刺さるほどの冷たさを今日も私は知らずにいる

有箱

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小さな、けれど大きな一歩【1/4】

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 暖かな部屋で目を覚ます。時計は八時半を回ったところだった。
 カーテンを開き、地面を見る。長い冬が終盤の気配を漂わせていた。薄くなった雪のコーティングが、ところどころ道を透かしている。

 今年もまた、冬を見送るのかな。

 恒例の諦めがよぎったが、いつも通り過ぎ去ってはくれなかった。次の冬には、私は二十歳になっている。なのに、今だにママを怖がり、根拠もない約束を守り続けている。同い年のエフとジルは、とっくに自立しているというのに。

 ため息を吐くと同時にお腹が鳴った。脳内会議は一旦保留し、朝食を頼むべくメイドを呼んだ。


 
 食後十分、やってきたのはジルだった。笑顔で挨拶し、空いた椅子に腰掛ける。背もたれに寄りかかる姿はリラックスしていた。

「ここはとても暖かいね。こんなに薄い服でいられるの、いつも不思議になるもん」

 裏腹に、私の体は強張っていたけど。

「……外はたくさん着てても寒いのよね?」
「寒いよー。でもねー」

 今日を逃せば、一生このままかも――なんて誇大化した焦りが私を突く。舞い戻った葛藤が、ジルの話を弾いてしまう。

 冬の間に、一度だけ外に出たい。雪に触りたい。
 いいや、違う。私はただ、自分で立てることを証明したいのかもしれない。私はママのものじゃない、と。

「……ねぇジル」
「何?」
「わ、私……」

 何かを悟ったのか、ジルの眼差しが芯を帯びる。後戻りの綱を引きちぎり、意を結した。

「私、屋敷を抜け出して雪で遊びたい!」

 走り回ってもいないのに、心臓がバクバク動いている。驚き戸惑わせるかと思いきや、ジルは数秒沈黙して微笑んだ。

「……そう言ってくれる日を待ってたよ」
「えっ」
「そう言ってくれる日を、僕たちも待っていたんだ」
「……そう、だったの」

 遊ぶ時間を確保するなら、屋敷を抜けるのは夜がいいよね――ジルは、驚くほど素早く計画を並べる。きっと、二人は前々から決意していて、私の一歩を待ってくれていたのだ。
 胸がじんと熱くなる。脱走も少し怖くなくなった。

「一度エフと話をして、また夜中に来るよ」
「……うん!」

 不確かな、でも大きな一歩に胸が躍る。背徳感と罪悪感と、言いつけを破った先の恐怖と――それらもまぜこぜにしながら。
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