とある少女の物語

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 恋愛は、正当な男女のするものだ――そんな概念を、人々は疑うことなく受け入れる。無論、該当しない人間以外は。
 不当と判断される相手としては、血縁、同性が代表にあがる。それから大きな年の差も。だから、目に映る恋人たちは皆同じように見えた。

 兄との恋が実ることはない。例え両想いであろうと、それが用意された結末だ。でも。それでも。
 
「うわー! 何だか懐かしい気分になる……気がする!」

 並ぶ建物全てを目に納めるかの如く、アロは小走りで移動する。ロンも慣れたように横を歩んだ。

「にしても遠かったね。汽車なんて何年振りに乗っただろ」
「乗ったことあった?」
「あ、ごめん私だけだったかも。それよりあそこ」

 ロンの指差す先、記憶に新しい景色が広がる。ただ、既知の物より遥かに鮮やかだった。
 記憶と情報で分かっているのは、生前も同じ国にいたこと。時代の誤差は大きくないこと。それから、兄の顔と死の状況。それくらいだ。名前など細かいことは一切不明だった。
 しかし、勘と言うものが正解に近付いていると告げている。アロにとってはそれだけで十分な促進力だった。

「絵のやつだ! この辺りにお兄ちゃんがいるかもしれないんだ!」
「……アロさ、もしお兄さんに恋人がいても伝えるの? て言うかそれだけで終われるの?」

 恋心を理解しているかのような、ロンの鋭い突きに狼狽える。
 告白だけで終われるか考えたが、素直に頷けなかった。それほどにアロの熱量は大きい。
 ただ、いざ本人を前にした時、その熱がどれ程発揮されるかまでは、アロにも見当がつかなかった。

「ううーん、分かんない。でもまずは伝えてみなきゃ! その為には手がかり! と言うことで町の人たちに聞き込みをしたいと思います! ロンは向こう側を、私はこっち側を担当!」
「了解です……」

 夕方に集合する約束をし、ロンと別れる。タイムリミットは三日、それまでに有力な情報を得たい。いや、会って今度こそ伝えたい――アロは今日中に見つける勢いで、意気揚々と聞き込みを開始した。
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