フレンドテロリスト

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 昼休み前の実技の授業が始まる寸前、マナーモードの確認をすべく画面を見る。そこで、新たな受信メールを見つけた。
 宛先は―――御面からだった。

「あっ、俺もマナーにしなきゃ」

 チームの一員として横に座っていた侑也の声に驚き、白都は自然と携帯を鞄に突っ込んでいた。もちろん、電源は切らずにだ。
 隣を見ると、侑也も携帯の設定を触っている。

 白都は様々な思考に悶々としながらも、教師の号令に促され、内容を見られないまま手探りで携帯の電源を落とした。

 “不審感を抱かれないように”それだけを気に留めた。内容を一刻も早く確かめたいと気を揉みながらも、器用に普段通りを勤め上げた。

***

「お手洗い寄って来るから先行ってて」
「あ、そうっすか。じゃあ行ってますね」

 合同授業後の、いつもの流れを白都は断ち切っていた。
 この時間に授業が設定されている時は、決まって二人で語らいながら屋上へ赴く。だが、今は一秒でも早く内容を確認したかったため、嘘で日課を退けた。

 内容も期日も分からなくては、食事も落ち着いて出来やしない。
 白都は、侑也の後ろ姿が廊下の角に消えるなり、その場で携帯を手にした。

¨今回の命令は“学校の備品を何か一つ壊す事”です。一応言っておきますが、小さすぎる物はNGです。ある程度の大きさの物を壊してください。
期限は本日大学が施錠されるまで、です。¨

 命令を読み終え、白都は直ぐに校内を彷徨っていた。周りの白い目が向かない程度に堂々と、実行できる場所と物を探す。
 しかし昼休みというだけあり、生徒や教師が横を過ぎ去り、最早一人きりの空間を探す所から困難を極めた。

 小さすぎない――と言っても、御面にとってどの大きさが求めているサイズなのかは分からない。しかし、文面から察するに、壊した際、その物品が誰かの目に触れる大きさでなければいけなさそうだ。

 白都は自然と、昼食後の日程を脳内に思い浮かべていた。
 生憎今日は授業が詰まっていて、しかも終了後にはバイトがある。大学施錠までの時間が、今を覗き全て埋まっている。
 チャンスは、今しかないのかもしれない。

 授業が全て終了し、バイトが開始するまでの間に、全く時間が取れないという訳では無いだろう。だが、その時間も今のように人が多く行き交う恐れがある。
 冷や汗が伝った。実行できなかった場合を想像してしまい、足が急く。

「あれ、白都くんこんな所でどうしたの?」

 落ち着いた声に驚かされ、振り返り見ると和月と穂積が立っていた。不意打ちにより、鼓動が波打っている。

「…………ちょっとした用事です、急に思い出しまして」

 だが得意の演技力を生かし、理由と共に笑って見せた。

「職員室?」

 和月の視線は、壁を隔てた先の職員室へと向いている。釣られるようにして、穂積も僅かに視線を傾けていた。

「そうです」
「……終わったところ、かなぁ……?」

 爪先の方向で推測したのだろう。穂積の視線は一度落ち、緩やかに上がる。そうして、表情にぱっと花を咲かせた。

「終わってたら一緒に屋上に行かない?」
「まぁ、もうそんなに時間ないけどね」

 穂積の誘いに重ね、携帯で時刻を確認した和月が呟く。時間の経過を、感じではいたものの改めて知り、突然の焦りが心に生まれた。

 侑也に不審視されてしまうかもしれない。
 授業後すぐお手洗いに立ち、休み時間の間際まで戻らないのだ。幾ら用事が出来たと言っても、連絡も無しに放置してしまったし。
 いや、侑也のことだ。不審視よりは心配か。

「あっ、行きます」
「わーい、じゃあ行こうかぁ」

 白都は己が咄嗟に手繰った選択により、精神が追い詰められていくのがよく分かった。
 だが、もう引き返せなかった。

***

 結局、侑也にも「急に用事を思い出した」と嘘を吐き、場を遣り過ごした。
 その場にいた誰もが違和を感じなかったらしく、短い時間は平坦に過ぎた。
 授業後の僅かな時間でも、懸命に実行を試みたが、ついには命令をこなすことが出来なかった。
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