そのテノヒラは命火を絶つ

有箱

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二日目

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 ベッドの中に居ながらも、なんだか息苦しい。
 しかし、それは常々ある事で特別な状態ではなく、泉深はナースコールを見詰めながら横たわっていた。

 そんな時、突如涼しげな風が吹き込んできた。
 開けた覚えのない窓を無意識の内に振り向き見たが、覚え通り窓は1ミリも開いていない。
 怪奇現象に自然と眉を顰め、辺りを窺いながらもシーツの中に隠れようとすると、

「…………辛そうね」

 透明な女性の声が、耳の内に響いた。

「……えっ」

 目を疑う。スライド扉の直ぐ手前、先程まで確かに誰も居なかった場所に人が立っていたのだ。
 しかし、泉深はそれが人間では無いと直ぐ理解した。

「……どなたですか……?」

 全身を黒で覆った短髪の美しい女性は、大きなダイヤ型のピアスに黒い爪、そして鋭い八重歯に黒い悪魔の羽を持っていたのだ。
 しかし、そんな印象の強い見栄えに比例し、存在感が空気のように無い。

「……ちっとも驚かないのね、つまらない……」

 彼女は、クリアな声と容姿からは想像も出来ない台詞を落とすと、続けざまに耳を疑う単語を繋げた。

「私は死神、貴方に良い事を伝えに来たわ」

 泉深は唖然とした物の、驚きはしなかった。自分が見ている物が幻覚でも本物でも、どうでも良いとさえ思ってしまっていた。

「……本当につまらない子ね……信じていないのかしら?」
「……まぁ、そうですね……」
「じゃあ人では無い証拠から見せようかしら?」

 自称死神は不敵な笑みを湛えると、得意げに耳から落ちた髪を掻き上げる。

夕頼ゆうより泉深、16歳、血液型はA型、家族構成は父母弟、心臓病が発覚したのは5歳の時で、それ以降この病院でずっとお世話になっている、好きな食べ物は―――」

 次々と個人情報を羅列する死神に、さすがに訝しさを覚えた物の、驚きは一向に湧かなかった。
 死神は呆れた顔で、あからさまな溜め息を零す。

「まぁ、こんなの知っている人は知っているわよね。これが本当の死神の力よ」

 足音一つ無く、浮遊するかのように動き出した死神は、そっと指先を伸ばすと軽く腕に触れた。
 その瞬間、悪寒が体内を走り、嘔吐してしまった。
しかも一度だけではなく、何度もだ。気持ち悪さが抜けずに、その場で蹲る。

 その時やっと、情報を読む能力ごと本物だと悟った。



 目を覚ますと、目の前に弟が居た。心配そうにこちらを見ている。

「お兄ちゃん大丈夫……?」

 弟の名は湊翔みなとと言い、一つ年の離れた弟だ。
 湊翔はいつも、学校が終わると直ぐ来てくれる。そして休日は一日中寄り添い、気持ちを和ます話をしてくれた。
 自由の時間を、全て自分に宛ててくれているのだ。

「……大丈夫、ごめん」
「ううん、でも吃驚したよ……昨日からずっと起きないんだもん、本当にもう平気?」
「……うん……」

 自分が長い時間眠っていたと知り、泉深は湧きあがる恐怖を覚えた。
 不自然にならないよう、何気なく湊翔の後ろを見遣ったが、そこには誰も居なかった。
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