フレンドテロリスト

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「……帝、それどうしたの……?」

 白都は思わず蒼褪めていた。上手い具合に校門で遭遇した帝の左手が、包帯で軽く巻かれていたのだ。 

「不注意でな。気にしないでくれ」

 帝の表情は相変わらず冷静で、一切の事情を悟らせない。
 白都は、帝が態と口を噤んでいるようにしか見えず、勝手な罪悪感を膨らませていた。

「どこで? 一人?」
「あぁ、帰り道にちょっと……どうした?」

 俄かに訝しさを醸した帝に、白都は反射的に笑いかけた。自らの口が齎した、言葉を上塗りするように。

「そっか。うん。だよね。お大事に!」

 実は昨日も、御面や罰の件、今回の命令の件について熟考しており、結果的に睡眠不足に陥っていた。
 脳がフワフワしていて、思考が追いついていないのが自分でも分かる。

 帝が、他者に怪我を負わされた可能性を想うと身震いがした。考えすぎだ、と消極的になる思考を制御しつつも、否定出来ない。
 まるで、『言い付け通り裏道に来い』と催促されているようだ。

 白都は教室に向かう足を進めながら、今日の行動について検討していた。
 背き続けた結果が、何を齎すのかは分からない。その上で裏道に行くか、否か――。

「白都さん、お早うございます!」

 横から現れた侑也の存在に、驚愕は最小限に留めて対応を作り出す。

「あっ、侑也、お早う」
「まだバイト落ち着かないっすか?」

 しかし、どうやら演じきれていなかったらしい。

「……ううん、今は大分落ち着いてきたかな」

 侑也はニコニコと嬉しそうに頷き、教室の方面を眺めている。人間観察をしているようにも見えた。
 白都は、他人の目があっても薄まらない思考に捕われ、膨らむ気持ちを抑えきれずにいた。

「……ねぇ侑也……」
「はい?」

 全て暴露してしまいたい。共に選択する協力者が欲しい。あわよくば現状を打開してほしい。
 ふっと、視線が注がれる感覚を覚えた。どこからのものかは分からないが、明らかに見られている。

「何でもない。侑也はバイトとかしないの?」
「……俺はまだっすね、とりあえず卒業して実家帰ってからって考えてます」
「そっか、ちゃんと考えてて凄いな」
「いや全然。爺ちゃん婆ちゃんも今は勉強頑張れって言ってくれてまして、それに甘えちゃってるだけです」
「相変わらず仲良いね」
「はい、二人とも良い人っすよ」

 侑也は、大学から近い祖父母の家に居候し、通っていると言っていた。とは言え二駅分の距離はあるらしい。実家は他県にあり、全く帰省出来ていないとのことだ。

 因みに家があるのは、白都とは反対側の方面だ。淡くしか知らないが、穂積と和月の実家もそちら側にあるらしい。

 白都は、家族の顔を思い出し、胸を痛めた。
 家族の身に何かが起こってしまったら、恐らく罪悪感で精神を壊すことになる。
 自身に何かが降りかかるのも怖いが、何も知らない大切な人たちに怖い思いをさせるのも居た堪れない。
 結局、選べるのは――――。
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