惜別の赤涙

有箱

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第四話

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 毎度のように仕事を終わらせ、院内の食堂に顔を出したシュガに、とある女性が近付いてきた。

「シュガ!久しぶり!」

 その手には、支給された給食があった。

「ああシック、お久しぶりです」

 彼女の名前はシックと言い、ベテラン女医だ。
 勿論シュガの仕事を知っている。いや、シックに限らず、この病院の者なら誰しもが知っている事だ。

「隣良いかな」

 だが、その中でも能力を気味悪がる者と、こうして近付いてくる者は分かれた。施設の時と同様、断然近付いて来る者の方が少ない。
 それは恐怖を抱いての事だろうが。

「良いですよ」

 始めて離し掛けられた時は、まるでプリアのような存在だと重ねたが、過去の事だと割り切ってはいた為、避けようとは思わず今こうして友人として付き合っている。

 シックはシュガの横に付いたまま行動し、シュガが腰を掛けるとシックも腰掛けた。そして、支給品のパック飲料にストローを突き刺す。

「今日も仕事して来たんでしょ?お疲れ様」

 シュガは、味気ないスープを口に運んだ。

「シックもお疲れ様です。どうですか?最近の状態は」

 訊ねられ、シックはストローを加えたまま考える。そして、考え付いたらしくストローを口から離した。

「う~ん、良くない。患者が増えてる。それも重傷患者がさ…ってそれは知ってるか」

 役職上、とシックは言っているのだ。

「いえ、確かめたかっただけなので…、やはり増えているのですね」

 勿論増加は承知済みだ。重病傷患者を相手にする仕事ゆえ、知りたくなくとも知ってしまうのである。

「そうそう、死人も増えてもう最悪…」

 溜め息混じりに答えながら、シックは白飯に手をつけた。

「なんて言っちゃ駄目なんだろうけどやっぱ滅入るわ」

 そしてから、メインである魚の煮付けを口中に放る。

「そうでしょうね」

 互いに、視線を食事の乗るトレーへと落とし、周囲の目線は無視して話し続ける。

「あ、そう言えば聞いた?」
「何をですか?」

 シュガは、口元へとスプーンを動かしながら、横目でシックを見た。

「リュジィが兵になったって」

 シックは口に物を含んだまま、器用に言葉を吐く。

「そうなんですか」

 初耳だ。因みにリュジィと言うのは医師仲間の一人だ。嘗ては、の話だが。

「うん。助ける為に医師してるのに、助けた以上に人が死んでくから嫌になったって、だったら傍観してるだけじゃなくて自分から出向いて戦争を終わらせる一員になるって言って」

 戦時下で働く医師なら、誰もが感じた事があるだろうジレンマだ。

「そうですか…」

 それ故に、そのような行動を取る者は少なからず居る。

「馬鹿だよね。リュジィもさ、自分一人行った所で死ぬだけなのに」

 シックの、一見皮肉な意見は正論だ。戦場の中心部に踏み込めば、それは死んだも同然なのだ。
 そんな概念が、ここでは染み付いている。

「確かにそうですね。でも自分で決めた事ならばそれで良いのではないですか?」

 それでも黙っていられない、と言うのが実情だろう。

「まぁ、そうだけど」
「ここも決して安全とは言えないですしね」

 シュガは敢えて、そんな事を口にした。リュジィの決意を尊重する為に、無駄だと思わない為に、だ。
 彼も自分を怖がらずに接してくれた、数少ない友人の一人だ。感謝はしている。

「確かに。そう言えば数日前隣の隣町にあった病院壊されたらしいよ、負傷者来たでしょ?」

 数日前、一斉に患者が運ばれてきた日があった。気にしていなかったからか、原因をシュガは知らなかった。

「ああ、そういう事情があったんですね」
「そうそう、その所為かここ数日皆気が休まらないって感じだもん…」

 自分の働く病院が、この場所が何時戦争によって壊されるか。その破壊行為に自分が巻き込まれてしまわないか。
 恐らく、そうやって皆気を張っているのだ。
 シュガはそんな気を張った事は無いが。

「リュジィもその日辺りから考え込んでたみたいだし…それで決めちゃった感じ?」

 シックはスプーンを加えたまま、不機嫌そうにごもごもと呟いた。
 リュジィの話から、シュガの脳内にとある人物が連想された。

「…そうですか、リガは落ち込んでいるでしょうね」

 そう、医師仲間の一人だ。

「嗚呼!リガね。落ち込んでたよ、凄く」
「でしょうね、親友だって言っていましたから」

 リュジィの横に毎日のように居て、一番近くで笑い合っていた人物だ。勿論、シックやシュガの友人でもある。

「しかも生きて帰ってくる保障も無いしね」
「多分生きては帰って来られないでしょうね」
「だよね~…」
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