刺さるほどの冷たさを今日も私は知らずにいる

有箱

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冷たすぎる冬の朝に【2/3】

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「俺たちには金がいる。けど、どの仕事をしても微々たる金しか得られない。アジュの話し相手もだ。このままじゃ駄目だとずっと思ってた。だからアジュを人質にして金を得ようと前々から考えてたんだ」
「アジュちゃん一人を連れ出す口実が作れたらってね……そんな時、君が言ってくれた」
「え、でも……えっ」

 私の決意が、彼らを動かしたというのか。いや、だとしても、そんなに簡単にいく訳がない。第一、これは現実なのか。寒さで頭がおかしくなって、幻覚でも見てるとしか――。

「アジュちゃん、今苦しいでしょ。ずっと温かい場所にいた子が、こんなところに来て何もない方ががおかしいもん。特に君は体が弱いから」

 はっきり言い切られ、寒さのせいにしていた不調が際立つ。途端に胸まで苦しくなってきた。体が弱いから外に出てはいけません――ママの厳しい言葉が私を責める。

「そんな状態で助けがなかったら、アジュちゃんはどうなるかな」

 ――死んでしまう。
 秒で答えに辿り着き、恐怖が湧き上がった。ママの言いつけを守っていれば良かった。なんて、今更無力な後悔に打ちのめされる。

「それを君のママが知ったらどうすると思う?」

 使用制限のかかった脳内に、そっけないママが現れた。助けを差し伸べるママも見えたが、前者が強く瞼に残る。

「ま、ママが応じなかったら、私は死ぬってこと……?」
「それはないよ」
「あの人はアジュのことを愛してるからな。だからこそ、一歩も外に出したがらなかったんだ。アジュは知らなかっただろうけど。そんくらい可愛い娘なんだ。金で居場所が分かるなら、すぐにでも出すだろうよ」

 だが、想像は一気に覆された。二人には成功する自信がある――それは、ママが応じると確信しているからなのだ。

「僕たちは散々聞かされてたからね。アジュの機嫌を損ねるな、体を労われ、常にアジュのことだけ考えろ……なんて」

 何よママ、教えてくれたってよかったじゃない。なんて、私だって歩み寄らなかったわ。

 行き場のない怒りが、矛先を変えているうち悲しみに化ける。思い出の色が反転したところで、エフが背を向けた。

「行くぞ。早く済ませないと本当に死にかねない」
「ごめんねアジュちゃん。僕も行くよ」
「い、嫌よ。いかないで……待って二人とも……」
「大丈夫。すぐ人が来るから」

 二人は、振り返りもせず消えていった。冷たすぎるクッションに座り込んでしまう。
 苦しかった。辛かった。怖かった。こんなに冷え切った朝は初めてだった。
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