檻から逃げる

有箱

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デート

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「おはよう、丹羽さん」

 集合場所にて、前から挨拶され驚く。私服を纏っており、先着に気付かなかった。
 来慣れているのだろうか、堂々とした佇まいだ。

「お、おはようございます……名越さん」
「碧音《あおと》で良いよ。えっと」
「あかりです」

 こうして紹介しあうと、改めてお互い何も知らないのだと実感する。そんな相手と、未知の場にいるなんて妙な気分だ。

「来てくれてありがとう。実は来ないかもって思ってたんだ」
「……そ、そうですか」
「どこから回りたい? 大抵の店はあると思うけど」
「よ、よく分からないので」

 性格に知識不足と緊張が加わり、面白味のない返事を生む。危惧していた事柄が早速現実になってしまった。だが、

「そっか、じゃあ……」

 手を取られ、軽く引かれる。初めての経験に、小さく胸が鳴った。



 辿り着いた先は、商店街の一角だ。

「服屋さん?」
「うん、いつもと同じ格好に見えたから。もしかしたら制服なんじゃないかと」
「……実は」

 どうやら、気付かれていたらしい。目敏いのか、ただ分かりやすかっただけか考えてしまう。

「好きな服ある? 俺買うよ」

 しかし、切り出され思考は飛んだ。

「えっ、いいです! 申し訳ないですし、このままで」
「大丈夫、お金はあるよ。寧ろ使いたい気分なんだ」

 名越くんは、鞄を軽く叩き、中の財布を主張する。豪邸にでも住んでいるのだろうか――いや、家庭事情は関係ない。

「で、でも駄目です、お返し出来ませんし、家族に見られても困るので」
「あ、そうか。それならやめた方がいいね。じゃあ、他の所で奢らせて」
「えっ、でも私たち……えっと」

 それほど親しい関係ではないのに、と言いたくて迷った。どう表現するのが望ましいか、悩んでしまう。

 答えを固める私と対照的に、名越くんはキョトンとする。だが、心情を察知したのか急にハッとした。

「ごめん、一日デートの感覚で来てた!」

 そしてこれだ。反射的に頬が赤らんだ。そんな私を見てか、決まり悪そうに目を反らす。

「あかりさんが良かったらだけど、デートしない?」

 誘われ、頭が真っ白になった。硬直し、絶句の流れが再び起こる。
 しかし、何かは答えねばと、素直な回答をぶつけた。

「お、お友達からでお願いします!」

 どうしてか、苦笑いされたけど。
 数秒して、可笑しな返答だったと自覚する。また、やらかしてしまった。

 羞恥で声を失う。俯きながら打破の一手を考えていると、先手が打たれた。

「じゃあ、友達になろう! 友達ってデートより何するか分かんないけど」
「……ア、アドレス交換とかですか?」

 即興で応対し、またズレを自覚する。名越くんは一瞬ポカンとし、良いねと笑った。
 眩しい笑顔に、焦っていた心がほぐれる。

 電話帳にあるのは、家族や塾関係者のアドレスのみだ。
 だから、初めて友人の番号が入り、心が暖かくなった。嬉しくて、勝手に笑みまで溢れた。 



 名越くんは、とても素敵な人だ。不器用な私にも上手く対応してくれて、よく笑い、優しさもある。

 そのせいか、感じていた距離は思う以上に早く縮み、私達は色々な場所を回った。まるで本物の友人のように。

 新鮮な世界は、煌めいていた。
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