僕をお金にして下さい!

有箱

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第八話:お金の為ならやってみよう

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「金が手に入るなら、お前なんだって出来るか?」
 不安を煽るような前置きに、少し怖気づく。少年たちの目付きは鋭く、まるで睨んでいるようだった。
「な、何でも?」
「あぁ、怖いことも出来るなら教えてやろう。お前みたいな坊ちゃんに出来ると思わないけどな」
 しかし、一方的に好き勝手言われて引き下がれはしない。何より、出来ないと言われると、不思議と遣って退けたくなる。
「き、君たちに出来るなら僕にも出来るさ!」
「本当だな、逃げるなよ」
 それに、今はお金が手に入るなら、何にだって挑戦したいと思っていた。
 今の優先事項は、お金だ。

「店の品物を盗むのさ」
 小声で言い放たれた言葉は、あまり聞きなれない物だった。とは言え、どういう行動かくらいは分かる。
 しかし、それが金稼ぎとどう関係あるかが分からなかった。それに、何より盗むというのは――。
「……盗むの?」
「盗んでそれを売る。仲間になるなら売る場所も教えてやる。簡単な話だろ?」
「で、でも盗むって悪い事じゃないの?」
 そう、盗むというのは悪い事だと教わった。幼い頃、物欲しさに人の物を盗ってしまった時、お父さんに酷く怒られたものだ。
「たくさんある所から少しばかり貰うだけだ、誰の物でもないんだし、そう悪い事じゃないさ。とは言え、見つかればこっ酷く叱られるけどな」
 軽く言って見せた少年の言葉に、嘘は無さそうだった。やっぱり、ばれれば怒られてしまうみたいだし。
「……そうなんだ」
 とは言え、それでも迷いはある。だが、
「で? 出来るのかよ。出来ないんならとっとと消えな」
「で、出来るよ! 上手に出来ればお金が貰えるんでしょ?」
 引き下がれなかった。ここで逃げては怖がりみたいではないか、と強がりが前に出た。
「そうだ、少なくともお前が今やってる仕事よりはたっぷり貰えるぜ」
「……一回でもいい?」
「もちろん。あ、けど周りには一切喋るなよ」
「……分かったよ! 僕やってみるよ!」
 それに、何よりお金がたくさん手に入るなら、挑戦する価値はある。
 そこまで悪い事でないのなら、きっと大丈夫だろう。
 決意した瞬間、少年たちは仲間として僕を迎えてくれた。そして、早速遣り方やコツなど教えてくれた。少年たちは手馴れているのか、やけに詳しかった。
 別れ際には、キャンディーをたくさん買ってくれた。

***

 二日間に亘るキャンディー売りの仕事が終わって、へとへとした足取りで家まで歩く。
 稼いだお金は、全部足しても紙にはならなかった。
 ポケットの中で音を鳴らすお金に、価値が無い訳じゃない。けれど、足りないと思ってしまう。
 これでは、まだお父さんに渡せない。物を売った分と足しても、きっと振り向いてくれるだけにはならない。
 だから、次こそ頑張らなくちゃ。少し怖いけれど、頑張れば大きなお金が入ってくるはずだから。
 全ては、家族の為に。
 そう言い聞かせて、少年たちの説明を一から辿り始めた。

***

 真っ暗な空の下を歩き、家に入ると声が聞こえてきた。エマの小さな『おかえり』だ。
「あ、あれ? エマ起きてたの」
 いつもなら、このくらいの暗さになればエマは寝てしまうのに。不思議になりながら汚れた服を脱ぐ。
「えぇ、お兄ちゃんを待ってたのよ」
「あ、なるほどね。寝てて良かったのに」
「やっぱり、お兄ちゃんの顔を見てから眠りたくて」
 寂しそうな雰囲気を感じて振り向いたが、エマはいつもの優しい笑顔をしていた。
「……そっか、遅くなっちゃってごめんね」
「お仕事どうだった? いっぱいお金もらえた?」
 笑顔で繰り出される質問に、ぎくりとしてしまう。何も知らないのだから仕方がない、と回答を必死に組み立てた。
「そ、それなんだけど……」
 エマは、瞳を丸くする。
「また、新しいお仕事をする事になったから、それが終わってからにするよ」
 そうしてから、また笑った。
「……そうなの、お兄ちゃんは凄いわね。一生懸命で。私、応援してるわ」
「うん、頑張るよー……」
 エマ、もう少しの辛抱だよ。お金をいっぱい稼いだら、お父さんとたくさん居られるようになるからね。たくさん話せるようになるからね。
 だから、僕は頑張るよ。

***

 翌日、早速盗みを行う為、少年たちと落ち合った。少年たちは情報を仕入れてくれているらしく、初めての僕に良い場所を教えてくれた。物を入れる、肩掛け鞄も貸してくれた。
「じゃあヘンリー、へまするんじゃねぇぞ。あと、覚えてるな?」
 念を押され、昨日何度も繰り返された約束を思い返す。その約束は、僕を含む、仲間を全員守る為の約束らしい。
「うん。もし見つかっても二人のことは言わない。何をしようとしてたかも言わない。でしょ?」
「よし、完璧だ! じゃあ解散だ! 頑張れよ! 健闘を祈る!」
 見送りの意味を込めてか、背中を強く叩かれた。正直痛かった。少年たちが先に道を抜ける様子を、僕は緊張しながら見詰めた。

***

 今更、手汗が溢れ出ている。昨日から不安だったのは変わりないが、いざ実行すると思うと緊張感が凄まじい。
 呼吸も、鼓動も速くなる。素早く動くのがコツだと教わったのに、足が震えてしまっている。
 狙うのは小さな雑貨店だ。それも、開店前を狙う。情報によると、ここの店主は馬鹿な人らしい。馬鹿だから、殆ど気付かれないのだそうだ。

 店の前を行き来する人が消えるのを、物陰に隠れて窺う。完全に居なくなってから行きたい所だが、そこを狙おうとすれば時間が足りなくなること決定だろう。
 勇気が試されている気がした。人の視線がない瞬間に、店の中に飛び込まなければならない。そうして、店から出なければならない。
 途轍もなく難しいという事に、今更気付いた。
 けれど、ここまで来てしまってはやるしかないのだ。屁っ放り腰だと言われない為にも、家族の時間を手に入れる為にも、僕がやるしか――。

 神経を研ぎ澄まし、人の目がない瞬間を狙って店に入った。店の中には誰も居なかった。
 店主であろう男の笑声が、少し遠くから聞こえてくる。どうやら、店の外にいるらしい。
 男の声が聞こえている内にと、物を幾つか鞄に詰め込んだ。出来るだけ、小さくて高価そうな物を選んだ。教えられた通りに、減っていないよう並べ替える作業もした。
 一分一秒が長かった。今にも誰かが入ってくるのではないかと冷や冷やした。
 正直な話、生きた心地がしなかった。

***

 それから数分後、僕は裏路地を歩く。
 成功だ。成功したのだ。緊張は今だ解けず、服の中が気持ち悪いが上手く遣り切ったのだ。
 だが、もう今回で十分だと思った。何も無かったから良いものの、あまりにも恐ろしすぎた。
 カラカラとベルを鳴らし、とある店に入る。終わったらここへ行くようにと、少年たちに指示された場所だ。
 内装は薄暗く、疎らに物は置かれていたが営業の雰囲気は無かった。カウンターに白髭のお爺さんがいた。
「……す、すみません、星のお菓子ってありますか?」
 お爺さんは、目を細めて僕を見る。見詰められて数秒後、やっと立ち上がった。
「新入りか。こちらへ」 
 指先が示したのは、店の奥の扉だった。お爺さんは、僕を置いて消えてゆく。
 どうやら、呪文が通じたらしい。星のお菓子と言えば通じるとは言われていたが、正直不安だった。
 お爺さんの消えた先へ、僕も駆け足で向かった。
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