フレンドテロリスト

有箱

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 朝の訪れを知らせる鳥の声が、今日は少し遠くに聞こえる。 
 白都は、本日何度目かの起床をしていた。疲れも眠気も、体調不良もあるのに眠れなかったのだ。

 頭痛が酷い。吐き気は無いが、寒気がある気がする。こんな状態で大学に行っても、早くにリタイアしてしまいそうだ。
 白都は計画を潰し、大学を休むことにした。
 ただ、バイトの方は出るつもりだ。またいつ金が要求されるか分からないため、その時に備えておきたいと考えた結果だ。

 脳内を事件が巡る。御面との遭遇から命令の数々、痛み、葛藤、それらが無秩序に混ざり白都を追い詰めてゆく。

 気付けば頬を雫が落ちていた。
 成り行きのまま、理不尽な要求に応え続ける未来しか見えない。解放のための手立ても無ければ、頼れる人間もいない。

 もういっそ、大学を辞めて実家に帰ってしまおうか。
 弱さが求める答えを、御面の寄越した言葉の一つが打ち消した。

 家族も攻撃対象になっているのだ。帰省した所で家族もろとも攻撃されるかもしれない。かと言って、辞めてここに留まろうとも、友人たちに危害が及ぶかもしれない。
 結局、忍従するほか無いのだ。

 ――――最後は死ぬのかな。殺されるのかな。
 白都は何度目かの想像に戦慄し、堪えきれず哀泣した。

***

 食事もせず、ただ茫然としながら天井を見ていると、携帯の着信音が鳴った。真横に置いていた所為もあり、つい肩が跳ねる。
 恐る恐る手に取ると“御面”の文字が映った。
 また命令か、と絶望感に苛まれながら画面を表示すると、短い文章だけが届いていた。

“私は貴方の友人の中にいます。いつも昼食で集まる5人の中です。探してみてください。”

 きつく胸が締め付けられる感覚を覚えた。
 ずっと否定していた可能性が、今目の前で公認され、混乱を隠しきれない。

 彼らの中に御面が居るなんて。酷い仕打ちを平気でする人間が存在するなんて。

 そもそも、御面が友人たちの中にいるとして、こんなことをする理由が分からない。
 御面が焦点を反らさせる為に、でっち上げているとしか思えなかった。
 ――でも。

 白都は、共に過ごす中で起きた出来事の数々と、不審点を幾つか結び合わせていた。
 と言っても、過剰になっている今だから結びつく些細なことばかりだが。

 思い出に馴染んでいた他愛ない日常が、黒い染みに犯されてゆく。
 ふと、御面の言葉を自然と飲み込んでいる自分に気付き、白都は恐ろしさから酷く慄いた。
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