僕をお金にして下さい!

有箱

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第十二話:ここが地獄でも僕は

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 翌日も、その翌日も何時も通りに出かけた。約束の日まで別の方法でお金を得ようと考えたが、どうしても頭が回らなかった。
 新たな策は難しいと思い最初の方法を試してみたが、労働量と金額の差額が大きすぎて直ぐに諦めた。
 手伝いもなければアルバイトの募集もなく、結局昼過ぎに帰宅した。エマは喜んでいた。
 そして時間が過ぎ、約束の日になった。

***

 おじ様は、今日も白いバスローブを来ていた。富裕層の部屋着とは、こういうものなのかもしれない。
「やぁ、よく来たね」
「こ、こんにちは!」
 体が拒絶を示したが、外には出さないよう必死に努めた。何度も何度も〝お金を貰う為〟と、自分に聞かせる。
 ベッドに座ると、早速おじ様が服の裾に手をかけた。思わず硬直してしまうが、それでも手は止まらない。
 そのまま全て脱がされて、抱き抱えられるように真ん中に移動させられた。

 それからは、この間と一緒だった。ただ、何度も何度も触れられ、時には揉まれるようにされたり、逆に撫でるように触れられたりもした。
 心の底から不快だと思った。
 もちろん、出さないよう耐えたけれど――。
「よし、じゃあ今日はこの間の続きをしよう」
「え? 続きですか……?」
 驚きすぎて、勝手に声が溢れ出した。ハッとなり口を塞ぎながら、おじ様を横目で見る。
 おじ様は笑っていた。楽しそうな笑顔は、一切崩れていない。上手く遣り過ごせたと、小さく安堵してしまった。
「そうだよ。止めておくかい? それなら、今までのことは無かった事になるけど」
「……そ、それは」
 これ以上があると知らなかった――いや、これ以上何かがあると考えたくなかったのかもしれない。
 今の段階でも十分不愉快なのに。心が病みそうになるのに。
 それでも、これまでの我慢を零にされるのも、金を得る手段を失うのも怖かった。
 二つの怖さが鬩ぎ合う。どちらの恐怖を味わうか、決めるのにはあまりにも時間が短すぎる。
「そうだな。私は本当に君が気に入ったからね。昨日の倍上乗せしてもいい、どうかな?」
 おじ様が加えてきた魅力的な話に、心が吸い寄せられた。長い期間に亘り、心にお金と家族だけを置いてきたのだ。稼ぐ事と叶える事だけを、必死に考えてきたのだ。
 ここに来て、止められない。願いを叶えなければ、今までの努力すら泡と化してしまう――そんな気がした。
「……わ、分かりました! 僕、何でもします!」
 答えを聞いたおじさんの、笑い方が少し変わる。少し不気味に見えた笑顔は、安心を一つも生まなかった。
「では、始めよう」
 発すると共に動いた手は、バスローブの襟を掴んだ。

***

 ――地獄を見た気分だった。初めて味わう〝それ〟は、僕には早すぎたのかもしれない。
 されるがままの行為は、僕の体力と精神力を極端に奪った。それでも何でもするといった手前、制止はかけられなかった。ひたすらに耐えた。
「明後日も、同じ時間に来られるかい?」
 呆然としていた状態で話しかけられ、顔を上げると〝報い〟が見えた。直ぐに我を取り戻し、散らばるそれを拾い集める。
 それは――お金は全部で十枚あった。
 本当に倍にしてくれたのだ。これなら、近い内にでも一万枚溜まるかもしれない。
 もちろん、行為に耐え続ければの話だけれど。
 酷使された体と、お金が欲しいとの願いが、またもぶつかり始めた。両者一歩も譲らず、答えを決めさせてくれない。
「そろそろ私も時間だから、出来れば直ぐに決めて欲しいんだが」
 だが、急かされ突拍子に声が出る。
「明後日、また来ます!」
「分かった、待っているよ」
 先に部屋を出た、おじ様の姿が消えた。直後、後悔が溢れ出す。
 言い表せない罪悪感と悲しみで、少しだけ泣いた。

***

 それから、また何日も何日も経った。正確な期間までは記憶していないが、季節を一つ跨ぎそうななるほどには経った。
 その間に何度もおじ様との行為を繰り返し、ついには慣れさえ感じ始めていた。
 その間、疲れて眠ってしまうことが多くなって、お父さんとは全く会えていない状態だ。エマとも、満足に話せていない気がする。
 けれど頑張れば、今会えていない分の――それ以上の時間を過ごせるようになるはずだから。
 だから、もう少しの辛抱だ。
 そう、何度も自分に言い聞かせた。

***

「おじ様って、どうしてそんなにお金持ちになったの? 凄く良いお仕事してるの?」
 お互い裸でベッドに横たわりながら、ずっと気になっていた疑問をぶつけてみた。長い事同じ事をしていれば、人間不思議と慣れてしまうものなのだと知った。
 今では、行為一つで大金が貰えるなら、楽だとさえ考えるようになったほどだ。
「良いお仕事か。まぁ、金回りは他よりはいいな」
 おじ様は相変わらずの笑顔だ。けれど、性格も素性も何一つ悟らせない。怒らない人なのかと思いきや、時々怖い顔をしたりで、未だにどんな人か掴めない。
「それって、おじ様とこういうことするよりも儲かる?」
「まぁ、儲かるな。なんだ、興味があるのか?」
「え、えっと、あの……」
 湧きだした興味を沈めるか否か、迷っているとおじ様の携帯が鳴った。おじ様は、急いで受信ボタンを押す。
 話が打ち切られ少し残念に思っていると、おじ様の口から信じられない言葉が聞こえてきた。語気も大幅に変化し、厳つさを醸している。
『それは仕方がねぇことだ、悪いのはあっちだからな。迅速に殺せ』
 一瞬聞き間違いかとも思ったが、それ以外の言葉が当て嵌まらない。不穏過ぎる単語が聞こえた事で、新たな闇が心内に広がり始めた。
 しかしそれは、なぜか興味へと変わりだす。
 なぜなら、金の話が聞こえてきたからだ。
『一億? あっちのが動けば入るだろうが……それよりこの間の一千万は整ったか? コインでって約束だったが……全く無茶言いやがる』
 膨大な桁の金が動いているのだと、台詞一つで十二分に分かる。希った一億も、おじ様の世界では普通に動くのだ。
『じゃあ、切るからな』
「ねぇ! おじさんの仕事ってなんなの?」
 電話が切れたと脳が判断した直後、興味は爆発していた。おじ様は、少し驚いてまた笑い出す。
「突然どうした? まぁ、さっきのを聞いてた訳だし今更隠しても仕方がないな。俺は殺し屋だ」
 流暢に暴露された職業に、衝撃が隠せなかった。声も詰まり、ただあんぐりとしてしまう。
「なぁに、お前さんを殺そうとは思わないよ。俺は悪い人間しか殺さないからな。まぁ言っちまえば警察と何ら変わらないよ。処刑専門なだけさ」
 だが、それを聞いて少し安心した。自分が、この人にとって悪い人間でないのは分かっていたし、それに警察と同じなら正義の仕事とも呼べそうだ。
 とは言え、それでも〝殺し屋〟と言う名に恐怖は取り去れなかったが。
「……なんだ、そうなんだ。警察の人と一緒の仕事なら怖くないね……」
 おじ様は、再び大口を開けて笑う。そうして、突拍子もない事を言い出した。
「お前、前々から思ってたが金が好きだよな?」
「えっ!」
 好きという表現に違和感を覚えつつ、完全な否定も出来る気がしなかった。好きか嫌いかで問われれば、もちろん好きだし。だが、それは。
「お、お金が好きって言うか……僕はただ……」
「じゃあ、お前も仕事をしないか?」
 おじ様を見ると、今まで見たこともない鋭い眼差しをしていた。
 それはまるで、拒否を許さないかのような眼差しだった。恐怖心が、溢れて止まらなかった。
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