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違和感を向けられること無く、一日を終えることが出来た。本日バイトはなく、昼の帰宅だったからか御面との遭遇も無かった。
帰宅し、溜めていたレポートに取り掛かるべく、椅子に腰を下ろす。その際、充電器に携帯を繋いだが、連絡は何もなかった。
目の前のレポートの数に、つい溜息が出る。バイトの余分勤務や一連の出来事があり、集中できなかった分、かなり溜めてしまった。
このままでは単位に影響しかねない。
白都は、不意に乱れるようになった精神を統一しながら、何とかレポート作成に挑んだ。
自宅に居ながらも戦々恐々としてしまい、全く持って落ち着けない。いつ連絡が来るか警戒し、携帯から目が離せない。
ちらちらと暗い画面を気にかけていると、急に画面が明るくなり着信音が鳴った。
想像していたのに肩が竦む。だが、名前を見て、ほっと胸を撫で下ろした。相手は日向だった。
¨言い損ねましたが、今日どうですか?¨
主語は無いが、白都には大体分かった。少し前、日向とレポートの話をしたからだ。
また教えに行こうか? と彼は言っているのだ。
白都は迷ったが、空白だらけのレポートを見て、躊躇いつつ決めた。
***
夕方、日向がやってきた。いつも通り眠そうな彼の手には、珍しくレジ袋が提げられていた。
「……どうぞ……」
「えっ、ありがとう?」
差し出された袋を受け取り、中を覗き込むとお菓子や飲み物が入っていた。
「…………いつも出してもらってるので……」
「気にしなくて良かったのに。でも、わざわざありがとね」
日向は恐らく、節約の話を聞いていたのだろう。お菓子を持ってくる辺り、ダイエットの方を聞いていたかは怪しいが。
日向の親切心が、白都は純粋に嬉しかった。
日向の持参した飲食物を並べ、向かい合って勉強する。日向の教えは相変わらず分かりやすく、すっと耳に入ってきた。
だが、慢性的な眠気に襲われ集中出来ない。
「……安斎さん……眠そうですね……」
指摘され上を向くと、同じく眠そうな日向がレポートを見詰めていた。白都も視線を落とし、反省する。
「……うん。ごめん集中できてないね……」
「…………今日は止めますか?」
「ううん、来てくれたんだしやるよ。……珈琲入れてこようかな」
白都は目覚ましのブラック珈琲を淹れるべくキッチンへと駆けた。
インスタント珈琲の粉をコップに入れ、湯を注いでいると、日向のいる部屋から小さく着信音が聞こえてきた。
ぎくりとしつつも、日向と携帯の距離を脳内で計測し、大丈夫だと言い聞かせる。
冷静を装い、カップを二つ持って戻ると、日向がベッドに凭れて眠っていた。
どうやら彼も、相当眠気に苛まれていたらしい。
白都は一息吐き、起こさないよう珈琲を机上に置く。それから直ぐに通知を確認した。
表示されていたのは“御面”の文字で、また淡々と命令が綴られていた。
“今回の命令は、ボトルの水を飲み干すこと、です。ボトルは渡るよう手配します。
条件は昼時、誰かの前で飲み干す事、です。
条件に沿えば、一気飲みではなくとも構いません。”
白都は思わず眉を顰めていた。そもそも命令の魂胆が見えず、どこを警戒すれば良いのか分からない。
しかし、飲み干す水が手配される工程から、得体の知れない怪しさが漂ってくる。
だが、拒否権は自分には無いのだ。
白都は諦めつつ、携帯をその場に置いた。
すやすやと眠る日向の顔を見て言い表せない悲しさが襲ったが、塗り潰すように声を出した。
「……日向、珈琲入ったよ」
帰宅し、溜めていたレポートに取り掛かるべく、椅子に腰を下ろす。その際、充電器に携帯を繋いだが、連絡は何もなかった。
目の前のレポートの数に、つい溜息が出る。バイトの余分勤務や一連の出来事があり、集中できなかった分、かなり溜めてしまった。
このままでは単位に影響しかねない。
白都は、不意に乱れるようになった精神を統一しながら、何とかレポート作成に挑んだ。
自宅に居ながらも戦々恐々としてしまい、全く持って落ち着けない。いつ連絡が来るか警戒し、携帯から目が離せない。
ちらちらと暗い画面を気にかけていると、急に画面が明るくなり着信音が鳴った。
想像していたのに肩が竦む。だが、名前を見て、ほっと胸を撫で下ろした。相手は日向だった。
¨言い損ねましたが、今日どうですか?¨
主語は無いが、白都には大体分かった。少し前、日向とレポートの話をしたからだ。
また教えに行こうか? と彼は言っているのだ。
白都は迷ったが、空白だらけのレポートを見て、躊躇いつつ決めた。
***
夕方、日向がやってきた。いつも通り眠そうな彼の手には、珍しくレジ袋が提げられていた。
「……どうぞ……」
「えっ、ありがとう?」
差し出された袋を受け取り、中を覗き込むとお菓子や飲み物が入っていた。
「…………いつも出してもらってるので……」
「気にしなくて良かったのに。でも、わざわざありがとね」
日向は恐らく、節約の話を聞いていたのだろう。お菓子を持ってくる辺り、ダイエットの方を聞いていたかは怪しいが。
日向の親切心が、白都は純粋に嬉しかった。
日向の持参した飲食物を並べ、向かい合って勉強する。日向の教えは相変わらず分かりやすく、すっと耳に入ってきた。
だが、慢性的な眠気に襲われ集中出来ない。
「……安斎さん……眠そうですね……」
指摘され上を向くと、同じく眠そうな日向がレポートを見詰めていた。白都も視線を落とし、反省する。
「……うん。ごめん集中できてないね……」
「…………今日は止めますか?」
「ううん、来てくれたんだしやるよ。……珈琲入れてこようかな」
白都は目覚ましのブラック珈琲を淹れるべくキッチンへと駆けた。
インスタント珈琲の粉をコップに入れ、湯を注いでいると、日向のいる部屋から小さく着信音が聞こえてきた。
ぎくりとしつつも、日向と携帯の距離を脳内で計測し、大丈夫だと言い聞かせる。
冷静を装い、カップを二つ持って戻ると、日向がベッドに凭れて眠っていた。
どうやら彼も、相当眠気に苛まれていたらしい。
白都は一息吐き、起こさないよう珈琲を机上に置く。それから直ぐに通知を確認した。
表示されていたのは“御面”の文字で、また淡々と命令が綴られていた。
“今回の命令は、ボトルの水を飲み干すこと、です。ボトルは渡るよう手配します。
条件は昼時、誰かの前で飲み干す事、です。
条件に沿えば、一気飲みではなくとも構いません。”
白都は思わず眉を顰めていた。そもそも命令の魂胆が見えず、どこを警戒すれば良いのか分からない。
しかし、飲み干す水が手配される工程から、得体の知れない怪しさが漂ってくる。
だが、拒否権は自分には無いのだ。
白都は諦めつつ、携帯をその場に置いた。
すやすやと眠る日向の顔を見て言い表せない悲しさが襲ったが、塗り潰すように声を出した。
「……日向、珈琲入ったよ」
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