僕をお金にして下さい!

有箱

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第三話:僕が知らなかったこと

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 翌日も、お父さんの様子は何も変わらなかった。お金を見せたことすら忘れてしまったのかもしれない。それくらい、いつも通りだった。

「お兄ちゃん、お父さんどうだった?」

 目があって直ぐエマに訊ねられた時は、吃驚するくらいの冷や汗が流れ出した。けれど、嘘は吐けないと正直に答える。

「…………駄目……だった……」
「……そう……残念ね……」

 エマの悲しそうな顔が辛かった。想像はしていたものの、更に心が抉れた。

「エマ、僕もっと探してくるから……見てもらえるようになるまで集めるから……」
「……うん、頑張ってね」

 困り笑いを浮かべるエマは、心の底から僕を信じている。それは、確信できた。

 僕が、エマの為にも頑張らなくちゃ。
 焦りで心が騒ぐのを隠して、エマと同じ顔をした。

***

 翌日から、またお金探しを再開した。しかし、手当たりしだい漁っているだけでは、一日の量に限界がある。

 どうにかして、もっと一気に手に入らないものかと頭を回した。
 仲間にも聞きまわった。仕事も探してみた。しかし、そう簡単には見つからない。

 立ち上がり、はぁと溜息を吐いたところで、一人の大人が声をかけてきた。近所の人だ。時々、話すくらいの人である。

「ヘンリーくん、最近ずっとお金を探してるみたいだけど、何かほしいものでもあるの?」
「えっ、えっと……少し……」

 どうしてか、正直に話すのを躊躇ってしまった。お父さんに伝わるのが怖かったのかもしれない。

「なら、おばちゃんのところで少しお手伝いしてみない? 頼みたいことがあるのよ。お駄賃も少しだけどあげるわよ」

 突然の救いに、ぱっと笑顔が弾けた。嬉しくなって、今までの焦りがどこかへ行ってしまったかのようだ。

「本当!? 僕やるよ! 何をすればいいの!?」
「壊れた物の修理なんだけど、おばちゃん手が上手く動かないのよ。それで出来なくて、ちょうど人手を探していたのよ」

 内容を聞いて、更に心が喜んだ。修理なら、僕にも出来る。いや、この町の人間なら誰にだって出来ることだ。
 それなのに、ご近所さんは僕に頼んでくれた。

 神様が、味方してくれている気がした。

***

 修理品があるという家へ行くと、僕の家より少し大きな家があった。もちろん、中も広い。
 普段、ほとんど見ない他人の家は新鮮で、きょろきょろと辺りを見回してしまう。

 置いてある物を見るだけで、僕の家より遥かに裕福だと分かってしまった。それでも、町の中では貧しい方なのだろうけれど。格好が似ていたから、推測した。
 それでも、羨ましく感じた。同時に、お駄賃への期待も高まった。

 修理品というのは、木造の椅子だった。右前の足が、真っ二つに折れている。見事なくらい綺麗に折れていた。

 修理方法は、新たな木材を横に添え、折れた足をくっつける方法だった。見栄えは決して良いとは言えないが、僕らの町では一般的な方法の一つである。

 添え木から元の木へと、釘を打ち込む作業は力が要った。手が痛くなるし、汗も出る。
 けれど、お金を手に入れるため、無我夢中で取り組んだ。

「ヘンリーくん、ありがとう。少し休憩しない?」

 優しい声に呼ばれ後ろを見ると、お菓子が目に飛び込んできた。手作りの薄いパンケーキが、一枚皿に乗っている。横には紅茶もあった。

「えっ、凄い! 僕、おやつなんて初めて! 嬉しいな」
「そうなの? 喜んでくれたなら良かった、はい」
「わーい! ありがとう!」

 煌きを放つパンケーキに、勢いよく齧り付く。程よい甘みが口の中に広がった。きっと、砂糖というものを使っているのだろう。僕の家には無い調味料だ。

 何度も美味しいと繰り返すと、ご近所さんは嬉しそうに笑ってくれた。

 こんなに楽しく、お金が手に入っても良いんだろうか。
 小さな不安が過ぎったが、楽しいに越したことはないだろう。もちろん大変ではあるが、毎日外で探し回っていたからか、疲れは気にならなかった。

 もっと手伝いをして、お金を稼げたら良いのになぁ。脳内は、明日からの入手法を探していた。

***

 会話したり、休憩したりして、数時間後に修理が終わった。再び椅子は立ち、座っても壊れなかった。

「ヘンリーくん、ありがとう。はい、これお駄賃」

 手から渡されたのは、拾っていたものよりも値の大きい金色の硬貨だった。どのくらいの価値なのかまでは分からないが、集めたものより大きいのは確かだ。
 因みに、更に上は紙のお金になる。

「わーい! ありがとう!」
「欲しいもの買えそう?」
「……えっ、えっと……まだかな……。でも、もう修理ないよね?」

 チラリと上目遣いをすると、ご近所さんは少し困った顔をした。しながら、何か考えている。

「そうねぇ……。あ、ヘンリーくん器用だから、何か作って売ってみるのはどうかしら?」

 そうして飛び出した新たな案に、光を見つけた気分になった。自分では思いつけなかっただろう。

「えっ! 凄い! やってみる!」
「うん、頑張ってね」

 次の方法を発見したからには、急いで取り掛からなければならない。思いを糧に、体が勝手に動き出した。

「お手伝いさせてくれてありがとね! おやつも美味しかったし楽しかったよ!」
「こちらこそ、上手に直してくれてありがとね」
「うん! また何かあったら呼んでね! じゃあね!」

 ぶんぶんと右手を振り、駆け足で外に飛び出した。

***

 初めて触る種類のお金に、胸がルンルンと躍っている。きっと、これなら喜んでくれるだろう。
 けれど、折角なら紙にして渡したい。そうして驚いた顔がみたい。
 この間のように、反応が無かったら怖い――。

 生まれ行く考えを一つに纏めた結果、紙のお金が出来るまで渡さないことに決めた。

 ところで、このお金では何が出来るのだろう。
 今さらな疑問を解決すべく、地元のスーパーマーケットに入ってみることにした。

***

 スーパーマーケットには、色々な人がいた。ほとんどが綺麗な服を着た人だった。
 そして、棚には色々な物が置かれていた。はじめて見る物ばかりで、興奮が止まらなかった。

 いつも買い物はお父さんがしていて、僕はお店に来たことすらなかったのだ。野菜や果物コーナー、雑貨コーナー、お菓子コーナーと、分かれているのに種類があって見入ってしまう。

 そのどれもに、数字の書いた紙が貼られていた。きっとこれが、必要な値段なのだろう。
 だが、今ある知識では、紙の数字とお金とを一致させるのは不可能だった。

「すみませーん、このお金って何買えますか?」

 パンを並べていた店員さんを捕まえ、聞いてみる。店員さんは、差し出したお金を見ると、直ぐに一つの商品を手に取った。小さな丸パン一つだった。

「これが二つくらいかな。お使い?」
「お、お使いじゃないです。えっと、あのパンは買えないんですか?」

 指差したのは、いつも家に置いてある長方形の食パンだった。このコーナーで、唯一見慣れている物品だ。

「あれはね、このお金があと三枚無いと買えないよ」
「えっ、あっ、そうなんですか……あの、紙のお金だとあれがどれくらい買えますか?」
「紙のお金って言うのは、小さい方?」
「大きい方もあるんですか!?」
「三種類くらいあるよ」
「……じゃ、じゃあ小さいので」
「それだと、二個買って少し余るくらいかな」
「……二個、そうですか……」

 初めて知るお金の価値や情報に、驚いてぽかんとしてしまった。僕が思っているよりもずっと、お金を稼ぐのは大変なことなのかもしれない。いや、これまでも大変だとは思っていたが、それ以上に――。

 現実は甘くないのだと、子どもながらに実感した。
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