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第三話
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シュガの勤め先、そこは病院だった。
ただし地下に牢獄が設置されている。
「シュガ、捕虜一名連れて来ました」
両腕を縛った上、銃まで突きつけ、何時もの男が敵兵の青年を部屋へと連れてきた。青年は涙目だ。
因みに男の名はグロードと言い、捕虜の移動をさせる役の人間だ。他にも同じ仕事を持つ者は幾人も居るが、この部屋に出入りするのはグロードのみである。
時折、事情により別の者が来る事もあるが。
「そうですか、ならそこに置いておいて下さい」
部屋にはシュガと血だらけの人間一人、そうして今やってきた二人の、計4人しかいない。
10人程度しか収容出来ないような小さな個室だ。
「分かりました」
グロードは相槌を打つと、青年を適当な場所に手錠で繋ぎ、その場を去っていった。
置き去りにされた青年を見ると、抵抗力は失せているのか、ただただ恐怖に震えていた。恐らく無理やり戦争に参加させられた兵なのだろう。
だが、此処に来てしまった以上もう戻れはしない。返してあげる事も出来ない。
いや、元々帰す気など微塵も無いが。
「…最期に言いたい事は?」
丁寧に屈み青年に問いかけると、青年は形にしきれていない無様な叫びを上げた。
「お、お願い…です…から…!殺さ…な…いで下…さ…い…!!か、家族が、う、うち、に…居るんです…!」
震えによって歯の噛み合わせが上手く出来ないのだろう。青年は言葉を発音するのに手間取っていた。
だが、シュガは言葉の全てを静かに聞きとめる。
「申し訳有りません、これが運の尽きだと思って下さい」
言葉が消えると、シュガは冷静な面持ちで青年の肩に触れた。そして重症患者の腕に触れる。
「…何…」
「さようなら」
言葉の直後、青年の体は大きく跳ね上がる。そうして悶え苦しむ姿を、シュガは冷めた目で見ていた。
命を差し出したものは苦しみ、命を受け取ったものは癒されてゆく。それがこの力の決まりだ。その原則に、もう抵抗は無かった。
役職上、私は医師だ。医師としての知識や技術も勿論持っている。
だが行う仕事は人を殺し、その分だけ人を助ける仕事だ。
補足だが医師になって分かった事が一つある。
命を差し出したものは、心臓発作に似た症状に陥るのだと気付いた。ただ、似ているだけで実際はもっと酷いのが現実だが。
最終段階を終え、目を見開いたまま死んだ敵兵の青年に対し、哀れみの感情は全く無かった。
ただし地下に牢獄が設置されている。
「シュガ、捕虜一名連れて来ました」
両腕を縛った上、銃まで突きつけ、何時もの男が敵兵の青年を部屋へと連れてきた。青年は涙目だ。
因みに男の名はグロードと言い、捕虜の移動をさせる役の人間だ。他にも同じ仕事を持つ者は幾人も居るが、この部屋に出入りするのはグロードのみである。
時折、事情により別の者が来る事もあるが。
「そうですか、ならそこに置いておいて下さい」
部屋にはシュガと血だらけの人間一人、そうして今やってきた二人の、計4人しかいない。
10人程度しか収容出来ないような小さな個室だ。
「分かりました」
グロードは相槌を打つと、青年を適当な場所に手錠で繋ぎ、その場を去っていった。
置き去りにされた青年を見ると、抵抗力は失せているのか、ただただ恐怖に震えていた。恐らく無理やり戦争に参加させられた兵なのだろう。
だが、此処に来てしまった以上もう戻れはしない。返してあげる事も出来ない。
いや、元々帰す気など微塵も無いが。
「…最期に言いたい事は?」
丁寧に屈み青年に問いかけると、青年は形にしきれていない無様な叫びを上げた。
「お、お願い…です…から…!殺さ…な…いで下…さ…い…!!か、家族が、う、うち、に…居るんです…!」
震えによって歯の噛み合わせが上手く出来ないのだろう。青年は言葉を発音するのに手間取っていた。
だが、シュガは言葉の全てを静かに聞きとめる。
「申し訳有りません、これが運の尽きだと思って下さい」
言葉が消えると、シュガは冷静な面持ちで青年の肩に触れた。そして重症患者の腕に触れる。
「…何…」
「さようなら」
言葉の直後、青年の体は大きく跳ね上がる。そうして悶え苦しむ姿を、シュガは冷めた目で見ていた。
命を差し出したものは苦しみ、命を受け取ったものは癒されてゆく。それがこの力の決まりだ。その原則に、もう抵抗は無かった。
役職上、私は医師だ。医師としての知識や技術も勿論持っている。
だが行う仕事は人を殺し、その分だけ人を助ける仕事だ。
補足だが医師になって分かった事が一つある。
命を差し出したものは、心臓発作に似た症状に陥るのだと気付いた。ただ、似ているだけで実際はもっと酷いのが現実だが。
最終段階を終え、目を見開いたまま死んだ敵兵の青年に対し、哀れみの感情は全く無かった。
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