3 / 18
三日目
しおりを挟む
気掛かりは多数存在したが、笑顔を見せる湊翔の前で思案に浸る訳にも行かず、普段通り他愛ない話をした。
その際、「いつもごめんね」と何度も言いそうになったが堪えた。
湊翔は受験生だ。学校では受験ムードが漂っており、毎日皆ピリピリとしているという。その空気が苦手だと、彼は笑って話をする。
近場の高校は偏差値が高く、難関だと以前話していた。しかし、近場に行って両親の経済負担を軽くし、なるべく多くを治療費に宛てたいとも言っていた。
自分の為に、彼がどれほどの物を犠牲にし、労力を費やしてきたのか、考えれば考えるほど胸が痛くなる。
そんな彼は、余命の事を知っているのだろうか。
あの後、両親は自分の元を訪れたが、余命については何も言わず、普段通りの態度を取っていた。
気持ちが分からない事もないが、もどかしさも感じた。
いっそ言ってくれたなら繕う事を止められるのに、と怒りさえ感じた。
しかし、告げられない限り、知らないフリで治療に励まなくてはならない。両親の苦痛を思うと、そうせざるを得なかった。
自ら知っていると告白する等、自分には出来ないだろう。
冷たい風が吹き込む。
ふっと顔を上げると、涼しい顔をした死神が扉の前に立っていた。やはり幻想ではなかったのだ。
「どうしたの?」
ついつい視線をやってしまい、湊翔が振り返る。
一瞬焦ったが、湊翔は驚く様子を見せなかった。それどころか、違和感さえ抱かなかったようだ。
その様子から、湊翔には死神が見えていないのだと悟った。恐らく、死期の近い人間にしか見えないのだろう。
「お母さん今日は来れないって言ってたよ」
「あ、あぁそうなんだ」
両親は共働きで、朝から晩まで仕事に明け暮れている。
その為あまり時間が取れず、中々見舞いに来られないのをよく謝られる。
働かざるを得ない原因を作っているのは自分なのに、といつも物憂げになってしまうのだが言える筈もない。
◇
死神は配慮でもしているのか、その場にいるだけで何も話しかけてこなかった。ただ、湊翔との会話を聞いているだけだった。
頭痛を我慢しながら、傍らの死神の存在を気にしながらも時間は経ち、消灯時間前、湊翔は帰っていった。
「泉深、弟と仲が良いのね」
見計っていたのか唐突に話しかけてきた死神は、じっとこちらの目を見ている。泉深は何故か気まずさを覚え、そらしてしまった。
昨日の一件が蘇る。腕に触れた瞬間、嘔吐し、最終的には気絶してしまったあの件だ。
死神の力を確信し、湊翔との時間を過ごし、湧き上がる気持ちに恐怖しながらも、泉深は感情を素直に声にしていた。
「…………ねぇ死神さん、僕を殺してくれないかな?」
しかし、死神は慣れているのか、表情一つ変えず冷静な眼差しを向け続ける。
「死にたいの?」
直接的な言葉が切り返されて、心臓が音を立てだした。病に犯されている所為か、妙に荒い音だ。
「…………うん」
「嘘つきね」
死神は、始めから気なんか無かったのか、冷たい言葉だけを残し去っていった。
当人である泉深には、¨嘘¨に当たる要素が思いつかず、死神に見えている何かに疑問だけ覚えた。
その際、「いつもごめんね」と何度も言いそうになったが堪えた。
湊翔は受験生だ。学校では受験ムードが漂っており、毎日皆ピリピリとしているという。その空気が苦手だと、彼は笑って話をする。
近場の高校は偏差値が高く、難関だと以前話していた。しかし、近場に行って両親の経済負担を軽くし、なるべく多くを治療費に宛てたいとも言っていた。
自分の為に、彼がどれほどの物を犠牲にし、労力を費やしてきたのか、考えれば考えるほど胸が痛くなる。
そんな彼は、余命の事を知っているのだろうか。
あの後、両親は自分の元を訪れたが、余命については何も言わず、普段通りの態度を取っていた。
気持ちが分からない事もないが、もどかしさも感じた。
いっそ言ってくれたなら繕う事を止められるのに、と怒りさえ感じた。
しかし、告げられない限り、知らないフリで治療に励まなくてはならない。両親の苦痛を思うと、そうせざるを得なかった。
自ら知っていると告白する等、自分には出来ないだろう。
冷たい風が吹き込む。
ふっと顔を上げると、涼しい顔をした死神が扉の前に立っていた。やはり幻想ではなかったのだ。
「どうしたの?」
ついつい視線をやってしまい、湊翔が振り返る。
一瞬焦ったが、湊翔は驚く様子を見せなかった。それどころか、違和感さえ抱かなかったようだ。
その様子から、湊翔には死神が見えていないのだと悟った。恐らく、死期の近い人間にしか見えないのだろう。
「お母さん今日は来れないって言ってたよ」
「あ、あぁそうなんだ」
両親は共働きで、朝から晩まで仕事に明け暮れている。
その為あまり時間が取れず、中々見舞いに来られないのをよく謝られる。
働かざるを得ない原因を作っているのは自分なのに、といつも物憂げになってしまうのだが言える筈もない。
◇
死神は配慮でもしているのか、その場にいるだけで何も話しかけてこなかった。ただ、湊翔との会話を聞いているだけだった。
頭痛を我慢しながら、傍らの死神の存在を気にしながらも時間は経ち、消灯時間前、湊翔は帰っていった。
「泉深、弟と仲が良いのね」
見計っていたのか唐突に話しかけてきた死神は、じっとこちらの目を見ている。泉深は何故か気まずさを覚え、そらしてしまった。
昨日の一件が蘇る。腕に触れた瞬間、嘔吐し、最終的には気絶してしまったあの件だ。
死神の力を確信し、湊翔との時間を過ごし、湧き上がる気持ちに恐怖しながらも、泉深は感情を素直に声にしていた。
「…………ねぇ死神さん、僕を殺してくれないかな?」
しかし、死神は慣れているのか、表情一つ変えず冷静な眼差しを向け続ける。
「死にたいの?」
直接的な言葉が切り返されて、心臓が音を立てだした。病に犯されている所為か、妙に荒い音だ。
「…………うん」
「嘘つきね」
死神は、始めから気なんか無かったのか、冷たい言葉だけを残し去っていった。
当人である泉深には、¨嘘¨に当たる要素が思いつかず、死神に見えている何かに疑問だけ覚えた。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる