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六日目
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投薬を受けながらも、鼓動が脈打っている。倦怠感が体中を包んでいて不安になる。
1ヶ月の余命を耳にしてから、早6日が経過した。言うなれば5分の1の時間が終わってしまったのだ。
長い間覚悟していた筈なのに、早い死を望んでいる筈なのに、どうしてか平温な気持ちにはなれなかった。
理由を求めてはいけない気がする。はっきりとした言葉を突き止めてはいけない気がする。
突き止めれば、なにかが崩れてしまう。
それだけははっきりと感じていた為、態と考えないようにした。
死んだ後自分はどうなるのか、と考えた時、頭の中にシズミヤの顔が現れた。続きで夏束の顔も現れる。
死んだ先で死神になれるなら、死神たちが夏束を知っていても可笑しくはないだろう。
もしかしたら、会えるかもしれない。
「また変な事考えてるわね」
はっと意識を戻すと、目の前をシズミヤが覗き込んでいた。吐き気が襲い、口元に手を当てる。
「触ってないわよ」
「……うん……」
「相当弱いのね」
どうにか嘔吐せず収まった物の、不調の度合いが増している。そう確信出来るほど苦しさを感じた。
「夏束は死神にはなっていないわ。死んだら死んだ、何者にもならない。そもそも私は人間でも何でもないし、生まれ変わりでもないわ」
簡単に得られた答えに少しがっかりしたが、そもそもが大きな悩みでもなく、心の内に何も残らなかった。
「……そう」
「でも、死んだら夏束に会えるかもね」
「……どうしたら良いんだろう、湊翔に分かってもらえない」
それ以上に絡まっている感情が、切り返しとなり自然と零れ落ちる。
シズミヤは一瞬怪訝な顔をしたが、直ぐに吐き捨てるように回答した。
「良いんじゃないの? 時には思い込みも大事なんだから」
「何言って……」
回答についての詳しい説明もなしに、シズミヤはふらふらと窓の外に消えた。
◇
今日も、普段通り湊翔がやってきた。昨日の会話など気にも止めていない、と言わんばかりの満面の笑みだ。
床に伏せたままの泉深に向かって、景色の話やラジオの話などを積み重ねてゆく。
湊翔が何を考え、何を思い、大事にしようとするのかが分からない。
無意味なのに。全部水の泡となるのに。
結論を導き出してからと言うもの、どうしても覆せず、前のように笑えなかった。
「……ねぇ湊翔……昨日の話なんだけど……」
目の前に、ふわりと羽根が舞い降りた。泉深の前、湊翔の横に降りたのはノコトだった。
一瞬、湊翔が驚きを見せた気がしたが、次の瞬間には変化は消えており気の所為だと思われた。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「ううん、何でも……」
「……泉深、良い事教えてあげる……」
湊翔に悟られないよう、目線を向かわせないよう気をつける。黙り込んだまま、湊翔だけ必死に見詰める。
「……夏束を殺したのはシズミヤだよ……」
予兆も何もなく落とされた真実に驚くが、表情には出さないよう耐えた。
だが、指先が素早く首元に伸びて来た時、死神の能力を思い出し、恐怖を殺す事はできなかった。
◇
呼吸が出来ず、胸を激痛が襲う。声も出せず、無意識に跳ね上がる体を押さえつける湊翔の腕を、ただ力強く掴んで耐える。
湊翔の泣きそうな声がしきりに名を呼び、その中に医師らしき人間の声が混ざった所で、ぷっつりと意識が途切れた。
1ヶ月の余命を耳にしてから、早6日が経過した。言うなれば5分の1の時間が終わってしまったのだ。
長い間覚悟していた筈なのに、早い死を望んでいる筈なのに、どうしてか平温な気持ちにはなれなかった。
理由を求めてはいけない気がする。はっきりとした言葉を突き止めてはいけない気がする。
突き止めれば、なにかが崩れてしまう。
それだけははっきりと感じていた為、態と考えないようにした。
死んだ後自分はどうなるのか、と考えた時、頭の中にシズミヤの顔が現れた。続きで夏束の顔も現れる。
死んだ先で死神になれるなら、死神たちが夏束を知っていても可笑しくはないだろう。
もしかしたら、会えるかもしれない。
「また変な事考えてるわね」
はっと意識を戻すと、目の前をシズミヤが覗き込んでいた。吐き気が襲い、口元に手を当てる。
「触ってないわよ」
「……うん……」
「相当弱いのね」
どうにか嘔吐せず収まった物の、不調の度合いが増している。そう確信出来るほど苦しさを感じた。
「夏束は死神にはなっていないわ。死んだら死んだ、何者にもならない。そもそも私は人間でも何でもないし、生まれ変わりでもないわ」
簡単に得られた答えに少しがっかりしたが、そもそもが大きな悩みでもなく、心の内に何も残らなかった。
「……そう」
「でも、死んだら夏束に会えるかもね」
「……どうしたら良いんだろう、湊翔に分かってもらえない」
それ以上に絡まっている感情が、切り返しとなり自然と零れ落ちる。
シズミヤは一瞬怪訝な顔をしたが、直ぐに吐き捨てるように回答した。
「良いんじゃないの? 時には思い込みも大事なんだから」
「何言って……」
回答についての詳しい説明もなしに、シズミヤはふらふらと窓の外に消えた。
◇
今日も、普段通り湊翔がやってきた。昨日の会話など気にも止めていない、と言わんばかりの満面の笑みだ。
床に伏せたままの泉深に向かって、景色の話やラジオの話などを積み重ねてゆく。
湊翔が何を考え、何を思い、大事にしようとするのかが分からない。
無意味なのに。全部水の泡となるのに。
結論を導き出してからと言うもの、どうしても覆せず、前のように笑えなかった。
「……ねぇ湊翔……昨日の話なんだけど……」
目の前に、ふわりと羽根が舞い降りた。泉深の前、湊翔の横に降りたのはノコトだった。
一瞬、湊翔が驚きを見せた気がしたが、次の瞬間には変化は消えており気の所為だと思われた。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「ううん、何でも……」
「……泉深、良い事教えてあげる……」
湊翔に悟られないよう、目線を向かわせないよう気をつける。黙り込んだまま、湊翔だけ必死に見詰める。
「……夏束を殺したのはシズミヤだよ……」
予兆も何もなく落とされた真実に驚くが、表情には出さないよう耐えた。
だが、指先が素早く首元に伸びて来た時、死神の能力を思い出し、恐怖を殺す事はできなかった。
◇
呼吸が出来ず、胸を激痛が襲う。声も出せず、無意識に跳ね上がる体を押さえつける湊翔の腕を、ただ力強く掴んで耐える。
湊翔の泣きそうな声がしきりに名を呼び、その中に医師らしき人間の声が混ざった所で、ぷっつりと意識が途切れた。
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