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十六日目
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これが本当の絶望か、と泉深は納得していた。
生きたいと認めた途端これだ。神様はどこまでも非道である。死の神様は、残酷すぎる。
2日という事は、明日死ぬ事になる。
死ぬほど辛い発作を想像し、身体の全てを真っ黒な恐怖が包んだ。
宣告を信じきれない自分がいる。
シズミヤは嘘をついていて、怖がる顔を楽しんでいるんだと尤もらしく言い訳を立ててみる。
意外に、一週間後もその先もしぶとく生きているんじゃないかな、なんて想像の中だけで未来の姿を想像した。
「人間って飲み込みが悪いのね」
方角が変わっても尚、シズミヤが現れるのは扉の前が多い。壁に背を預けて、腕組するスタイルが板についてきた。
『……また何かあるの?』
面白がりに来たのか、と訝しげに見詰めるが、対照的にシズミヤは涼しげな顔で笑っていた。
「一つ提案をしに来たの、選ぶのは貴方だけどね」
重大な選択を迫られると察知し、直ぐ臨戦態勢に入る。
シズミヤは黒い爪の目立つ指先を、すっと天に持ち上げた。そして優雅に泉深の前に突き出す。
「私の力を使って、殺してあげてもいいわ」
今更の承諾に、思考回路が渦を巻く。
もしも彼女の余命宣告が本物で、苦しんで死ぬ定めが待っているというのなら、今ここで一思いに死んでしまった方が良いに決まっている。
だが、嘘だったら。未来がこの手に残されているなら。
折角出した結論を無駄にし、湊翔の願いも、両親の思いも全て無駄にしてしまう事になる。
「結論は急がなくてもいいわ、時間はたっぷりあるんだから」
その言葉が、見えているという未来から素直に導き出した物か、悪意を込めた皮肉なのか分からず、泉深は困惑した。
『…………僕は本当に死ぬの?』
「死ぬわよ。私が言っているんだもの信じなさい」
『…………うん……』
空返事したが、疑いを捨てきれずに考え込む。
「さすがに未来は見せられないわよ」
解決策の一貫として方法を見出した瞬間、即否定されて方法に迷う。
様々な条件が肩を並べ、結論を待機している。
『……僕は……』
不意にすっと伸ばされる手が鎖骨付近に触れかけて、泉深は恐怖から目を閉じていた。
「僕は?」
『………僕は……』
夏束も湊翔も、母親も父親も、自分も望んでいるのは。色々な条件を差し引きした上でも、残っているのは。
『…………僕は、本当に死ぬ時が来るまで、生きます……』
「そう、分かったわ」
シズミヤは手を引っ込め笑う。
ドキドキと高鳴る心臓の音を聞きながらも、泉深はなぜか安堵していた。
生きたいと認めた途端これだ。神様はどこまでも非道である。死の神様は、残酷すぎる。
2日という事は、明日死ぬ事になる。
死ぬほど辛い発作を想像し、身体の全てを真っ黒な恐怖が包んだ。
宣告を信じきれない自分がいる。
シズミヤは嘘をついていて、怖がる顔を楽しんでいるんだと尤もらしく言い訳を立ててみる。
意外に、一週間後もその先もしぶとく生きているんじゃないかな、なんて想像の中だけで未来の姿を想像した。
「人間って飲み込みが悪いのね」
方角が変わっても尚、シズミヤが現れるのは扉の前が多い。壁に背を預けて、腕組するスタイルが板についてきた。
『……また何かあるの?』
面白がりに来たのか、と訝しげに見詰めるが、対照的にシズミヤは涼しげな顔で笑っていた。
「一つ提案をしに来たの、選ぶのは貴方だけどね」
重大な選択を迫られると察知し、直ぐ臨戦態勢に入る。
シズミヤは黒い爪の目立つ指先を、すっと天に持ち上げた。そして優雅に泉深の前に突き出す。
「私の力を使って、殺してあげてもいいわ」
今更の承諾に、思考回路が渦を巻く。
もしも彼女の余命宣告が本物で、苦しんで死ぬ定めが待っているというのなら、今ここで一思いに死んでしまった方が良いに決まっている。
だが、嘘だったら。未来がこの手に残されているなら。
折角出した結論を無駄にし、湊翔の願いも、両親の思いも全て無駄にしてしまう事になる。
「結論は急がなくてもいいわ、時間はたっぷりあるんだから」
その言葉が、見えているという未来から素直に導き出した物か、悪意を込めた皮肉なのか分からず、泉深は困惑した。
『…………僕は本当に死ぬの?』
「死ぬわよ。私が言っているんだもの信じなさい」
『…………うん……』
空返事したが、疑いを捨てきれずに考え込む。
「さすがに未来は見せられないわよ」
解決策の一貫として方法を見出した瞬間、即否定されて方法に迷う。
様々な条件が肩を並べ、結論を待機している。
『……僕は……』
不意にすっと伸ばされる手が鎖骨付近に触れかけて、泉深は恐怖から目を閉じていた。
「僕は?」
『………僕は……』
夏束も湊翔も、母親も父親も、自分も望んでいるのは。色々な条件を差し引きした上でも、残っているのは。
『…………僕は、本当に死ぬ時が来るまで、生きます……』
「そう、分かったわ」
シズミヤは手を引っ込め笑う。
ドキドキと高鳴る心臓の音を聞きながらも、泉深はなぜか安堵していた。
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