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有箱

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第十話:お金をいっぱい稼ぐ為なら

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 もう少しで、警察に突き出されるところだった。実際に連れて行かれる場面を想像すると、今でも緊張が解けない。
 この行為の怖さが、今初めて分かった。
 明日はどうしよう。何時も通りやれば大丈夫だろうか。今度はもっと注意を払って、事前準備もちゃんとして、確実性を見出してから行けば――なんて、完全な安全等あるはずがないのに。
 考えながら、ぼんやりと外に出る。怖い思いをしてまで必死に掴み取った商品は、一銭の価値にすらならなかった。それに、使い方も分からないでは本当にゴミと同じだ。
 置いておかれても困ると言われ、持っては来た。しかしそれも不安になってきた為、裏路地で捨てようと決めた。
 人の行き交う表通りから、裏路地へ――入ると直ぐに、覚えのある人間と遭遇した。壁面に背を預けている。
 それは、先ほど店から出て行ったはずの男だった。
「お金が欲しいのかい?」
「えっ?」
「君も転売屋に品を売ってるんだろう? それはお金が足りないからだと踏んだのだが」
 転売屋とは、お爺さんの事だろう。やはり、男も同じ事をしていたのだ。
「そうです、お金がないと家族で過ごせないんです……」
「そうか、それは大変だ。お金がないと時間も作れないからな。そこで提案があるんだが」
 得体の知れない状況に身構える。だが、逃げようとは思わなかった。
 今の僕にとって、男の話は興味を引く物だったからだ。いや、興味どころじゃない。新たな方法を求めていた僕にとって、良い話かもしれないのだ。
「君、体を売らないか?」
「……か、体? それって奴隷になるって事?」
 この地域ではあまり耳にする話ではないが、他の地域では〝人身売買〟という物があるらしい。親から引き離されて、遠くの土地へと売られてしまうらしい。
 さすがに、お金が手に入ると言ってもそれは断りたい。あまりにも怖すぎる。何より、家族と共にいられなくなっては意味がないのだ。
「いいや、違う。家には毎日帰れるよ」
 聞いた事もない話に、疑問だけが積み重なる。体を売るとの単語に不安を覚える裏側で、期待が膨らむのも分かった。
「紹介が遅くなったけど、私は仲介人をしてる者だ。転売屋と似ている仕事かな。ある人が求めている物を探して提供する。君には少し難しいかな」
 しっくりとこないながらも、自分なりに男の仕事を解釈した。要するに、お金をくれる人ということだろう。
「……それって何をするんですか?」
 男が、初めてにっこりと笑った。そうして、順序良く内容を話し始める。
「簡単に説明すると、男の子に興味があるって人がいてね。その人が来て欲しいという日に、その人の家に行く。そうして、その人のいう事を聞く。それだけさ。もしかしたら服を全部脱がなければいけないかもしれないし、触られるかもしれないね」
 後半の詳しい話を聞きながら、勝手に頬が赤くなった。考えるだけで照れてしまうし、家族じゃない人に触られるのは快く受け容れられない。
「……そ、それはちょっと……」
「でも、その分大きなお金は貰えるだろう。そうだな……一回に付き二万……あ、紙のお金の金色が二枚、気に入られれば倍になるときもあるかもしれない。我慢さえ出来れば割りの良い仕事さ」
 その瞬間、迷いが生じた。今までずっと求めてきた紙のお金が――それも金色のお金が意とも簡単に手に入るというのだ。それも、毎日家に帰れて、仕事自体は多分連日ではない。
 デメリットは、嫌な思いをするかもしれないこと。それだけ。言ってしまえば、それだけなのだ。
 自分一人が我慢すれば、家族三人で話せる時間が増える。願いが叶うのだ。
「……危険はない?」
「そうだな、可笑しな事を言ったりしなければ無いよ」
「本当だね?」
「少なくとも、君がしてた盗難よりは簡単だよ」
 言う事だけ聞けば怖い思いをせず家にも帰れて、それで大きなお金がもらえる。こんなに美味しい話を、今まで聞いた事がない。
 他に宛てがない今、断る理由が思いつかない――。
「僕やるよ!」
「よし、決まりだ」
 男はとある地区の名を出した。地図で確認すると、直ぐに行き方が分かった。物売りをした町から二つほど向こうの町だ。
 そこで、明日もう一度会う約束をした。

***

 仕事については、お父さんはもちろんエマにも言えなかった。他人に体を見せ、触れられるかもしれない仕事なんて言えるはずもなかった。
 たくさんのお金を得たら、適当な話を作って渡そう。お父さんが、朝から晩まで働かなくてもよくなるくらい溜まったら。そうしたら、僕もこの仕事を辞めよう。
 そう思いながら、夜を過ごした。

 翌日、眠気を残したまま待ち合わせの場所に行った。昨日と似た裏路地で、人通りが全くなかった。
 そこには、昨日とは違う服を着た男が立っている。
 違うと言っても、ただ柄が変わっただけの話ではない。生地が、作りが、豪華さが明らかに違ったのだ。
「おじさん、どうしたのその服?」
「今からお仕事相手に会いに行くからね、君にもこれを来てもらうよ」
 そうして差し出されたのは、美しい生地で出来た白い服だった。
「えっ? これを着て良いの!?」
 畳まれた状態の物を広げ、見回してみる。手触りが良く、まるで王子様の着る服だった。花のような良い香りがした。
 袖を通してみると、とても柔らかかった。
「君には綺麗になってもらわないとね。じゃあそれを着たら行こうか」
 仕事の内容に対しての不安も残ってはいたが、どうしてか気分が昂ぶった。自分がお金持ちになった気分が、そうさせているのかもしれない。
 本当にいつか、自分の力で手に入れた服を着られたら。
 新たな願望が浮き上がり、意欲を増進させた。

***


「お金がどれくらいあれば、働かなくてもよくなるかな?」
 目的地に向かう途中、男に聞いてみた。横を歩いていた男は、軽めの笑声を零す。
「難しい質問だな。お金は幾らあっても足りない物だからな。一生遊んで暮らそうとなると一億、二億……いや、それでも足りないだろうな」
 聞いた事もない桁が出てきて、膨大な数字であろう事は分かった。だが、どのくらい大きいのかまでは分からない。
「それって金の紙のお金だとどのくらいなの? その一億ってやつ」
「ちょっと待ってくれよ……?」
 男は言いながら、ポケットから何かを取り出した。薄くて四角いそれは、眩しい光を放っている。
「それ何?」
「携帯さ。遠くの人間と離せたり、調べものも出来るハイテクな奴だ」
「へぇ、凄いんだね」
 男がなぜ、そんな凄そうな物を持っているのか疑問になった。見知らぬ物に興味も湧く。だが、それ以上に今は金の情報が気にかかった。
「どうやら、金の紙幣が一万枚ほどあれば一億になるようだ。まぁ、頑張り続ければいつかは溜まる額さ」
 回答で頭が真っ白になる。正直な話、一万なんて桁あまり聞かないし、どのくらいの大きさなのか見当も付かない。
「……よく分からないけど、頑張れば手に入るんだね?」
「君の努力次第さ」
 故に結局は、男の言葉を信じるしかなかった。だが、無謀な挑戦では無いと分かっただけでも一安心である。
 嫌な事を言われるかもしれない。それでも、言ってしまえば〝言う事を聞くだけ〟の簡単なお仕事だ。
 それさえ頑張れば、我慢出来れば大きなお金を手に入れることが出来る。
「僕、頑張るよ!」
 男は、チラリと僕を見て軽く笑った。
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