愛しの王様は平和を願っている

有箱

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【最終話】誰も苦しまない世界へ【4/4】

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 放射状に広がっていく光の粒は、空間を侵食しはじめました。星の海になり、空も土も一体にしてしまいます。

「……本当に、本当にありがとう。フェア。皆を救えて良かった……」

 王様の微笑みが、海より深く心へ刺さりました。真の願いが目の前で輝き、涙が星に混ざります。

「いいえ、王様……いいえ」

 美しい赤色の四つ目が、そっと閉じられます。艶めいた柔らかな黒い体毛や、私の何倍も長い四肢。それから、真っ白な唇も。
 全てを今一度、海馬に焼き付けていきます。

『姿形が違うだけで、君と僕は同じなはずだから』

 手を差し伸べて下さった時の、言葉が脳に響きます。死にたくないと叫んだ私に、王様は優しく微笑んでくださいました。

『魔王だって、その国民だって、中身は僕たちと同じなんだ。それを分かってくれればいいのにね』

 いつかに王様は、そう言っておられましたね。戦いを仕掛け、生活を壊し、最後まで見逃してくれなかった彼らなのに。

 今、チュキ国は酷く廃れています。貧困に泣き、同族を食い、兵器だけが立派な国へと没落してしまいました。
 このまま放っておけば、彼らは苦しみ抜いて滅びるでしょう。

 ですが王様は、そんな彼らも見捨てたりされませんでした。結局、最後まで変わらずに。

『誰一人として苦しまない。きっと、そんな世界こそ平和だ。そうでしょう? フェア』
 
 王様の体が、光に砕かれていきます。積み上がった瓦礫も、自然も、私も、同じようにして散り散りになっていきました。
 経験のない幸福が、数十秒の中にはありました。

 もう誰も苦しまない世界を――願いを乗せて、光は両国を飲み込むでしょう。
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