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白都は裏道を走っていた。御面が現れても捕まらないよう、出せるだけのスピードで駆け抜ける。
そうすれば、一分足らずで通り抜けられるような道だ。足場は悪いが、それさえ気をつければ問題無い。
と思っていた白都だったが、体調が思惑を捻じ曲げた。
睡眠時間を削り、授業中やバイト中でさえ延々と案じていたのだ。精神疲労は極限まで高まり、体にまで影響を齎し始めていた。
友人たちが前にいる場面や、バイト先の同僚、和月に対しては平然を貫ききったが、一人きりでは気が緩むのだろうか。夜間にまで及ぶ心労が、今現れてしまった。
くらりと視界が歪み、白都はその場で足を緩めていた。転倒こそ無かったものの、頭痛まで出てくる。
『逃げるつもりだったのか?』
ぎくりと肩が上がり、尻目を向けると御面が立っていた。タイミングの悪さに厭きれるより先に、緊張が疲れきった体を自ずと強張らせる。
御面は白都の手前に回り、正面から向き合ってきた。
「…………ごめんなさい、ごめんなさい……」
命令は実行したんだと、見張って警察に突き出すつもりは無かったんだと。大事な人を巻き込まないで欲しいと、どうか殺さないで欲しいと――心を飽和する言い訳と願いは、口に出来ず滞る。
『命令に背いた罰を下しに来た』
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
『なぜ金くらい置かなかった? 無い訳では無いんだろう? 罰を受けたかったのか?』
珍しく会話を重ねてきた御面の語調は、信じられないと言った感情を含めているように聞こえる。
そんな中、違和感のある台詞により、白都はあることに気付いた。
監視されていたことを、恐らく彼は知らない。知らずに、命令が未実行に終わっていると勘違いをしている。
穂積が職員室に届け出たことを告げれば、許しが得られるだろうか。
そう考えたが、いっぱいいっぱいになっている白都の口から言葉は出なかった。声自体を失ったように、一文字さえ出ない。
御面は何を言うでもなく、鋭いカッターナイフを立ち尽くす白都の前に差し向けた。
カチカチと、刃が全量外へと出されてゆく。
抵抗できない。体が硬直してしまい、後退さえ出来ない。今逃げたら、誰が代わりになるのか。逃げなければ殺されてしまうのに、体が動かない。
滅茶苦茶に混濁した迷いが、混乱を起こさせる。その間にも刃は喉元に突きつけられ、鋭い先端を軽く食い込ませた。
『もう一度チャンスをやる。明日は絶対にやれ』
御面はカッターをしまうと、潔く背を向けて走り去っていった。
放心したまま、白都は座り込んでいた。反射的な涙が頬を伝い落ちてくる。
喉を掻き切られ、苦しみ死ぬ想像が頭から離れない。テレビドラマで殺人シーンを見てしまった時も衝撃は受けるが、それとは比較にならないほど胸が痛くなる。
「…………助けて……誰か……死にたくない……」
白都は口に手を当てて、誰にも気付かれないよう咽び泣いた。
そうすれば、一分足らずで通り抜けられるような道だ。足場は悪いが、それさえ気をつければ問題無い。
と思っていた白都だったが、体調が思惑を捻じ曲げた。
睡眠時間を削り、授業中やバイト中でさえ延々と案じていたのだ。精神疲労は極限まで高まり、体にまで影響を齎し始めていた。
友人たちが前にいる場面や、バイト先の同僚、和月に対しては平然を貫ききったが、一人きりでは気が緩むのだろうか。夜間にまで及ぶ心労が、今現れてしまった。
くらりと視界が歪み、白都はその場で足を緩めていた。転倒こそ無かったものの、頭痛まで出てくる。
『逃げるつもりだったのか?』
ぎくりと肩が上がり、尻目を向けると御面が立っていた。タイミングの悪さに厭きれるより先に、緊張が疲れきった体を自ずと強張らせる。
御面は白都の手前に回り、正面から向き合ってきた。
「…………ごめんなさい、ごめんなさい……」
命令は実行したんだと、見張って警察に突き出すつもりは無かったんだと。大事な人を巻き込まないで欲しいと、どうか殺さないで欲しいと――心を飽和する言い訳と願いは、口に出来ず滞る。
『命令に背いた罰を下しに来た』
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
『なぜ金くらい置かなかった? 無い訳では無いんだろう? 罰を受けたかったのか?』
珍しく会話を重ねてきた御面の語調は、信じられないと言った感情を含めているように聞こえる。
そんな中、違和感のある台詞により、白都はあることに気付いた。
監視されていたことを、恐らく彼は知らない。知らずに、命令が未実行に終わっていると勘違いをしている。
穂積が職員室に届け出たことを告げれば、許しが得られるだろうか。
そう考えたが、いっぱいいっぱいになっている白都の口から言葉は出なかった。声自体を失ったように、一文字さえ出ない。
御面は何を言うでもなく、鋭いカッターナイフを立ち尽くす白都の前に差し向けた。
カチカチと、刃が全量外へと出されてゆく。
抵抗できない。体が硬直してしまい、後退さえ出来ない。今逃げたら、誰が代わりになるのか。逃げなければ殺されてしまうのに、体が動かない。
滅茶苦茶に混濁した迷いが、混乱を起こさせる。その間にも刃は喉元に突きつけられ、鋭い先端を軽く食い込ませた。
『もう一度チャンスをやる。明日は絶対にやれ』
御面はカッターをしまうと、潔く背を向けて走り去っていった。
放心したまま、白都は座り込んでいた。反射的な涙が頬を伝い落ちてくる。
喉を掻き切られ、苦しみ死ぬ想像が頭から離れない。テレビドラマで殺人シーンを見てしまった時も衝撃は受けるが、それとは比較にならないほど胸が痛くなる。
「…………助けて……誰か……死にたくない……」
白都は口に手を当てて、誰にも気付かれないよう咽び泣いた。
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