惜別の赤涙

有箱

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第二十三話

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 食堂に向かう時も戻る時も、他の用で違う部屋に行く時も、周りは道を空けるかの如くシュガを避けた。
 そんな自分と話をしてくれるのは、リガとシックのみになってしまった。
 この状況は昔に良く似ている。プリアと居た頃の事だ。

 ただその中で違うのは、一緒になってくれているシックとリガも、他の医師から避けられてしまっているという事だ。
 シュガは、プリアとの最期の日を思い出し、寒気を感じた。

 また数日して食堂に向かう途中、曲がり角の向こうから声が聞こえて来た。その台詞にシュガは立ち止まる。

「リガさ、最近シュガと会う時なんかぎこちなくない?」
「…えっ…そうかな」

 それはリガとシックの会話だった。まさか聞いているだなんて思ってもみないだろう。
 シックやリガに、その事を教える人間もいないし。
 確かにリガは、遺体の一部を見た日から会う度気まずそうにしていた。

「そうよ。多分シュガも気付いてるわよ、なんかあったの?」
「…ちょっと…シュガの仕事が…怖くなっちゃって…」
「怖く?」
「…うん、詳しくは言い辛いんだけどね…俺達とはやっぱ違うんだなぁって…思っちゃって…」

 表情は読めないが、声色から戸惑いが伝わってくる。
 シュガは始めて聞いた本音に、孤独感を感じた。
 いや、普通に考えて、今まで孤独にならなかった方が不思議だが。
 無理矢理付き合わせるのは、二人に悪いな。

「…勝手に俺が避けちゃってるだけなんだけど…」

 離れるべきなのかもしれない。自分の所為で二人まで避けられてしまっているのは事実だ。それも踏まえ自分と居ない方が良いに決まっている。
 そうだ、今まで気が付かなかった方が逆に可笑しいのだ。

 実は自分は、二人に甘えていたのだろうか。
 いいや、今気付いたのだから、今から少し離れて、遠くから二人を守ればいいじゃないか。

「…傷つけちゃってるかな、シュガの事…」
「うーん、どうかしらね?もしかしてリガはシュガと離れたいの?」

 シックの急な質問に、リガも、聞いていたシュガも驚いてしまった。因みにリガの驚愕は声で推測した。

「えっ?何を言い出すの」
「いや、なんとなく。私はシュガがどれだけ人と違ってもシュガはシュガだから、関係なく今まで通りがいいなって思って」

 シックの本当の気持ちに、シュガは満たされる感覚を知った。それは今まであまり味わった事がなく、自分でもどんな形をしているのか理解出来なかった。

 レイギアの事があり、今まで遠い存在だっただろう自分の能力は、相当身近な物として感じられるようになっただろう。
 それでいても、シックはそんな自分を怖がりもせず居てくれていた。そして、

「…それは、俺もだよ」

 葛藤こそあるものの、それはリガも同じだという。

「あーあ、どうして俺ってこうも繕うのが下手なのかなぁ、もっと傷つけないようにしたいのにな」
「直接言ったらいいじゃない」
「言えないよ。シュガは大切な友人だから出来れば傷つけたくないんだ」
「もう態度で悩ませてそうだけどね」

 ふふふと冗談染みた笑い声が聞こえ、そうだけどさー、と困った声が重なった。
 シュガは、知らなかった振りをしてしまおうと、少し暖かくなった気持ちを抱いて踵を返した。

 この医院に配属されて良かった。
 時々ぶつかる事もあったけれど、擦れ違う事もあったけど、二人はこうして自分の事を仲間だと呼んでくれるようになった。
 そして、自分も二人を大切な仲間だと思っている。

 せめて、そんな二人が幸せになれる未来が来ますように。一刻でも早く、来ますように。
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