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第十一話:恥ずかしいけど頑張るよ

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「着いたよ。ここが例の人物の家だ」
 目的地に辿り着いた時、開いた口が塞がらなかった。止まった時点でもしやと思ったが、本当にそうだとは思っていなかった。
 目の前には、見たこともない大豪邸があったのだ。
 数メートル先にも同じような建物が幾つかある事から、富裕層が多い地域なのだろうと推測した。それが理由なのか、物珍しそうな目は全くなかった。
「凄いね! こんなお屋敷に入れるなんて吃驚だよ!」
「行儀良くするんだぞ。お金の為にな」
「うん、頑張るよ!」 
 男は、玄関先のベルを鳴らす。すると、直ぐにエプロン姿の女の人が出てきた。
「ご主人より話は窺っております。こちらへ」
 大きな門が開く――と思いきや、開いたのは横の小さな扉だった。男に背を押され、庭へと踏み込む。
「帰りは一人で帰れるな?」
「うん! ありがとうおじさん!」
 入ると直ぐに扉が閉まった。重そうな素材の扉であったのに関わらず、音はあまり大きくなかった。

***

 女の人に誘導され、長い長い廊下を歩く。煌びやかな装飾を前に、羨ましさとワクワク感が生まれた。
 こんなにも広いのに人の気配はなく、物音も全く無かった。
 とある部屋の前で、女の人が立ち止まる。そうして、扉を何度かノックした。無意識に体に力が入り、背筋が伸びるのが分かった。
「入りたまえ、少年」
 ご主人と呼ばれる男の声がし、女の人によって扉が開けられる。中にいたご主人は、貫禄ある笑顔のおじ様だった。なぜかバスローブを着用していたが、漂う清潔感はさすが金持ちだと褒めたくなる。
 服装に違和感を覚えつつ、滲み出す金持ち感に心は躍りだす。今まで目に焼き付けてきた全てが、金の匂いをさせていたのだ。期待が膨らまない訳がなかった。
「少年、話は聞いているかい?」
 ベッドに腰掛けていたおじ様は、軽く横の空間を叩く。こっちに来なさいと言われていると判断し、近付く。
「は、はい。何でも貴方様の言う事を聞くようにって聞いてます」
「ははは、それはまたアバウトな説明だな」
 横に腰掛けると、仄かな石鹸の香りがした。洗濯場で時々香った物より良い匂いがする。
 おじ様は、ずっとニコニコしっ放しだ。
「ぼ、僕何でも頑張ります!」
「そうか、では早速脱いでもらおうか」
「えっ」
 早すぎる言いつけに、心が追いつかない。
 しかし、これを超えなければ報酬にはありつけないのだ。何度もしたシュミレーションを、もう一度おさらいする。
「…………は、い…………」
 恥は捨てる。そう決めていた。全部は家族の為だと言い聞かせた。お金を貰う為だと。たくさんのお金を貰う為だと――。

*** 

 おじ様は、ずっと表情を変えなかった。終始ニコニコしたまま、ベッド中央部で脱ぎ進める僕の体を見ていた――見詰めていた。
 恥ずかしさで顔から火が出そうになったが、何とか最後の一枚まで脱ぎきった。いや、今現在も恥ずかしさで倒れてしまいそうだ。
 結局、全て取り去るのに随分な時間が掛かってしまった。それに、どうしても見せたくない部分は、無意識にシーツで隠してしまう。
 やはり、他人に裸を見せるのは嫌な気分になった。しかし、これにさえ慣れてしまえば後は楽なはずだ。
 おじ様は、裸になった僕を上から下までじっくりと眺めた。目が合うと気まずくなってしまうと、必死に目をそらし続ける。
 ふと、するりと動く手の感触を感じた。座りこむ太ももを柔らかく撫でている。走った悪寒を隠すように、ぐっと体勢を固定した。
「もしかして、こういうの初めてかい?」
「えっ、あっ、はいそうです……」
 聞いていたように、おじ様は体の色々な部分を触り始めた。それこそ上から下まで、耳から足先に至るまで、ほぼ全て。
「そうか。恥じらいがあって何とも可愛らしいな。お金はたっぷり上げるから安心したまえ」
「えっ、あっ、はい……」
 最終的に、シーツも全て剥ぎ取られた。

***

 扉から女の人の声が聞こえたことで、行動に終止符が打たれた。体感的には長い時間だったが、おじ様的には短かったらしく、漏れた呟きが感覚を表現していた。
「……はぁ、折角これからだって時になぁ」
 終わりが見えたことで、緊張の糸が緩まる。その頃には、顔面のみならず全身が真っ赤になってしまっていた。恥ずかしさが齎した熱は、体中を熱くした。
 初めて他人に裸を見せ、素肌を触られ続けた。そんな初めての体験は実に心地悪く、悪夢のようだった。
 けれど、全ては幸せの為と言い聞かせて耐えた。それでも、何度も帰りたいと願った。
 もう懲り懲りだ、とも思った。

 緊張は解けたものの、その場から中々動けなかった。それとは裏腹に、おじ様は立ち上がり角の箪笥へと歩いてゆく。そして、直ぐに翻る。
「私は君が気に入ったよ。ほら、これが今日の分だ。」
 そうして、僕の目の前にお金を――金のお金を五枚散らかした。
 喜ぶ為の声も出ないのに、勝手に手が伸びる。五枚の紙幣を握り締め、残る恥を移すように見詰めた。
 聞いていたよりも大きな金額に、少しだけ苦痛が和らいだ気がした。
「明々後日、時間あるかな?」
 正直な話、もう嫌だと思った。
 ただ服を脱いで、体中を触られるだけ。頭で単純化してみても、生まれた拒否感は拭えない。
 しかし、手の中にあるお金が迷いを抱かせる。
「…………はい……」
 ――そして、最終的には肯定していた。
「では、同じ時間に来てくれたまえ」
 心の中のもやもやを押し潰すように、右手で紙幣を握り締めた。

***

 教えられた裏口から外に出ると、まだ昼前だった。時間の感覚の狂い様に驚いてしまう。何時間も屋敷にいたと思ったのに。
 今更、どっと疲れが押し寄せてきた。それでも、仕事を終えたなら家に帰らなくてはならない。
 昼前に帰宅できるのだから、きっとエマは喜ぶだろう。
 笑顔を思い出してみるが、出てくるのはおじ様の顔と手の感触だけだった。
 後悔の波が押し寄せるたび、ポケットに入れた髪の感触を確かめた。

***

「お兄ちゃん、今日は早いのね! お仕事上手く行った?」
 帰宅すると、予想通りの笑顔が迎え入れてくれた。服は、ばれないよう家の裏に置いて来た。手作りの家具の下にあるから、濡れる心配は無用だ。
「う、うん。上手く行ったよー。たくさん稼いで直ぐにお父さんと居られるようにしてあげるからね」
 どうしてか、今日稼いだお金を見せる気にはならなかった。その工程を飛ばして、定位置にお金を片付ける。
「ふふ、嬉しいわ。早く皆で一緒にいられるようになりたいな」
 エマは何も疑う事無く、変わらない笑顔で僕を見続ける。その純粋な笑顔が、少し悲しさを呼んだ。
「直ぐになるよー。お兄ちゃんは疲れたから少し眠るね」
 背を向け、横たわる。作り笑いに疲れたとの理由を、エマは感じ取っていないようだ。
「分かったわ。お兄ちゃん、いつもがんばってくれてありがとね」
 ――返事が出来なかった。
 初めて、寝たふりというものをした。
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