そのテノヒラは命火を絶つ

有箱

文字の大きさ
6 / 18

六日目

しおりを挟む
 投薬を受けながらも、鼓動が脈打っている。倦怠感が体中を包んでいて不安になる。

 1ヶ月の余命を耳にしてから、早6日が経過した。言うなれば5分の1の時間が終わってしまったのだ。
 長い間覚悟していた筈なのに、早い死を望んでいる筈なのに、どうしてか平温な気持ちにはなれなかった。

 理由を求めてはいけない気がする。はっきりとした言葉を突き止めてはいけない気がする。
 突き止めれば、なにかが崩れてしまう。
 それだけははっきりと感じていた為、態と考えないようにした。

 死んだ後自分はどうなるのか、と考えた時、頭の中にシズミヤの顔が現れた。続きで夏束の顔も現れる。
 死んだ先で死神になれるなら、死神たちが夏束を知っていても可笑しくはないだろう。
 もしかしたら、会えるかもしれない。

「また変な事考えてるわね」

 はっと意識を戻すと、目の前をシズミヤが覗き込んでいた。吐き気が襲い、口元に手を当てる。

「触ってないわよ」
「……うん……」
「相当弱いのね」

 どうにか嘔吐せず収まった物の、不調の度合いが増している。そう確信出来るほど苦しさを感じた。

「夏束は死神にはなっていないわ。死んだら死んだ、何者にもならない。そもそも私は人間でも何でもないし、生まれ変わりでもないわ」

 簡単に得られた答えに少しがっかりしたが、そもそもが大きな悩みでもなく、心の内に何も残らなかった。

「……そう」
「でも、死んだら夏束に会えるかもね」
「……どうしたら良いんだろう、湊翔に分かってもらえない」

 それ以上に絡まっている感情が、切り返しとなり自然と零れ落ちる。
 シズミヤは一瞬怪訝な顔をしたが、直ぐに吐き捨てるように回答した。

「良いんじゃないの? 時には思い込みも大事なんだから」
「何言って……」

 回答についての詳しい説明もなしに、シズミヤはふらふらと窓の外に消えた。



 今日も、普段通り湊翔がやってきた。昨日の会話など気にも止めていない、と言わんばかりの満面の笑みだ。
 床に伏せたままの泉深に向かって、景色の話やラジオの話などを積み重ねてゆく。

 湊翔が何を考え、何を思い、大事にしようとするのかが分からない。
 無意味なのに。全部水の泡となるのに。
 結論を導き出してからと言うもの、どうしても覆せず、前のように笑えなかった。

「……ねぇ湊翔……昨日の話なんだけど……」

 目の前に、ふわりと羽根が舞い降りた。泉深の前、湊翔の横に降りたのはノコトだった。
 一瞬、湊翔が驚きを見せた気がしたが、次の瞬間には変化は消えており気の所為だと思われた。

「どうしたの? お兄ちゃん」
「ううん、何でも……」
「……泉深、良い事教えてあげる……」

 湊翔に悟られないよう、目線を向かわせないよう気をつける。黙り込んだまま、湊翔だけ必死に見詰める。

「……夏束を殺したのはシズミヤだよ……」

 予兆も何もなく落とされた真実に驚くが、表情には出さないよう耐えた。
 だが、指先が素早く首元に伸びて来た時、死神の能力を思い出し、恐怖を殺す事はできなかった。



 呼吸が出来ず、胸を激痛が襲う。声も出せず、無意識に跳ね上がる体を押さえつける湊翔の腕を、ただ力強く掴んで耐える。

 湊翔の泣きそうな声がしきりに名を呼び、その中に医師らしき人間の声が混ざった所で、ぷっつりと意識が途切れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

処理中です...