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七日目
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全く何も見えない真っ暗な景色の中、自分を呼ぶ声だけが聞こえる。
目を覚まさなきゃ。
どうしてか、その思いが強く心を支配し、泉深は薄く目を開いていた。
「お兄ちゃん!」
ぼんやり霞みがかった視界の中に色が見える。毎日毎日目にしている色だ。
「…………湊翔……?」
酸素マスクに発声が邪魔され聞こえていたか怪しいが、
湊翔はぎゅっと手の平を握ってくれた。
「良かった……お兄ちゃん丸二日も眠ってたんだよ……もう起きないかと思った……」
まだ色程度しか認識できない中、頬に突然の雫が伝った。上から降る雫は、数粒頬を滴る。
泣いているのだと直ぐ分かった。
「……ごめ……」
「……先生呼んだから待っててね……僕はお母さんとお父さんに電話してくるから………」
手が離れて、色も消えた。
暫くぼんやりとしていると、医師がやってきて質問や声かけや、処置を施し始めた。
意識が鮮明になってゆくと同時に気持ち悪さが襲い、その場で吐いてしまった。
見渡せる範囲で軽く辺りを見回したが、死神は居らず唯の不調だと理解する。
医師が嘔吐の処理と対処に励む中、不快感は取れず、また何度も吐いた。
◇
それは湊翔が戻ってからも変わらず、体は不調に従い嘔吐を繰り返し、頭痛や腹痛も伴わせた。
「……湊翔ごめん……」
「……まだ落ち着かない?」
「……うん……」
呼吸器は一旦外された物の、点滴や心電図等は、まだ体と繋がっている。即効薬も一応棚の上に用意されていて、いつ発作を起こしても対処できる準備が取られている。
「……帰っても大丈夫だよ……折角の休みなんだから……僕はもう直ぐ居なくなるし、こんなの無意味なんだから……」
「……今更何言ってるの、今日も付いてるよ……だからもうそういうの止めてよ……」
気だるく重い体を、湊翔の支えを借りて横にし休ませるが、直ぐにまた胸の不快感に襲われ、吐けるように起き上がった。
先程から、これを何度も何度も繰り返している。
あの日、ノコトが完全に触れきる前に重い発作を起こしてしまい、どこに触ったのか、はたまた触れていたのかさえ確かでは無い。
しかし、そこが定かにならずとも、死神の恐ろしい力が影響している可能性を高く感じてしまう事に変わりは無かった。
彼女達はその気になれば、自分を簡単に殺せる。
それが希望なのか、絶望なのか、よく分からなかった。
始めに余命を聞いた時と何も変わらないのだ。自分の感情一つさえ理解できないまま、自分は死んでゆくのかもしれない。
空っぽになった胃も、胸も、そして何でか心も痛くて涙が出そうになったが、自分より先に泣きそうになっている湊翔の手前では弱音を殺した。
◇
湊翔が去って直ぐ、シズミヤが何食わぬ顔で部屋に入室してきた。
直ぐに、ノコトが言い残した言葉を連想する。
「……シズミヤ……なんで夏束を殺したの……?」
そもそも¨死神の務め¨と言うものを自分は知らない。
ノコトの言うように彼女達が¨死へ導く者¨だとしたら、それなりの何かがありそうだが。
「仕事よ、突然何よ」
第一声が質問だったからか、シズミヤは不服そうな顔だ。その顔を見た瞬間、泉深の中にも怒りに近い感情が湧いた。
「…………僕は殺さないのに夏束は殺したんだ……あんなに頑張っていた夏束は殺したんだ……」
彼女が生きていれば、自分も生きようと思えていたかもしれない。
そんな彼女の命はあっさりと奪い、自分の命は取ってくれないなんて、気持ちを弄んでいるとしか思えない。
「何よ急に怒って、面倒臭いわね、感傷的にでもなってんの?」
その言葉が図星過ぎて泉深ははっとなり、己の感情をコントロールできていなかった事に恥ずかしさを覚えた。
目を覚まさなきゃ。
どうしてか、その思いが強く心を支配し、泉深は薄く目を開いていた。
「お兄ちゃん!」
ぼんやり霞みがかった視界の中に色が見える。毎日毎日目にしている色だ。
「…………湊翔……?」
酸素マスクに発声が邪魔され聞こえていたか怪しいが、
湊翔はぎゅっと手の平を握ってくれた。
「良かった……お兄ちゃん丸二日も眠ってたんだよ……もう起きないかと思った……」
まだ色程度しか認識できない中、頬に突然の雫が伝った。上から降る雫は、数粒頬を滴る。
泣いているのだと直ぐ分かった。
「……ごめ……」
「……先生呼んだから待っててね……僕はお母さんとお父さんに電話してくるから………」
手が離れて、色も消えた。
暫くぼんやりとしていると、医師がやってきて質問や声かけや、処置を施し始めた。
意識が鮮明になってゆくと同時に気持ち悪さが襲い、その場で吐いてしまった。
見渡せる範囲で軽く辺りを見回したが、死神は居らず唯の不調だと理解する。
医師が嘔吐の処理と対処に励む中、不快感は取れず、また何度も吐いた。
◇
それは湊翔が戻ってからも変わらず、体は不調に従い嘔吐を繰り返し、頭痛や腹痛も伴わせた。
「……湊翔ごめん……」
「……まだ落ち着かない?」
「……うん……」
呼吸器は一旦外された物の、点滴や心電図等は、まだ体と繋がっている。即効薬も一応棚の上に用意されていて、いつ発作を起こしても対処できる準備が取られている。
「……帰っても大丈夫だよ……折角の休みなんだから……僕はもう直ぐ居なくなるし、こんなの無意味なんだから……」
「……今更何言ってるの、今日も付いてるよ……だからもうそういうの止めてよ……」
気だるく重い体を、湊翔の支えを借りて横にし休ませるが、直ぐにまた胸の不快感に襲われ、吐けるように起き上がった。
先程から、これを何度も何度も繰り返している。
あの日、ノコトが完全に触れきる前に重い発作を起こしてしまい、どこに触ったのか、はたまた触れていたのかさえ確かでは無い。
しかし、そこが定かにならずとも、死神の恐ろしい力が影響している可能性を高く感じてしまう事に変わりは無かった。
彼女達はその気になれば、自分を簡単に殺せる。
それが希望なのか、絶望なのか、よく分からなかった。
始めに余命を聞いた時と何も変わらないのだ。自分の感情一つさえ理解できないまま、自分は死んでゆくのかもしれない。
空っぽになった胃も、胸も、そして何でか心も痛くて涙が出そうになったが、自分より先に泣きそうになっている湊翔の手前では弱音を殺した。
◇
湊翔が去って直ぐ、シズミヤが何食わぬ顔で部屋に入室してきた。
直ぐに、ノコトが言い残した言葉を連想する。
「……シズミヤ……なんで夏束を殺したの……?」
そもそも¨死神の務め¨と言うものを自分は知らない。
ノコトの言うように彼女達が¨死へ導く者¨だとしたら、それなりの何かがありそうだが。
「仕事よ、突然何よ」
第一声が質問だったからか、シズミヤは不服そうな顔だ。その顔を見た瞬間、泉深の中にも怒りに近い感情が湧いた。
「…………僕は殺さないのに夏束は殺したんだ……あんなに頑張っていた夏束は殺したんだ……」
彼女が生きていれば、自分も生きようと思えていたかもしれない。
そんな彼女の命はあっさりと奪い、自分の命は取ってくれないなんて、気持ちを弄んでいるとしか思えない。
「何よ急に怒って、面倒臭いわね、感傷的にでもなってんの?」
その言葉が図星過ぎて泉深ははっとなり、己の感情をコントロールできていなかった事に恥ずかしさを覚えた。
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