惜別の赤涙

有箱

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第六話

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 勿論だが、彼も医師である。形としては¨同僚¨の仲だ。恐らく、席を探していて立ち会ってしまったのだろう。

「何だよ、あからさまに敵意剥き出さなくても」

 シックの表情を反映したかのように、レイギアの表情も険しくなる。

「そっちこそ、また悪口でもいいに来たの?」

 言葉の通り、レイギアがシュガに何かを引っ掛けてくるのは初めてではない。寧ろ何度もある事だった。
 その為、シックとリガの中では相対したくない人物の一人になっていた。
 シュガは、嫌悪される事に慣れすぎて、人間関係など気にかけた事など無かったが。

「悪口じゃねぇ、本当の事だろ。なぁシュガ」
「噂に過ぎませんね、そんな事した覚えはありません」
「でもスパイはわかんねぇだろ?」

 用意されていたかのような切り返しに、食らいついたのはやはりシックだ。

「何を追及したいのよ、あんたは」
「別に――?」

 レイギアが嫌味多大にしらばっくれるのも無視して、シュガは事実を口にした。

「そうですね、殺してしまっているかもしれませんね」

 部屋に捕虜を連れてくる役目の人間が、スパイであると気付かなかった時点で死は決まってしまう。
 仲間が紛れていようと、シュガには判別できないのだ。

「ほーら」

 肯定に高笑いするレイギアに対し、シュガは漸く一瞬だけ表情を変えた。

「それでなんですか?私が悪いとでも?」

 この力を使わなければ助けられない人間は仰山居ると言うのに。一般医師では絶対に助けられない傷病兵を、自分は助けているというのに。
 碇は薄くとも、理不尽さに反抗はしたくなるものだ。 

「いや?医師なのに、と思って」

 尤もな事を高慢な態度で言われ、堪忍袋の緒を切らしたのはシックだった。リガは罪を被ったような顔で萎れている。

「やっぱり言いに来たんじゃないの!」

 レイギアはシックの顔を見詰めると、ニヒルな笑みを浮かべた。

「シックも何時殺されるかわかんねぇぞ。だからそいつとは離れた方が良い」
「遠慮する!」

 そう言いながら腕を組んで目を背けるシックに対し、レイギアは僅かだがハの字に眉を潜め席を離れていった。

 シックが苛立ちに自分を奪われているその瞬間、シュガとリガが二人して目を合わせていたのに誰も気がついていなかった。

 レイギアの姿が見えなくなると、リガは声で謝罪した。

「…ごめん、俺が持ち出したから…」

 その表情を目にした瞬間、レイギアへの負の感情は壊れ、慰めに徹したい気持ちが心を満たす。

「大丈夫ですよ、彼の言う事も尤もですから」

 言ってしまえば、自分の所為でリガは嫌な思いをしているのだ。

「で、あいつは結局何しにきたんだか」

 レイギアの去っていった方向を見遣りながら、苛立ちを含んだ溜め息を吐いたシックに対し、二人はほぼ同時に反応した。

「え?気付きませんでした?」
「あれ?気付かなかった?」
「………え?何が?」

 突然の合唱にシックがまじろいでいると、リガが目を背けて苦笑いしながら食事を再開させた。

「………いや、気付いてなかったなら良いよね、敢えて言う事でもないしね…」

 シュガも意見に同意し、僅かにシックから目を背ける。

「……そうですね…」
「えぇっ!?何よ!」

 多分、レイギアはシックに気がある。確証には至らないが、ほぼ正解と言っても良いだろう。
 当人は、全くもって気付いていないようだが。
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