惜別の赤涙

有箱

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第二十四話

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 それからまた日が経った。戦況は傾きすら見せず、ただ維持をしたまま、時間だけが流れてゆく。
 多くの人間が死んでも、不思議と戦闘員は減らない物で、相変わらず仕事もたくさんある。

「シュガ、シック、今日のマイルちゃんだよ」

 写真内のリガの妹は、ベッドの上に寝転がったまま青い瞳を大きく開いていた。その顔はとても愛らしい。

「また大きくなりましたね」
「可愛い、さすが女の子は愛らしいわね」

 シックとシュガの褒め言葉に、私事のようにリガは笑う。
 最近は毎日のように、それぞれ時間を見つけては顔を合わせ、写真を見るようになった。
 シュガが忙しくて食堂に顔を出せない日には、リガが直接部屋の前に来て待っていてくれることも多々あった。

 終わらない戦争の中で、その行為は一種の癒しにもなっている。

「仕事、相変わらず大変そうだね」

 シックとリガの会話が交わされていた日から、リガはあまり戸惑いを見せなくなった。勝手にそう感じているだけかもしれないが。

「でも最近さ、仕事減ったわよね」
「……あぁ、そうだね。俺も思う」
「え?」

 シックの不意な一言とリガの共感に、シュガは違和感しか覚えなかった。少なくとも自分は、仕事が減ったなどと微塵も感じてはいなかった。

「あれ?シュガ減ってない?」
「私の方は、あまり」

 でも、よくよく考えてみると、廊下を歩く医師の姿が増えていたり、二人と会う頻度も増えている気がする。

「そっかぁ、気のせいかしら…」

 仕事が少なくなったという事は、何かしらの変化が起きているという事だろう。
 だが、何一つ情報を耳にしてはいない。

「戦況の方は、どうなっているんですか?」
「さぁ、ここ最近あまり通信が来ないみたい」
「噂もあまり耳にしないなぁ」
「そう、ですか」

 良くなっていればいいのだが、もし悪くなっていたら。
 そう考えて気付く。どちらにせよ、自分が出来る事は限られているじゃないか、と。
 ――――今はただ、この場所を。

「戦争が終わっても、またこうやってご飯食べたいわね」

 シックの語った夢の内容は、先の希望を見据えていた。
 どうやらシックは、仕事の減少を戦争の終わりと結び付けているらしい。

「そうだね、二人も俺の故郷においでよ」
「いいわねー行ってみたい!」

 二人が楽しそうに語る未来を、シュガは思い浮かべて小さく頷いた。

**4

 仕事の減少を聞いたその日から、シュガは患者の人数を数えはじめた。

 すると、数日も経たずシックとリガの発言が本当だと分かった。確かに患者は前よりも減っていて、暇な時間も前より増えている。
 直感的に考えるなら、戦闘員が減っている事になる。

 しかしそれによって、戦況まで予測する事は出来なかった。少なくとも、リガの故郷はまだ何の影響も受けていないと聞くが。

 侵略されていない事実を受け止め、優位に立っているから負傷者が減っていると考えても良いのだろうか。
 シックやリガと同じように、戦争が終了へと歩みを見せていると思ってもいいのだろうか。
 それだったら良いのに。そうしたら希望が持てるのに。

 シュガは考えが結論に及ばず、仕方が無く仕事待ちの男に尋ねることにした。

「すみませんが、最近の戦況をご存知ですか?」
「せっ、戦況ですか…」

 男は急に話しかけられ緊張しているのか、目を泳がせ答える。相変わらずの頼りないオーラを纏っている。

「…最近はですね、自国が領域の一つを奪い取ったと聞きましたよ…」
「だったら、戦況は有利なのですね」
「…そっ、そうですね…多分…」

 男の曖昧な態度に、溜め息が出そうになってしまう。もっとグロードのような冷静さと、堂々とした態度が欲しい物だ。
 グロードも、生きていれば平和な世界が見られたかもしれないのに。

 そう思うと、小さな寂しさが込み上げた。
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