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有箱

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第七話:もっとお金を手に入れたい

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 キャンディーが物珍しいのか、出だしは好調だった。次々とお客さんが止まり、硬貨を差し出してきた。
 途中、お釣りの計算に戸惑う事もあったが、頭をフル回転させることで、どうにか切り抜けた。
 手作りの物を売る時と比べ、かなり忙しい。その分、短い時間で疲れも溜まるが、休もうとは思わなかった。
 頑張れば頑張るほど、キャンディーを手渡せば手渡すほど、自分にもお金が入って来ているようで嬉しくなった。

***

 しかし、日が照りつける時間になってくると、段々と人が寄り付かなくなってきた。外出している人自体、朝と比べて少なくなった気がする。
 失せた忙しさに比例して、焦りが広がり始めた。
 どうにかして、お客さんを探さなければいけない。
 押し寄せるモヤモヤ感を紛らわせようと、僕は歩き始めた。

 家と家の間の道に入ったり、直接扉を叩いたりして人を探した。これは、朝の説明で受けた方法の一部だ。
 何時間かおこなった結果、朝ほどではないがキャンディーは売れた。
 だが、それでもまだ、箱にはたくさんのキャンディーが残っていて、底は一ミリも見えない。
 途方に暮れそうだった。けれど、頑張った分だけお金になるとの思いが、ひたすらに僕を動かし続けた。
 お父さんやエマの顔を思い出して、我武者羅に歩き回った。声をかけ続けた。

 ――その結果、夜になる頃には箱にあったキャンディーの殆どが売れた。まだ残りはあったが、我ながらよく頑張ったと思う。
 給料は日払いだ。だから、店に戻れば一度目のお給料タイムが待っている。
 体は疲れている筈なのに、心が喜びで跳ね回る。期待で胸が膨らみ、勝手に口が釣りあがった。

***

 夜の町は少し怖い。外灯が設置されているものの、それでも不安になってくる。
 お父さんが、いつもこんな暗い道を歩いていると思うと、とても可哀想になった。今の僕より暗い場所を歩くのだ。きっと毎日怖い思いをしているはずだ。
 更に、仕事を減らして欲しいと思った。

 帰りは、道を覚えたからか行きよりも早く帰れた。それでも、もっと早く戻ってきた人もいるらしい。
 店に入るとき擦れ違った人は、疲れているのか元気が無かった。
 朝と同じようにして、列の後ろで順番を待つ。期待と不安が混ざっていて、不思議な気持ちになっている。
 軽くなった箱を見詰めながら待っていると、直ぐに順番が回ってきた。
 朝と同じ男だ。男の人も頑張ったのか、とても疲れた顔をしている。お疲れ様と平たい声で言って、残りのキャンディーを数え始めた。

***

 数え終わって数秒後、置かれていた小さな小箱から出されたのは金の硬貨三枚と緑の硬貨四枚だった。てっきり紙のお金が貰えると思っていた僕は、驚いて目を丸くしてしまった。
「……えっと、紙のじゃないんですか?」
「そんなそんな! 紙のお金は凄いんだよ。これでも結構なお金なんだから贅沢言っちゃだめだよ」
 男の様子からも、この額は間違っていないと取れる。それでも、受け容れ切れなかった。
「……はい、ごめんなさい」
「明日も頑張ってね」
「……頑張ります……」
 手の中に納まった硬貨を見て、現実に唯々ガッカリした。働く事の大変さが、今更身に染みてきた。

***

 手作りの物を買ってくれたあの人は、想像していた以上のお金持ちだったのだろう。今更思う。
 紙のお金を出してくれたのだ。それほどまでに評価してくれていたのだとも分かった。
 やはり、あの後も物売りを続けていれば良かっただろうか。確実に手に入るとは言いがたいが、働きよりも少ない額にガッカリする事はないかもしれない。
 なんて、売れた場面を除けば変わらないのに。

 もっと、効率よくお金を手にする方法はないのだろうか。たくさん手に入れなければ、お父さんにあげられない。渡せても、きっと仕事を減らしてもらえない。
 もっと、もっと、お金が欲しい。大金が欲しい。何とかして、手に入れたい――。
「聞いてる? お兄ちゃん」
 肩を軽く突かれ、ようやく話しかけられていることに気付いた。エマは困った顔をしている。
「ごめんエマ、何だって?」
「……えっと、大した事じゃないの。ただ、最近帰りが遅いことが多いから心配だなって思って、それだけよ」
「ごめんごめん、今頑張ってるからさ。もう少し辛抱してくれる?」
「もちろんよ」
 もう一言繋がりそうな雰囲気があったが、それ以上は何も言わなかった。ただ無言で、笑顔を浮かべていた。

***

 ガッカリしたとは言え、請け負った仕事は頑張らなくてはいけない。頑張らなければ、お金を手に入れることすら出来ないのだから。
 最初は、もっと上手く行く物だと思っていた。早くに大金を貯めて、三人で楽しい時間を過ごすはずだった。
 なのに、蓋を開ければこうだ。難しさに落ち込みっぱなしである。
 次の方法はどうしようかな。
 割り当てられた新たな町に向かうべく、駆け足しながら考えていた。

***

 新たな町は、昨日よりもお金がなさそうな土地だった。そこかしこにストリートチルドレンはいるし、家もあまり裕福そうには見えない。
 とは言え、我が家よりは綺麗な家が多かったが。
 今日は昨日より大変そうだな。
 ハードになる事を予想しながらも、お金を手に入れるため売り始めた。

 だが、予想は的中してしまった。チラチラと売れはしたが、箱の中身が思った以上に減っていかない。そもそも、人が寄り付いてこない。
 これは、自ら赴いて売りに行くしかないようだ。
 箱を両手で抱え、細い道に入っていく。そこで見つけた人に、片っ端から声をかけた。
 だが、それでもあまり売れなかった。

***

 こうも手応えがないと、段々力がなくなってくる。そうすると不思議とやる気も無くなって、気付けば声も出なくなってしまった。
 ただ、人を探して裏路地をとぼとぼ歩くだけだ。
 しばらく歩いていると、人の気配を道の先に感じた。姿を捉えるべく、再び力ない足で近付く。
 しかし、数歩進んだ所で興味の湧く会話が聞こえてきた。その為、足を止める。
『なぁ、この間の奴幾ら貰った?』
『金四枚かな、おっちゃんケチりすぎ』
『嘘―、災難だったな』
 交わされる会話は、少年たちの物だった。声色から、年は同じか少し上くらいだろう。
『で、お前はどうだった訳?』
『俺? 俺は緑一枚獲得だぜー!』
『うわーマジかよ、稼いでんなー』
 内容は、偶然にも求めている内容そのものだった。雰囲気からも、少年たちは自力でお金を稼いでいるのだと分かる。しかも、大きな額をだ。
 どうにかして方法を知りたい。そして、あわよくば僕も紙のお金が欲しい――。
「何して稼いでるの!? それ僕にも教えて!」
 頭で考えるより先に、体が少年たちの前に乗り出ていた。少年たちは、驚いた顔でこちらを見る。
「お願い! 僕もお金が必要なんだ!」
 反応はお構い無しで思いの丈を伝えると、少年の一人が口の端を吊り上げた。
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