3 / 7
デート
しおりを挟む
「おはよう、丹羽さん」
集合場所にて、前から挨拶され驚く。私服を纏っており、先着に気付かなかった。
来慣れているのだろうか、堂々とした佇まいだ。
「お、おはようございます……名越さん」
「碧音《あおと》で良いよ。えっと」
「あかりです」
こうして紹介しあうと、改めてお互い何も知らないのだと実感する。そんな相手と、未知の場にいるなんて妙な気分だ。
「来てくれてありがとう。実は来ないかもって思ってたんだ」
「……そ、そうですか」
「どこから回りたい? 大抵の店はあると思うけど」
「よ、よく分からないので」
性格に知識不足と緊張が加わり、面白味のない返事を生む。危惧していた事柄が早速現実になってしまった。だが、
「そっか、じゃあ……」
手を取られ、軽く引かれる。初めての経験に、小さく胸が鳴った。
*
辿り着いた先は、商店街の一角だ。
「服屋さん?」
「うん、いつもと同じ格好に見えたから。もしかしたら制服なんじゃないかと」
「……実は」
どうやら、気付かれていたらしい。目敏いのか、ただ分かりやすかっただけか考えてしまう。
「好きな服ある? 俺買うよ」
しかし、切り出され思考は飛んだ。
「えっ、いいです! 申し訳ないですし、このままで」
「大丈夫、お金はあるよ。寧ろ使いたい気分なんだ」
名越くんは、鞄を軽く叩き、中の財布を主張する。豪邸にでも住んでいるのだろうか――いや、家庭事情は関係ない。
「で、でも駄目です、お返し出来ませんし、家族に見られても困るので」
「あ、そうか。それならやめた方がいいね。じゃあ、他の所で奢らせて」
「えっ、でも私たち……えっと」
それほど親しい関係ではないのに、と言いたくて迷った。どう表現するのが望ましいか、悩んでしまう。
答えを固める私と対照的に、名越くんはキョトンとする。だが、心情を察知したのか急にハッとした。
「ごめん、一日デートの感覚で来てた!」
そしてこれだ。反射的に頬が赤らんだ。そんな私を見てか、決まり悪そうに目を反らす。
「あかりさんが良かったらだけど、デートしない?」
誘われ、頭が真っ白になった。硬直し、絶句の流れが再び起こる。
しかし、何かは答えねばと、素直な回答をぶつけた。
「お、お友達からでお願いします!」
どうしてか、苦笑いされたけど。
数秒して、可笑しな返答だったと自覚する。また、やらかしてしまった。
羞恥で声を失う。俯きながら打破の一手を考えていると、先手が打たれた。
「じゃあ、友達になろう! 友達ってデートより何するか分かんないけど」
「……ア、アドレス交換とかですか?」
即興で応対し、またズレを自覚する。名越くんは一瞬ポカンとし、良いねと笑った。
眩しい笑顔に、焦っていた心がほぐれる。
電話帳にあるのは、家族や塾関係者のアドレスのみだ。
だから、初めて友人の番号が入り、心が暖かくなった。嬉しくて、勝手に笑みまで溢れた。
*
名越くんは、とても素敵な人だ。不器用な私にも上手く対応してくれて、よく笑い、優しさもある。
そのせいか、感じていた距離は思う以上に早く縮み、私達は色々な場所を回った。まるで本物の友人のように。
新鮮な世界は、煌めいていた。
集合場所にて、前から挨拶され驚く。私服を纏っており、先着に気付かなかった。
来慣れているのだろうか、堂々とした佇まいだ。
「お、おはようございます……名越さん」
「碧音《あおと》で良いよ。えっと」
「あかりです」
こうして紹介しあうと、改めてお互い何も知らないのだと実感する。そんな相手と、未知の場にいるなんて妙な気分だ。
「来てくれてありがとう。実は来ないかもって思ってたんだ」
「……そ、そうですか」
「どこから回りたい? 大抵の店はあると思うけど」
「よ、よく分からないので」
性格に知識不足と緊張が加わり、面白味のない返事を生む。危惧していた事柄が早速現実になってしまった。だが、
「そっか、じゃあ……」
手を取られ、軽く引かれる。初めての経験に、小さく胸が鳴った。
*
辿り着いた先は、商店街の一角だ。
「服屋さん?」
「うん、いつもと同じ格好に見えたから。もしかしたら制服なんじゃないかと」
「……実は」
どうやら、気付かれていたらしい。目敏いのか、ただ分かりやすかっただけか考えてしまう。
「好きな服ある? 俺買うよ」
しかし、切り出され思考は飛んだ。
「えっ、いいです! 申し訳ないですし、このままで」
「大丈夫、お金はあるよ。寧ろ使いたい気分なんだ」
名越くんは、鞄を軽く叩き、中の財布を主張する。豪邸にでも住んでいるのだろうか――いや、家庭事情は関係ない。
「で、でも駄目です、お返し出来ませんし、家族に見られても困るので」
「あ、そうか。それならやめた方がいいね。じゃあ、他の所で奢らせて」
「えっ、でも私たち……えっと」
それほど親しい関係ではないのに、と言いたくて迷った。どう表現するのが望ましいか、悩んでしまう。
答えを固める私と対照的に、名越くんはキョトンとする。だが、心情を察知したのか急にハッとした。
「ごめん、一日デートの感覚で来てた!」
そしてこれだ。反射的に頬が赤らんだ。そんな私を見てか、決まり悪そうに目を反らす。
「あかりさんが良かったらだけど、デートしない?」
誘われ、頭が真っ白になった。硬直し、絶句の流れが再び起こる。
しかし、何かは答えねばと、素直な回答をぶつけた。
「お、お友達からでお願いします!」
どうしてか、苦笑いされたけど。
数秒して、可笑しな返答だったと自覚する。また、やらかしてしまった。
羞恥で声を失う。俯きながら打破の一手を考えていると、先手が打たれた。
「じゃあ、友達になろう! 友達ってデートより何するか分かんないけど」
「……ア、アドレス交換とかですか?」
即興で応対し、またズレを自覚する。名越くんは一瞬ポカンとし、良いねと笑った。
眩しい笑顔に、焦っていた心がほぐれる。
電話帳にあるのは、家族や塾関係者のアドレスのみだ。
だから、初めて友人の番号が入り、心が暖かくなった。嬉しくて、勝手に笑みまで溢れた。
*
名越くんは、とても素敵な人だ。不器用な私にも上手く対応してくれて、よく笑い、優しさもある。
そのせいか、感じていた距離は思う以上に早く縮み、私達は色々な場所を回った。まるで本物の友人のように。
新鮮な世界は、煌めいていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる