檻から逃げる

有箱

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約束とはじまり

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『決行は明日、朝九時に銀道商店街入り口で』

 ベッドの中にて、声が脳内を巡る。いつもならすんなり眠れるのに、今日は大苦戦だ。
 原因は分かりきっている。名越くんとの約束のせいだ。
 
 彼の提示した魔法は、シンプルなものだった。
 放課後と休日に予定があるなら、授業をサボってしまえばいいよ、なんて。

 確かに、進路が決まっている生徒に関しては、自由登校が認められている。しかし、私は該当しなかった。寧ろ、今が正念場だ。

 だが、そんなことは関係ない。あの勢いに対処できる饒舌さも、否定する勇気も私にはないのだ。結局私は与えられた行動しかできない人間なのだ。
 ああ、明日が思いやられる。
 
 にしても、名越くんがあんな性格だなんて吃驚だ。
 印象としては大人しくて無口――私と似たような人間だと思っていたのに。

 目にしていた彼は、教科書をぼんやりと見つめる人で。先生に怒られながら俯く人で。給食の人参に苦戦する人で。兎に角、あまり明るい人ではなかった。

 だから、あんな風に笑いかけられて、気軽に声をかけられて、今でも驚きが隠せない。

 唐突な声かけの理由は、結局一ミリも分かっていない。
 ただ、もし自分が同じ行動を取るならば、それは己の中で何かが起こった時だ。例えば、自分改革を決意するとか。

 ――私が彼の誘いを完全否定できなかったのも、もしかすると変化を望んだからかもしれない。
 
 明日の行動を、シュミレーションしてみる。ふと、名越くんの笑顔が降ってきた。
 怖いな。でも、すっごく楽しかったらどうしよう。
 初めて色の違う不安が過ぎり、首を横振りした。



 商店街は、電車にて約三十分で着く。有名な観光スポットだと、女生徒が話しているのを聞いた。

 ただ、足を運ぶのは初めてだ。学校と反対方面に位置しており、通りすぎることも無かった。

 名越くんに指示されていた通り、いつもの時間に家を出る。服装は悩み抜いて制服で来た。もちろん、ロングコートに隠れると計算した上での妥協だ。普段と違う姿で、家族に悟られたくない心理もある。

 電車に乗るのにも勇気が要った。意外にも、制服で同車両に乗る人間が多かった為、何とか乗車出来たが。
 これが一人反対車両になんて、絶対に出来なかっただろう。
 
 席に座り、一息つく。控えめに辺りを見たが、知人はいなかった。
 携帯を見たり景色を見たりと、各々が自由に過ごしている。他者を気にしている人などいないように見えた。

 窓向こうに目を向けてみる。流れて行く景色は、地元感はあれど何もかもが違った。
 鼓動が早まる。けれど、これは不安だけが齎すものじゃない。
 
 私は今、嘗てないほどに高揚している。
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