私とお父さんと育たない芽の謎

有箱

文字の大きさ
7 / 9

4-2

しおりを挟む
「ああー、あれか。そっか、マイはあれまだ信じてたのか」
「えっ?」
「多分今も残ってるんじゃないかな。この辺に……」

 信じていた――予想の反対を行く一言で、思考が止まりかける。父はと言うと、茂みの一点に潜っていった。恐らくは、あの種を植えたところだろう。

「あった! おいでマイ!」

 私を呼ぶ声に、大きかった父を思い出す。嫌いだったお父さん。随分遠くなってしまったお父さん。今でさえ、誇らしく思えないお父さん――なのに、その声に吸い寄せられた。まるで子どもに戻ったように、草を掻き分ける。

「ほら、これだよ」
「これ……?」

 かろうじて形を残す棒の前、あの芽はあった。土に同化しつつあったが、確かに同じ形をしている。毎日見続けたのだから間違いはない。

 父の手が動いた。迷いなく芽に向かう。そして、次の瞬間にはひょいと抜いてしまった。
 展開に口出しできないまま、父だけが次の行動に進む。土を払われた芽が、私の前に差し出された。

 そこで、はっきりと発言の意味を理解した。すっかり色落ちしたその芽は、植物の質感を持っていなかった。

「これなぁ、実はレプリカなんだ」
「うわ本当だ……」

 確かに精巧な作りではある。事実、幼い頃は完全に本物として見ていた。だが、今は見れば見るほど作り物でしかない。あっさり合致した辻褄に、唖然としてしまった。
 察知したのか誤解したのか、父が少し渋い顔をする。

「がっかりしたか?」
「あ、いや、そうじゃなくて……なんでレプリカなのかなって」

 それから苦そうに笑った。けれど、そこにあるのは悲しさでなく愛しさのような気がした。

「あまりに一生懸命育てていたからなぁ。生えないのも可哀想だし、かと言って枯れても悲しい。あと育ってしまってもいけないし……。だから父さんなりに考えたんだよ。今思えば、もっと別の方法もあったかもしれないけどな」

 私を傷つけないよう、最善の方法を探した。それが、"成長しない植物"の答えだった。

 全ての謎が跡形もなく溶け、霧が晴れる。死角に隠された愛情で、思い出が温度を宿す。
 成長速度の異常な遅さは、父だからこそ生じた抜かりだったのだろう。私の幼さと父の不器用さが揃って、あの謎は生まれたのだ。
 心の底に埋まっていた感情が芽生える。

「……本当に花が咲いたらどうするつもりだったの?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の優しいお父さん

有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。 少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。 昔、私に何があったんだろう。 お母さんは、どうしちゃったんだろう。 お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。 いつか、思い出す日が来るのかな。 思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

不思議なショートストーリーたち

フジーニー
ミステリー
さくっと読める短編集 電車内の暇つぶしに、寝る前のお供に、毎日の楽しみに。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

 【最新版】  日月神示

蔵屋
歴史・時代
 最近日月神示の予言本に不安を抱いている方もあると思うがまったく心配いらない。  何故なら日月神示では「取り越し苦労や過ぎ越し苦労はするな!」 「今に生きよ!」  「善一筋で生きよ!」  「身魂磨きをせよ!」  「人間の正しい生き方」  「人間の正しい食生活」  「人間の正しい夫婦のあり方」  「身も心も神さまからお借りしているのじゃから夜になって寝る前に神さまに一旦お返しするのじゃ。そうしたら身と心をどのようにしたらよいか、分かるじゃろ!」  たったのこれだけを守れば良いということだ。  根拠のない書籍や情報源等に惑わされてはダメだ。  日月神示も出口王仁三郎もそのようなことは一切言っていない。  これらの書籍や情報源は「日月神示」が警告する「臣民を惑わすものが出てくるから気をつけよ!」 という言葉に注目して欲しい。  今回、私は読者の皆さんに間違った解釈をされている日月神示を分かりやすく解説していくことにしました。  どうか、最後までお読み下さい。  日月神示の予言については、私が執筆中の「神典日月神示の真実」をお読み下さい。    

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...