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デート
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「おはよう、丹羽さん」
集合場所にて、前から挨拶され驚く。私服を纏っており、先着に気付かなかった。
来慣れているのだろうか、堂々とした佇まいだ。
「お、おはようございます……名越さん」
「碧音《あおと》で良いよ。えっと」
「あかりです」
こうして紹介しあうと、改めてお互い何も知らないのだと実感する。そんな相手と、未知の場にいるなんて妙な気分だ。
「来てくれてありがとう。実は来ないかもって思ってたんだ」
「……そ、そうですか」
「どこから回りたい? 大抵の店はあると思うけど」
「よ、よく分からないので」
性格に知識不足と緊張が加わり、面白味のない返事を生む。危惧していた事柄が早速現実になってしまった。だが、
「そっか、じゃあ……」
手を取られ、軽く引かれる。初めての経験に、小さく胸が鳴った。
*
辿り着いた先は、商店街の一角だ。
「服屋さん?」
「うん、いつもと同じ格好に見えたから。もしかしたら制服なんじゃないかと」
「……実は」
どうやら、気付かれていたらしい。目敏いのか、ただ分かりやすかっただけか考えてしまう。
「好きな服ある? 俺買うよ」
しかし、切り出され思考は飛んだ。
「えっ、いいです! 申し訳ないですし、このままで」
「大丈夫、お金はあるよ。寧ろ使いたい気分なんだ」
名越くんは、鞄を軽く叩き、中の財布を主張する。豪邸にでも住んでいるのだろうか――いや、家庭事情は関係ない。
「で、でも駄目です、お返し出来ませんし、家族に見られても困るので」
「あ、そうか。それならやめた方がいいね。じゃあ、他の所で奢らせて」
「えっ、でも私たち……えっと」
それほど親しい関係ではないのに、と言いたくて迷った。どう表現するのが望ましいか、悩んでしまう。
答えを固める私と対照的に、名越くんはキョトンとする。だが、心情を察知したのか急にハッとした。
「ごめん、一日デートの感覚で来てた!」
そしてこれだ。反射的に頬が赤らんだ。そんな私を見てか、決まり悪そうに目を反らす。
「あかりさんが良かったらだけど、デートしない?」
誘われ、頭が真っ白になった。硬直し、絶句の流れが再び起こる。
しかし、何かは答えねばと、素直な回答をぶつけた。
「お、お友達からでお願いします!」
どうしてか、苦笑いされたけど。
数秒して、可笑しな返答だったと自覚する。また、やらかしてしまった。
羞恥で声を失う。俯きながら打破の一手を考えていると、先手が打たれた。
「じゃあ、友達になろう! 友達ってデートより何するか分かんないけど」
「……ア、アドレス交換とかですか?」
即興で応対し、またズレを自覚する。名越くんは一瞬ポカンとし、良いねと笑った。
眩しい笑顔に、焦っていた心がほぐれる。
電話帳にあるのは、家族や塾関係者のアドレスのみだ。
だから、初めて友人の番号が入り、心が暖かくなった。嬉しくて、勝手に笑みまで溢れた。
*
名越くんは、とても素敵な人だ。不器用な私にも上手く対応してくれて、よく笑い、優しさもある。
そのせいか、感じていた距離は思う以上に早く縮み、私達は色々な場所を回った。まるで本物の友人のように。
新鮮な世界は、煌めいていた。
集合場所にて、前から挨拶され驚く。私服を纏っており、先着に気付かなかった。
来慣れているのだろうか、堂々とした佇まいだ。
「お、おはようございます……名越さん」
「碧音《あおと》で良いよ。えっと」
「あかりです」
こうして紹介しあうと、改めてお互い何も知らないのだと実感する。そんな相手と、未知の場にいるなんて妙な気分だ。
「来てくれてありがとう。実は来ないかもって思ってたんだ」
「……そ、そうですか」
「どこから回りたい? 大抵の店はあると思うけど」
「よ、よく分からないので」
性格に知識不足と緊張が加わり、面白味のない返事を生む。危惧していた事柄が早速現実になってしまった。だが、
「そっか、じゃあ……」
手を取られ、軽く引かれる。初めての経験に、小さく胸が鳴った。
*
辿り着いた先は、商店街の一角だ。
「服屋さん?」
「うん、いつもと同じ格好に見えたから。もしかしたら制服なんじゃないかと」
「……実は」
どうやら、気付かれていたらしい。目敏いのか、ただ分かりやすかっただけか考えてしまう。
「好きな服ある? 俺買うよ」
しかし、切り出され思考は飛んだ。
「えっ、いいです! 申し訳ないですし、このままで」
「大丈夫、お金はあるよ。寧ろ使いたい気分なんだ」
名越くんは、鞄を軽く叩き、中の財布を主張する。豪邸にでも住んでいるのだろうか――いや、家庭事情は関係ない。
「で、でも駄目です、お返し出来ませんし、家族に見られても困るので」
「あ、そうか。それならやめた方がいいね。じゃあ、他の所で奢らせて」
「えっ、でも私たち……えっと」
それほど親しい関係ではないのに、と言いたくて迷った。どう表現するのが望ましいか、悩んでしまう。
答えを固める私と対照的に、名越くんはキョトンとする。だが、心情を察知したのか急にハッとした。
「ごめん、一日デートの感覚で来てた!」
そしてこれだ。反射的に頬が赤らんだ。そんな私を見てか、決まり悪そうに目を反らす。
「あかりさんが良かったらだけど、デートしない?」
誘われ、頭が真っ白になった。硬直し、絶句の流れが再び起こる。
しかし、何かは答えねばと、素直な回答をぶつけた。
「お、お友達からでお願いします!」
どうしてか、苦笑いされたけど。
数秒して、可笑しな返答だったと自覚する。また、やらかしてしまった。
羞恥で声を失う。俯きながら打破の一手を考えていると、先手が打たれた。
「じゃあ、友達になろう! 友達ってデートより何するか分かんないけど」
「……ア、アドレス交換とかですか?」
即興で応対し、またズレを自覚する。名越くんは一瞬ポカンとし、良いねと笑った。
眩しい笑顔に、焦っていた心がほぐれる。
電話帳にあるのは、家族や塾関係者のアドレスのみだ。
だから、初めて友人の番号が入り、心が暖かくなった。嬉しくて、勝手に笑みまで溢れた。
*
名越くんは、とても素敵な人だ。不器用な私にも上手く対応してくれて、よく笑い、優しさもある。
そのせいか、感じていた距離は思う以上に早く縮み、私達は色々な場所を回った。まるで本物の友人のように。
新鮮な世界は、煌めいていた。
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