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第四話:お父さんもエマも好きだから
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かと言って、止まる訳にはいかないのだ。とりあえず、何でもいいから集めなければならない。
家族三人の時間を作るため、エマを喜ばせるため、寂しさを少しでも埋めるため。
その為に、頑張らなくてはいけないのだ。
物を作るための材料探しにと、廃材の集まる場所へと向かう。歩きながら、スーパーマーケットでの会話を思い出していた。
お父さんが買ってくるパンは、他の物よりも大きめではある。けれど、一週間に一回は新しくなるし、無かった日は無い。
お父さんは、その分お金を手に入れているということになる。それも、続けて。
毎日働きに出ているからこそ出来ていることなのだとしたら、それを減らすのにどれほどのお金が必要になるのだろう。
きっと、今の量じゃ足りない。
手の中にある、使わず残った金貨を見て、小さく溜め息をついた。
せめて、紙のお金が手に入ったら――一番大きなものが手に入ったら渡そう。そうすれば、少しは一緒の時間が増えるだろう。
見えない目標に焦りを覚え、僕は足を早くした。
***
廃材が集められた場所は、町から少し離れた地点にある。とは言え、その日の内に帰ってこられる距離だ。
隣町の隅に寄せられた廃材置き場には、歪な木材や寂れた金属などが積まれていた。折れた釘などもある。
辺りを少し見回すと、金になりそうな物を集めているのか、同じような服装の子どもたちがいた。
そう言えば、資材を集めて売るという方法もあったな、と思い出した。けれど、ほんの小さなお金にしかならないと、前に仲間が言っていた。
集め方に困ってしまったら、候補として入れよう。何となく考えつつも、使えそうな廃材を集めた。
***
「ただいまー」
廃材を家の裏に置き入る。すると、エマが勢いよく飛びついてきた。
「お兄ちゃん! 遅かったから心配したのよ! どこに行ってたの!?」
向けられた顔には、本当の心配が滲んでいる。実際、今日はいつもより随分と遅い帰りになってしまった。
「ごめんごめん、新しい方法を見つけたから、その為の材料を探しに行ってたんだ」
「新しい方法……?」
「うん。物を作ってね、売るんだよ。この辺りはお金を持っている人達もいるし、きっと買ってくれるはずだよ」
そうすれば、手伝いよりも纏まったお金が手に入るだろう。半分の期待と、半分の不安が心で渦を巻いた。
「……そうだったの、帰ってこないから何かあったんじゃないかと思ったわ……」
「大丈夫だよ! 僕はエマが大切だからね!」
お父さんと同じようにして、エマを寂しがらせることはしたくない。それは本音だ。
幸福を手に入れるために、少し時間が少なくなってしまうだけ。それだけ。
「うん、それなら良いの」
「お父さんも、時間は掛かっちゃうかもしれないけど、きっと一緒に居られるようになるからね」
「うん、待ち遠しいわ」
エマも、この頑張りを、きっと分かってくれるだろう。
「僕、頑張るよ!」
エマは不安が取れたのか、スッキリとした笑顔を見せていた。
***
そうと決まれば、物作りだ。自分の仕事を素早く終わらせ、早速作業に取り掛かる。
自宅での修理をよくする為、トンカチなどの道具は元から持っていた。壊れかけのものもあるが、そこは壊れないように使う積もりだ。
まずは、手始めに机を作ってみることにした。平たい板に、足を四つ付ければ完成する。
けれど、売ることを考えると、見た目にも気を使わなければならないし、ガタガタしてもいけない。
最低限の条件ではあったが、それが中々難しかった。足の長さを揃えるのも、同じ角度でくっつけるのも、何度も失敗してしまった。
それでも、諦めずに作り続けた。
そうして日が落ちる頃、やっと一つ納得の行くものが出来た。材料の関係で、低めの机になってしまったが。
「エマ、エマ! 見てこれ! どうかな!」
嬉しくて、完成した机を自宅に持ち込む。物体を見て、エマは瞳を輝かせた。
「凄い! これお兄ちゃんが作ったの!?」
ベッドから出たエマは、完成したばかりの机を優しく撫でた。煌く瞳が、とても楽しそうだ。
「そうだよー! もう少し色々と作って、人の多いところで売ってみるつもりなんだ!」
「そうなの! きっと誰かが買ってくれるわ」
出来の良さを、エマも分かってくれたようだ。お金持ちの人間が、紙のお金を差し出すイメージが下りた。
「へへへ。あ、材料が足りなくなっちゃったから、明日も隣町に行ってくるね」
「分かったわ、頑張ってお留守番してるわね」
期待が上昇してゆく。もしかすると、案外直ぐに大金が手に入ったりして、と想像が膨らんだ。
「うん! 僕頑張るよー!」
***
それから、何日も何日も作り続けた。
その間に、値段の付け方が分からないことに気づき、お金の勉強もした。仲間に聞きまわったり、スーパーの人に聞いたりと、全て自分で情報を集めた。
その頑張りのお陰で、何となくだがお金と値段が合わさるようになった。どの商品に、どのくらいの値段が付くかまでは分からなかったが、これでも大分努力した方である。
暗い内に帰って暗い内に出るせいか、お父さんは品々に気づいていなかった。もちろん、僕が昼間に何をしているかも知らないままだろう。
家の裏には、手作りの家具が増えた。どれも上出来だった。改めて数えてみると、全部で六個あった。
「よし、今日売りに行ってくるよ! 期待しててね!」
「えぇ、期待してるわ。ところで今日は何時くらいに帰って来れそう?」
「うーん、分かんない。売れたら帰ってくるから、お昼くらいには帰れるんじゃないかなぁ」
「そう、待ってるわ」
この遣り取りは、最近のお決まりになりつつある。やっぱりエマは寂しがりやで、帰りが遅いと心配してしまうらしい。それでも、していることを認めてくれてもいて、僕はそれに励まされていた。
「うん、行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい」
我慢してくれているエマの為に、たくさんたくさん頑張って、早くお金を手に入れるんだ。お父さんを振り向かせられるような、大金を。
***
売る場所は、隣町を選んだ。廃材探しに来た時に、人通りの多い場所を見つけたのだ。
実際に売り物をしている人も見ていた為、売るには良い場所なのだろうと勝手に予想した。
自作の家具を、横並びに置いてみる。一つ一つから、存在感が溢れ出しているように見えた。
きっと、今日は上手くいく。
一人頷いて、僕は呼び掛けを始めた。
家族三人の時間を作るため、エマを喜ばせるため、寂しさを少しでも埋めるため。
その為に、頑張らなくてはいけないのだ。
物を作るための材料探しにと、廃材の集まる場所へと向かう。歩きながら、スーパーマーケットでの会話を思い出していた。
お父さんが買ってくるパンは、他の物よりも大きめではある。けれど、一週間に一回は新しくなるし、無かった日は無い。
お父さんは、その分お金を手に入れているということになる。それも、続けて。
毎日働きに出ているからこそ出来ていることなのだとしたら、それを減らすのにどれほどのお金が必要になるのだろう。
きっと、今の量じゃ足りない。
手の中にある、使わず残った金貨を見て、小さく溜め息をついた。
せめて、紙のお金が手に入ったら――一番大きなものが手に入ったら渡そう。そうすれば、少しは一緒の時間が増えるだろう。
見えない目標に焦りを覚え、僕は足を早くした。
***
廃材が集められた場所は、町から少し離れた地点にある。とは言え、その日の内に帰ってこられる距離だ。
隣町の隅に寄せられた廃材置き場には、歪な木材や寂れた金属などが積まれていた。折れた釘などもある。
辺りを少し見回すと、金になりそうな物を集めているのか、同じような服装の子どもたちがいた。
そう言えば、資材を集めて売るという方法もあったな、と思い出した。けれど、ほんの小さなお金にしかならないと、前に仲間が言っていた。
集め方に困ってしまったら、候補として入れよう。何となく考えつつも、使えそうな廃材を集めた。
***
「ただいまー」
廃材を家の裏に置き入る。すると、エマが勢いよく飛びついてきた。
「お兄ちゃん! 遅かったから心配したのよ! どこに行ってたの!?」
向けられた顔には、本当の心配が滲んでいる。実際、今日はいつもより随分と遅い帰りになってしまった。
「ごめんごめん、新しい方法を見つけたから、その為の材料を探しに行ってたんだ」
「新しい方法……?」
「うん。物を作ってね、売るんだよ。この辺りはお金を持っている人達もいるし、きっと買ってくれるはずだよ」
そうすれば、手伝いよりも纏まったお金が手に入るだろう。半分の期待と、半分の不安が心で渦を巻いた。
「……そうだったの、帰ってこないから何かあったんじゃないかと思ったわ……」
「大丈夫だよ! 僕はエマが大切だからね!」
お父さんと同じようにして、エマを寂しがらせることはしたくない。それは本音だ。
幸福を手に入れるために、少し時間が少なくなってしまうだけ。それだけ。
「うん、それなら良いの」
「お父さんも、時間は掛かっちゃうかもしれないけど、きっと一緒に居られるようになるからね」
「うん、待ち遠しいわ」
エマも、この頑張りを、きっと分かってくれるだろう。
「僕、頑張るよ!」
エマは不安が取れたのか、スッキリとした笑顔を見せていた。
***
そうと決まれば、物作りだ。自分の仕事を素早く終わらせ、早速作業に取り掛かる。
自宅での修理をよくする為、トンカチなどの道具は元から持っていた。壊れかけのものもあるが、そこは壊れないように使う積もりだ。
まずは、手始めに机を作ってみることにした。平たい板に、足を四つ付ければ完成する。
けれど、売ることを考えると、見た目にも気を使わなければならないし、ガタガタしてもいけない。
最低限の条件ではあったが、それが中々難しかった。足の長さを揃えるのも、同じ角度でくっつけるのも、何度も失敗してしまった。
それでも、諦めずに作り続けた。
そうして日が落ちる頃、やっと一つ納得の行くものが出来た。材料の関係で、低めの机になってしまったが。
「エマ、エマ! 見てこれ! どうかな!」
嬉しくて、完成した机を自宅に持ち込む。物体を見て、エマは瞳を輝かせた。
「凄い! これお兄ちゃんが作ったの!?」
ベッドから出たエマは、完成したばかりの机を優しく撫でた。煌く瞳が、とても楽しそうだ。
「そうだよー! もう少し色々と作って、人の多いところで売ってみるつもりなんだ!」
「そうなの! きっと誰かが買ってくれるわ」
出来の良さを、エマも分かってくれたようだ。お金持ちの人間が、紙のお金を差し出すイメージが下りた。
「へへへ。あ、材料が足りなくなっちゃったから、明日も隣町に行ってくるね」
「分かったわ、頑張ってお留守番してるわね」
期待が上昇してゆく。もしかすると、案外直ぐに大金が手に入ったりして、と想像が膨らんだ。
「うん! 僕頑張るよー!」
***
それから、何日も何日も作り続けた。
その間に、値段の付け方が分からないことに気づき、お金の勉強もした。仲間に聞きまわったり、スーパーの人に聞いたりと、全て自分で情報を集めた。
その頑張りのお陰で、何となくだがお金と値段が合わさるようになった。どの商品に、どのくらいの値段が付くかまでは分からなかったが、これでも大分努力した方である。
暗い内に帰って暗い内に出るせいか、お父さんは品々に気づいていなかった。もちろん、僕が昼間に何をしているかも知らないままだろう。
家の裏には、手作りの家具が増えた。どれも上出来だった。改めて数えてみると、全部で六個あった。
「よし、今日売りに行ってくるよ! 期待しててね!」
「えぇ、期待してるわ。ところで今日は何時くらいに帰って来れそう?」
「うーん、分かんない。売れたら帰ってくるから、お昼くらいには帰れるんじゃないかなぁ」
「そう、待ってるわ」
この遣り取りは、最近のお決まりになりつつある。やっぱりエマは寂しがりやで、帰りが遅いと心配してしまうらしい。それでも、していることを認めてくれてもいて、僕はそれに励まされていた。
「うん、行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい」
我慢してくれているエマの為に、たくさんたくさん頑張って、早くお金を手に入れるんだ。お父さんを振り向かせられるような、大金を。
***
売る場所は、隣町を選んだ。廃材探しに来た時に、人通りの多い場所を見つけたのだ。
実際に売り物をしている人も見ていた為、売るには良い場所なのだろうと勝手に予想した。
自作の家具を、横並びに置いてみる。一つ一つから、存在感が溢れ出しているように見えた。
きっと、今日は上手くいく。
一人頷いて、僕は呼び掛けを始めた。
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