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第二十二話
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その後暫くして、救助に来た医師達により道は開かれた。
出来事の全貌を聞いたところ、前のように手榴弾が投げ込まれて爆発し、脆くなっていた床が――――シュガたちが居た所だと天井が崩れ落ちたらしい。その勢いで付近の壁や窓なども壊れ、一部は崩壊状態にあるという。
けれどその場所は元々人通りが少なく、被害者は自分達だけだったらしい。
小さな偶然が幾つも重なって、グロードの命を奪う結果になってしまった事に、シュガは耐え切れない重みを感じた。
そして最期の言葉を思い出し、更に強く決意した。
絶対に大切な人を守ろう、何があっても死なせない。
***
あの地下室は、再建設されるまで使えなくなってしまった。対策として、一階の一室を開けてもらい使う事になった。
だが、防音壁も無ければ鍵もない部屋だ。時々間違えて人が入ってくるし、音は駄々漏れだと聞くし、不便で仕方が無かった。
「…終わりました」
扉の前で待っていた男に声をかける。グロードの代わりに職に付いた男だ。
報告だけを聞いて、いそいそと動き出した新しい担当は、口も聞かず怯えた顔で仕事をしていた。
グロードのように身一つで仕事をするのではなく、荷車を持って仕事に励んでいる。その手つきには迷いが多く、不慣れさが伝わってきた。
不思議な気持ちだ。つい昨日まで、そこにはグロードが居た筈なのに今は居ない。そしてこれからも永遠に戻らない。
この命の中に、グロードは消えた。
扉の前で呆然と立ち尽くしていると、遠くからリガが走ってきた。
目前に来て、乱れた呼吸を正しながら問う。
「シュガ、大丈夫?」
「…大丈夫ですよ?」
リガの心配がどういった内容に向けられた物なのか、シュガは分からなかった。怪我をしたと聞いての心配か、グロードが死んだと知っての心配か。
だが、詮索する気にもなれず、適当に返事をしてしまった。リガは心情を知って知らずか、安堵の表情を浮かべた。
「そうか、良かった」
元々陰口は絶えないが、リガとシュガが話しているのを見てか、周辺にいた人間は一層多くの内緒話を始めた。
「…でも、場所変わっちゃってから大変そうだね…」
この部屋は、人通りが多い所にある。廊下も、隣の部屋も良く使われるところだ。故に、常に人の目が鋭く光る。
だが、別にもう隠す理由もない。治療の方法も必要なものも全て、この医院の中では全て知られてしまっている。
「そうでもないですよ」
だから今更、見られたところで何も変わらないのだ。
話していると、部屋から男が出てきた。布が被せられた大きな荷車を、よたよたと押してくる。
リガは、そこからはみ出す死体の一部を見て、一気に顔色を蒼くした。
怯え顔の男が、その事に気付かず通り過ぎてゆく。
「…た、…大変そうだね…」
決してリガが無知な訳ではない。リガだって医師だ、何人もの遺体は見てきているだろう。
きっと驚いたのは、扱われ方の差と、その量に対してだ。
「…いいえ、もう慣れた事ですから…」
その台詞を聞いて、リガは言葉を失っていた。
出来事の全貌を聞いたところ、前のように手榴弾が投げ込まれて爆発し、脆くなっていた床が――――シュガたちが居た所だと天井が崩れ落ちたらしい。その勢いで付近の壁や窓なども壊れ、一部は崩壊状態にあるという。
けれどその場所は元々人通りが少なく、被害者は自分達だけだったらしい。
小さな偶然が幾つも重なって、グロードの命を奪う結果になってしまった事に、シュガは耐え切れない重みを感じた。
そして最期の言葉を思い出し、更に強く決意した。
絶対に大切な人を守ろう、何があっても死なせない。
***
あの地下室は、再建設されるまで使えなくなってしまった。対策として、一階の一室を開けてもらい使う事になった。
だが、防音壁も無ければ鍵もない部屋だ。時々間違えて人が入ってくるし、音は駄々漏れだと聞くし、不便で仕方が無かった。
「…終わりました」
扉の前で待っていた男に声をかける。グロードの代わりに職に付いた男だ。
報告だけを聞いて、いそいそと動き出した新しい担当は、口も聞かず怯えた顔で仕事をしていた。
グロードのように身一つで仕事をするのではなく、荷車を持って仕事に励んでいる。その手つきには迷いが多く、不慣れさが伝わってきた。
不思議な気持ちだ。つい昨日まで、そこにはグロードが居た筈なのに今は居ない。そしてこれからも永遠に戻らない。
この命の中に、グロードは消えた。
扉の前で呆然と立ち尽くしていると、遠くからリガが走ってきた。
目前に来て、乱れた呼吸を正しながら問う。
「シュガ、大丈夫?」
「…大丈夫ですよ?」
リガの心配がどういった内容に向けられた物なのか、シュガは分からなかった。怪我をしたと聞いての心配か、グロードが死んだと知っての心配か。
だが、詮索する気にもなれず、適当に返事をしてしまった。リガは心情を知って知らずか、安堵の表情を浮かべた。
「そうか、良かった」
元々陰口は絶えないが、リガとシュガが話しているのを見てか、周辺にいた人間は一層多くの内緒話を始めた。
「…でも、場所変わっちゃってから大変そうだね…」
この部屋は、人通りが多い所にある。廊下も、隣の部屋も良く使われるところだ。故に、常に人の目が鋭く光る。
だが、別にもう隠す理由もない。治療の方法も必要なものも全て、この医院の中では全て知られてしまっている。
「そうでもないですよ」
だから今更、見られたところで何も変わらないのだ。
話していると、部屋から男が出てきた。布が被せられた大きな荷車を、よたよたと押してくる。
リガは、そこからはみ出す死体の一部を見て、一気に顔色を蒼くした。
怯え顔の男が、その事に気付かず通り過ぎてゆく。
「…た、…大変そうだね…」
決してリガが無知な訳ではない。リガだって医師だ、何人もの遺体は見てきているだろう。
きっと驚いたのは、扱われ方の差と、その量に対してだ。
「…いいえ、もう慣れた事ですから…」
その台詞を聞いて、リガは言葉を失っていた。
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