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生命が滅びる前の話
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地上は一面、焼け野原だ。これらは全て、隣に座っている人型ロボットがやった。
彼の名はWIXY、名の後に数字の羅列が付くが、長すぎるので割愛だ。
この殺戮兵器は、私が制作した。長引く戦争を終わらせるための道具として、代々の知恵と労力を受け継いで作った。
その努力は報われ、ついに全ての国を焼き尽くした。今は、唯一残された自国に帰る途中である。
WIXYは殺戮専用の為、飛行機の操縦は出来ない。その為、私が操縦担当だ。
地上は、どこを見ても焼けていた。炎の有無はあれど、辺りは全て閑散としている。それもそのはずだ、人っこ一人いないのだから。
「……WIXY、これは名誉なことらしいぞ。帰ったら俺たちは英雄として大歓迎だろうなぁ」
「そうですか」
「……はは、ロボットのお前には分かんねぇか。お前は命令こなすだけだもんなぁ」
WIXYに複雑な思考回路は無い。戦闘用ロボットに心は要らないと、プログラムしなかった。時折物足りなさを感じるものの、このご時世だ、やはり必要ないとの結論に落ち着いた。
「……戦う以外出来ねぇように作っちまったしなぁ。国に戻ったらどうしたい?」
なんて、問い掛けても意味無いのに――と自嘲気味に笑う。戦っていない時のWIXYは、機械音すら無くとても静かだ。
「私は何をしようかなー……」
これからの未来を、何となしに考えてみた。しかし、何も出て来ない。
実は、自国も甚大な被害を受けている。食糧難はもちろん、住む場所にすら事欠いている状態だ。
元々小さい国ということもあり、戦闘の直接的な被害も大きかった。死者も多数出ており、その中には私の家族も含まれている。
そんな状態で、費用の掛かるWIXYを作ったのだ。どれほどの人間を犠牲にしたのだろうかと改めて考える。
「もしかすると歓迎なんてないかもな」
数時間前までは、ただ我武者羅に戦争の終了を願っていた。ゆえに帰宅後のことなど考える余裕は無かった。
けれど今、夢から覚めたかのように現実を見ている。
「……何も残ってねぇな」
緑は燃え、青も濁った。ただあるのは、錆色の地上と灰色の空だけだった。
*
眠くなるような景色ばかり見ていると、やっと目に付く場所を見つけた。そう、自国に戻ってきたのだ。
目に付くと言っても、他より少し色があるだけの話だ。ほとんど焼け野原と変わらない。
──虚しい。虚しすぎる。
自国の惨状を改めて目にし、心が死んでゆくのが分かった。あんな所に戻っても、希望なんてありはしないだろう。
考えなくとも、分かることだ。
「……WIXY、やっぱり帰るのは無しにしよう」
「では、どうするのですか」
頭の中には一つの命令が浮かんでいる。先を見据え、辿り着いた結論が生み出したものだ。
迷いはある。しかし、これしかないとも思っている。
操縦桿を握りながら、WIXYに目配せした。WIXYはと言うと、目線を動かすことなく真っ直ぐ前を向いたままだ。何も思わず、何も考えていない様子が見て取れる。
当然ではあるが、これなら問題ない。
「……命令だ。国を滅ぼしてくれ。全部。完膚なきまでに」
「はい」
想像していた通り、WIXYに躊躇は無かった。
*
虚しい。虚しい。虚しすぎる。
燃え盛る故郷を見て、感じたことはそれだけだった。もちろん、罪悪感が無い訳ではない。
しかし、間違いだったとも思えなかった。
「終わったな、全部」
戦争は何も生み出しはしない。目に映している景色の全てが証明している。
「……今更だけど悪かったな、生み出しちまって。兵器としてじゃなくて、もっと有益な道具として生み出してやれば良かったな」
再び横目を向けたが、WIXYの視線は変わっていなかった。所詮、機材の寄せ集めであるWIXYが、何かを思い答えるなんて有り得ないのだ。
「……なんて、何言ってんのか分かんねぇよなぁ」
残っている物はほとんど無い。人工物では破壊出来なかった自然と、一人と一つだけだ。
「次はどうしますか?」
「……そうだなぁ」
答えは出ている。次々と焼けてゆく国を見ながら考えていた。いや、自然と固まっていった。
もちろん恐怖はある。だが、他の選択に含まれる末恐ろしさに比べれば、幾分救われる選択だ。
「最期まで付き合ってくれ」
僅かに震える両手を、操縦桿から離した。操縦者を失った機体は、瞬く間に傾き始める。
WIXYに動揺は無かった。音を発することも体勢を変えることもなく、無常に前を見詰めたままだ。
「……お前に心がなくて良かったと、今は強く思うよ」
「──はい、最後までお付き合い致します」
時差で返ってきた返事に、少しだけ心が安らいだ。笑いまでは出来なかったものの、恐怖には打ち勝てそうだ。
隣に座っていたのが、彼で本当に良かった。心の無いロボットで。死を怖がらない存在で。
墜ちてゆく機内でも、WIXYはずっと前を見ていた。灰色に染まった空を見ていた。
無機物は、天国にいけるのだろうか。
なんて、それは誰にも分からない。けれど行けるなら。
最後の命令だ。もし行けたなら、そこでは幸せに笑ってくれ。
彼の名はWIXY、名の後に数字の羅列が付くが、長すぎるので割愛だ。
この殺戮兵器は、私が制作した。長引く戦争を終わらせるための道具として、代々の知恵と労力を受け継いで作った。
その努力は報われ、ついに全ての国を焼き尽くした。今は、唯一残された自国に帰る途中である。
WIXYは殺戮専用の為、飛行機の操縦は出来ない。その為、私が操縦担当だ。
地上は、どこを見ても焼けていた。炎の有無はあれど、辺りは全て閑散としている。それもそのはずだ、人っこ一人いないのだから。
「……WIXY、これは名誉なことらしいぞ。帰ったら俺たちは英雄として大歓迎だろうなぁ」
「そうですか」
「……はは、ロボットのお前には分かんねぇか。お前は命令こなすだけだもんなぁ」
WIXYに複雑な思考回路は無い。戦闘用ロボットに心は要らないと、プログラムしなかった。時折物足りなさを感じるものの、このご時世だ、やはり必要ないとの結論に落ち着いた。
「……戦う以外出来ねぇように作っちまったしなぁ。国に戻ったらどうしたい?」
なんて、問い掛けても意味無いのに――と自嘲気味に笑う。戦っていない時のWIXYは、機械音すら無くとても静かだ。
「私は何をしようかなー……」
これからの未来を、何となしに考えてみた。しかし、何も出て来ない。
実は、自国も甚大な被害を受けている。食糧難はもちろん、住む場所にすら事欠いている状態だ。
元々小さい国ということもあり、戦闘の直接的な被害も大きかった。死者も多数出ており、その中には私の家族も含まれている。
そんな状態で、費用の掛かるWIXYを作ったのだ。どれほどの人間を犠牲にしたのだろうかと改めて考える。
「もしかすると歓迎なんてないかもな」
数時間前までは、ただ我武者羅に戦争の終了を願っていた。ゆえに帰宅後のことなど考える余裕は無かった。
けれど今、夢から覚めたかのように現実を見ている。
「……何も残ってねぇな」
緑は燃え、青も濁った。ただあるのは、錆色の地上と灰色の空だけだった。
*
眠くなるような景色ばかり見ていると、やっと目に付く場所を見つけた。そう、自国に戻ってきたのだ。
目に付くと言っても、他より少し色があるだけの話だ。ほとんど焼け野原と変わらない。
──虚しい。虚しすぎる。
自国の惨状を改めて目にし、心が死んでゆくのが分かった。あんな所に戻っても、希望なんてありはしないだろう。
考えなくとも、分かることだ。
「……WIXY、やっぱり帰るのは無しにしよう」
「では、どうするのですか」
頭の中には一つの命令が浮かんでいる。先を見据え、辿り着いた結論が生み出したものだ。
迷いはある。しかし、これしかないとも思っている。
操縦桿を握りながら、WIXYに目配せした。WIXYはと言うと、目線を動かすことなく真っ直ぐ前を向いたままだ。何も思わず、何も考えていない様子が見て取れる。
当然ではあるが、これなら問題ない。
「……命令だ。国を滅ぼしてくれ。全部。完膚なきまでに」
「はい」
想像していた通り、WIXYに躊躇は無かった。
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虚しい。虚しい。虚しすぎる。
燃え盛る故郷を見て、感じたことはそれだけだった。もちろん、罪悪感が無い訳ではない。
しかし、間違いだったとも思えなかった。
「終わったな、全部」
戦争は何も生み出しはしない。目に映している景色の全てが証明している。
「……今更だけど悪かったな、生み出しちまって。兵器としてじゃなくて、もっと有益な道具として生み出してやれば良かったな」
再び横目を向けたが、WIXYの視線は変わっていなかった。所詮、機材の寄せ集めであるWIXYが、何かを思い答えるなんて有り得ないのだ。
「……なんて、何言ってんのか分かんねぇよなぁ」
残っている物はほとんど無い。人工物では破壊出来なかった自然と、一人と一つだけだ。
「次はどうしますか?」
「……そうだなぁ」
答えは出ている。次々と焼けてゆく国を見ながら考えていた。いや、自然と固まっていった。
もちろん恐怖はある。だが、他の選択に含まれる末恐ろしさに比べれば、幾分救われる選択だ。
「最期まで付き合ってくれ」
僅かに震える両手を、操縦桿から離した。操縦者を失った機体は、瞬く間に傾き始める。
WIXYに動揺は無かった。音を発することも体勢を変えることもなく、無常に前を見詰めたままだ。
「……お前に心がなくて良かったと、今は強く思うよ」
「──はい、最後までお付き合い致します」
時差で返ってきた返事に、少しだけ心が安らいだ。笑いまでは出来なかったものの、恐怖には打ち勝てそうだ。
隣に座っていたのが、彼で本当に良かった。心の無いロボットで。死を怖がらない存在で。
墜ちてゆく機内でも、WIXYはずっと前を見ていた。灰色に染まった空を見ていた。
無機物は、天国にいけるのだろうか。
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