檻から逃げる

有箱

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問いかけ

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 硬直――からの絶句。脳内はフリーズし、ただ唖然としてしまう。
 なぜ、こうなるに至ったのか、発端は数秒前の一言だった。
 
「丹羽さんさ、死ぬまでにしたいことってある?」 
 
 尋ねてきたのは、隣席の名越くんだ。興味津々でも笑顔でもなく、至って普通の顔で尋ねてきた。昼休みに突入し、給食に手を付けようとした直後の出来事だった。

 なぜ硬直したのか。最大の理由は、彼とは一切の交友がなかったからだ。

 なのに、脈絡もなしにあんな問いを掛けられたら、普通は戸惑うだろう。なんて、友と言う存在を知らない私に、実際のことは分からないが。

 私の性格が内気で引っ込み思案だから――ではないと思いたい。

 不意に笑った名越くんは、戸惑いなど知らず答えを待機し始めた。抱いていた印象と違いすぎて、困惑が加速する。

 なぜ、こんな私に突然話しかけてきたのだろう。
 友達になりたかったから。なんて有り得ないよね。だって、もう三年の一月だし。
 
 ただ、理由はどうあれ無視するのは申し訳ない。ゆえに、一旦答える方に意識を向けた。
 ただ、回答自体に迷いはなかった。なぜなら、明確に持っているからだ。

 しかし、恐らく一般的な答えではないだろう。だから、正直声にするのに躊躇いもあった。
 そもそも、私は会話が酷く苦手なのだ。返事一つで緊張してしまう程には。
 
「……変な答えでも良いですか」
「聞きたい」 
「……お、お友達と遊びに行ってみたいです……」
 
 以前からの憧れを、控えめに言い切る。同時に湧いた羞恥心で、視線が下がった。
 こんな答え、変だと思われただろう。声かけを後悔されたかもしれない。

 だが、反応は予想と違っていた。にっこりと笑い、会話を続けてきたのだ。
 
「世界旅行とか?」
 
 掘り下げて来るとは思わず、狼狽えてしまう。やはり、私の憧れは普通ではないのだろう。
 気の効いた台詞を探したが、やっぱり何も出てこない。故に、率直に返事する他なかった。
 
「……いえ、近場で良いんです。ただお洒落して、ご飯を食べたり買い物したり……」
 
 今度こそ変人だと思われただろう。案の定、彼の表情も不思議そうだ。ふーんとでも言うような顔をしている。

 会話の切り方が分からず、ただ名越くんと給食を交互に見た。そんな戸惑いを察してか、彼は再び笑う。
 
「じゃあ遊ぼ」
「えっ?」
「丹羽さんのしたいこと、俺に手伝わせてよ」
 
 加えてこれだ。本当によく分からない。

 純粋に答えはノーだろう。第一に"相手を知らない者同士が突然遊ぶものか"との疑問が。第二に、そう答えざるを得ない家庭事情が。あとは、遊んでも気を使わせるだけだとか、そんなような理由が何個も上がった。

 ただ、一切の肯定がない訳ではない。多くの理由に圧され、追いやるしかなかっただけだ。

「……でも私、放課後は塾がありますし、休日は家庭教師が来ますので時間が……」

 第二理由の事情がこれだ。予定が多く、遊べるだけの纏まった時間が取れないのだ。
 学力重視の家庭ゆえ、幼い頃から優秀さを求められてきた。窮屈だが、言い出せもせず諦めている。

 成す術がないと悟ったのか、名越くんはやや苦い顔をした。だが直ぐに解け、真剣な眼差しが向けられる。視線を合わせられ、ドキッとした。

「それって、時間があれば良いってことだよね?」
「……まぁ、家族に交渉を強いられなければ……」

 心の奥で燻っていた感情が、曖昧な返答を作り出す。きっぱり否定した方が、この先困らないのに。
 しかし、名越くんの口調は、確信の元に声を作ったと見えた。そんな彼の、時間を作る魔法を見たくなったのかもしれない。

「俺に良い案があるんだけど」

 深い笑みを飾った彼の提案に、私はまたも絶句した。
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