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真っ白い世界の中の赤【1/2】
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痛みを自覚し目を覚ます。口から勝手にうめきが溢れた。ぼんやりした視界の先、雪を被った木々がお化けみたいに空を覆っている。
全身が痛かった。徐々に戻ってきた自我に動かされ、身を起こす。何度かよろけそうになったものの、なんとか座れた。
状況を知るために、周りを見回す。びっくりするほどに真っ白で、石も葉も形すら分からなくなっていた。ただただ、深いところにいるとだけ分かった。
――そうだ。僕は急斜面を落ちたんだ。
転がりながら意識を無くし、どの方角から来たのか分からない。状況の悪さを知ったからか、今更雪の冷たさに気づいた。痛みで体は熱いけれど。
雪と温度の認識で、急に体が震えだす。体温が逃げ出すのを防ぐべき――本能で判断し、薄い着衣で暖を取ろうとする。だが、はっと我に返り、敢えてやめた。
代わりに、唯一残った手編みの手袋を、嵌めたままぎゅっと握る。白かった“MAKOTO”の刺繍が、汚れてくすんでいた。
ああ、ついに死ぬのか――。
ぼんやりした頭が、過去を早足で辿る。いざ間近になるとやはり恐ろしい。
「どうしたの?」
「えっ」
可愛らしい声で、震えが一瞬止まった。こんなところに人がいるはずがない――と振り向いたが、その通りだった。
いたのは、真っ赤な肩出しワンピースを着た幼い少女だった。雪山でこの格好だ。少なくとも人間ではない。
あどけなくも凛とした大きな瞳。自然な赤みで色づいた薄めの唇。その右下に、鉛筆で打ったような小さなほくろ。ツヤツヤな黒髪のショートカット。
驚きに思考を奪われたのか、情報が勝手に目に入ってきた。
「迷子?」
人ならざる相手に、少し狼狽える。
けれど、怖がる相手でないとだけは、はっきり受け入れられた。
彼女が妖精だろうと雪女だろうと、今の僕にはなんだって構わないのだから。
「……う、うん」
「そう。家に帰りたいの?」
少女が問いかけてくる。純粋な顔に見つめられ、逸らした。心の曇りが伝わるのを恐れたのかもしれない。視線を戻そうと努めたが、叶わずほくろへと逃した。
「……えっと」
雪山に来た経緯のせいで、答えに迷う。けれど、本能がむりやり返事を作り上げた。
「…………やっぱり死ぬのは怖いから」
「……そう。なら帰り道を教えてあげる」
答え方に違和感を持たなかったのか、少女はさっぱりとした笑顔を浮かべた。
全身が痛かった。徐々に戻ってきた自我に動かされ、身を起こす。何度かよろけそうになったものの、なんとか座れた。
状況を知るために、周りを見回す。びっくりするほどに真っ白で、石も葉も形すら分からなくなっていた。ただただ、深いところにいるとだけ分かった。
――そうだ。僕は急斜面を落ちたんだ。
転がりながら意識を無くし、どの方角から来たのか分からない。状況の悪さを知ったからか、今更雪の冷たさに気づいた。痛みで体は熱いけれど。
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「どうしたの?」
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