわ」
「言ってたね」
向き合うと、勝手に笑顔が零れてきた。これまで感じたことのない幸福感に、全身が包まれている。
「でも、本当にそうね」
アルルテが、ゆっくりと歩き出した。僕も真似して踏み出す。
二人して、花に触れられる距離まで近付いた。
「夢、叶ったわ。ありがとうニイチ」
アルルテが屈み、優しく花びらを撫でだした。揺れる花も、何だか嬉しそうに見える。
「ううん、僕こそありがとう。君がいてくれなきゃ、ここまで来られなかったよ」
眺め始めて数秒、アルルテが茎に手を添えた。優しく手折り、一輪だけ摘む。
そうして立ち上がり、僕へと差し出した。
「あげる」
「ありがとう」
受け取り、目の前に寄せる。仄かな香りが鼻先を掠めた。
「実はこの花、ニイチにあげたかった花なの。って言っても、これも名前が難しくて忘れちゃったんだけど」
「いつかに言ってた花?」
確か、逃亡を決めた日、そのようなことを話していた。現実になるなんて、あの時は考えすらしなかったけど。
「そうよ、覚えてくれてたのね。この花、どんな名前だったかしら……」
「いつか、知った時に教えてくれればいいよ。それよりも聞いていい?」
「うん」
君の夢が、一輪の花が、僕らを未来へと繋いだ。
もしかするとあの時、光の下で花が何かを伝えてくれたのかもしれない。
少し温かな風が吹いて、アルルテの髪を揺らした。花々も、僕らを祝うように揺れだす。
「この花の心は?」
いつか僕も、花に乗せて君に返そう。
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。