フレンドテロリスト

有箱

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 気疲れが顕著に現れ、アルバイトでは小さなミスを何度も繰り返してしまった。
 だが、誰にでもあるようなミスだった為、状態を怪しむ者はいなかった。

 ここに和月が居たら見破られていた可能性は否めないが、都合よく和月は公休日だ。
 誰にも気付かれなかったことだけが、俄かではあるが唯一の安堵になった。

 駅のホームは灯りが多く灯されており、部活帰りの学生達や残業終わりのサラリーマンなど、人も多く集っている。だが、それは駅を離れるにつれ少しずつ減り、段々侘しくなっていく。
 そして、裏道に差し掛かった時には、周囲には誰一人として人が居なかった。

 考えようとせずとも、御面と対面した日が脳裏に濃く浮かび、恐怖心を煽る。
 だが、裏道を使用しろとの命令がある以上、無視は出来なかった。

 ここ数日も言い付け通り使用しているが、今のところ何も生じてはいない。だから大丈夫だ、と足を踏み出してゆく。

 ガサガサと鳴る草の音も、足場の悪い土の感触も、今はすっかり不気味さを覚えさせる感覚に成り果ててしまった。
 空は本曇りしていて、夜目だけで歩く道は暗く、ゴールが随分遠くに見える。

 白都は、拭えないままの視線を背負って、堪えきれずに早足を踏み出した。

 ――――が、それは直ぐに打ち切られた。
 背後から手を握られ、体ごと足を止められたのだ。その手は冷たく、手袋でもしているのか布の感触がした。
 振り切って逃げ出すことも不可能ではなかったが、恐怖心が逃亡を拒否した。

 恐る恐る振り返ると、御面に描かれた猫の顔が目に写る。黒いフードとマントが、そよぐ風に揺らされ、まるで死神でも見ているかのようだ。

『何でここに来たか分かってるな?』
「……ご、ごめんなさい……許してください」

 喉元に突きつけられたカッターナイフの感触を思い出し、上手く逃げ出す方法ばかり求めてしまう。

「……今度はちゃんとやるので……」
『残念だが、背いた罰は受けてもらう』

 勢いよく手を引かれ、バランスを崩す。手の平を着くことで大転倒は免れたが、土に擦り付けて傷が出来たのかヒリヒリと痛んだ。
 衝撃と恐怖で頭が真っ白になり、何も考えられない。本能が逃げろと叫びだすが、体が硬直してしまって動いてくれない。

 御面の容赦のない蹴りが腹部を命中し、白都はその場で地面に横たわっていた。強い攻撃が吐き気を催す。
 しかし、状態など考慮される訳も無く、白都はその後も体を中心に暴行を受け続けた。
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