31 / 83
30
しおりを挟む
「最近白くん元気なかったよねぇ?」
白都の居ない屋上、切り出していたのは穂積だった。カメラはすぐ傍らに置かれているが、今日はまだシャッターが切られていない。
「うん、疲れてる気がする……。まだ仕事の疲れを引き摺ってるだけなら良いんだけど、無理させすぎたかなぁ……」
和月は溜め息交じりで空を見上げ、以前白都に頼んだ余分な勤務日数を指折った。
その膝元で、膝枕を借りながら日向は眠っている。だが目覚めて、不安げな和月の顔を仰いだ。
「もしや今日は体調不良で来れないとかですかね!?」
侑也は、無言で食事していた帝に問いかける。表情は本気で心配している顔だ。
帝は冷静に顔を上げ、ポケットから携帯を取り出す。連絡の有無を確認したが、通知自体が無かった。
「……どうだろう、ただ単に教科選択してないとかなら良いんだが……」
言いながら白都へのメール作成画面を開き、適当な文章を繋ぎ合わせてゆく。
「悩んでるなら話してくれれば良いのにねぇ? 帝くんは何も聞いてないんだよね?」
穂積は帝の携帯へと視線を落としながら、不安げに自らの腕を摩った。
「はい。ただ、レポートに詰まってるってのはよく聞きますけど」
「……レポート……。バイト調整してあげた方が良いかな……」
言いながら、和月は携帯を取り出しシフト写真を表示する。
横目でちらりと写真を見遣った侑也は、見えなかったのか視線を帝へ注いだ。
「でも白都さん金欠っぽいんすよね?」
「あぁ、大分な」
帝は、送信画面を見送り電源を落とす。だが返信待機の為ポケットにはしまわなかった。
「……白都さん肝心なところは言わない人っすからねぇ……ちょっとくらい頼ってくれてもいいのに……」
「それだけ俺たちのこと考えてくれてるんでしょ」
和月は携帯を持ち出し、帝同様メールを作成し始めた。
侑也は弁当を頬張りながら、物憂げに空を見上げる。
「でも、ちょっと寂しいっす」
「……そうだねぇ」
穂積は白都の顔を思い浮かべ、浅い溜め息を吐いた。
帝と日向だけが普段通り物静かで、会話の中に自ら介入することはしなかった。
***
その頃、白都も彼らのことで頭を悩ませていた。
本当は信じたくないが、やはり勝手な作り話だと割り切れもしない。
候補に挙がっている幾人もの人間を除外した、たった五人の枠内で、白都はまず一人の人物に焦点を宛てていた。
それは日向だった。常にどこか放心気味な彼が大胆な行動を取れるとも思えないが、最近の一件が疑惑を向けさせる。
彼が持ってきたペットボトル、それを渡した人物とは一体誰なのか。
その答えを求め始めた結果、疑惑に繋がっていた。
そんな人物など始めから存在せず、日向自身が準備し持ってきたのでは無いだろうか。
彼の物忘れは演技で、実は確りと考え行動できる人物だと仮定すれば不可能では無いのではないか。
だとしても、見え透いた嘘を吐けるほど、彼が器用だとはどうしても思えない。
となると第三者を利用した人間が他にいることになる。日向に直接接触せず、性格を利用し、渡させた人物だ。
あの日は屋上に一番乗りしてしまい、誰が誰と接触を図ったのか欠片程も想像できない。
結局、考えれば考えるほど、雁字搦めになり嵌っていってしまう。だとしても、思考放棄は意思では到底叶わなかった。
記憶に刻まれた思い出が、猜疑心により黒へ黒へと曇ってゆく。そんな現実が、白都には地獄のように感じられた。
白都の居ない屋上、切り出していたのは穂積だった。カメラはすぐ傍らに置かれているが、今日はまだシャッターが切られていない。
「うん、疲れてる気がする……。まだ仕事の疲れを引き摺ってるだけなら良いんだけど、無理させすぎたかなぁ……」
和月は溜め息交じりで空を見上げ、以前白都に頼んだ余分な勤務日数を指折った。
その膝元で、膝枕を借りながら日向は眠っている。だが目覚めて、不安げな和月の顔を仰いだ。
「もしや今日は体調不良で来れないとかですかね!?」
侑也は、無言で食事していた帝に問いかける。表情は本気で心配している顔だ。
帝は冷静に顔を上げ、ポケットから携帯を取り出す。連絡の有無を確認したが、通知自体が無かった。
「……どうだろう、ただ単に教科選択してないとかなら良いんだが……」
言いながら白都へのメール作成画面を開き、適当な文章を繋ぎ合わせてゆく。
「悩んでるなら話してくれれば良いのにねぇ? 帝くんは何も聞いてないんだよね?」
穂積は帝の携帯へと視線を落としながら、不安げに自らの腕を摩った。
「はい。ただ、レポートに詰まってるってのはよく聞きますけど」
「……レポート……。バイト調整してあげた方が良いかな……」
言いながら、和月は携帯を取り出しシフト写真を表示する。
横目でちらりと写真を見遣った侑也は、見えなかったのか視線を帝へ注いだ。
「でも白都さん金欠っぽいんすよね?」
「あぁ、大分な」
帝は、送信画面を見送り電源を落とす。だが返信待機の為ポケットにはしまわなかった。
「……白都さん肝心なところは言わない人っすからねぇ……ちょっとくらい頼ってくれてもいいのに……」
「それだけ俺たちのこと考えてくれてるんでしょ」
和月は携帯を持ち出し、帝同様メールを作成し始めた。
侑也は弁当を頬張りながら、物憂げに空を見上げる。
「でも、ちょっと寂しいっす」
「……そうだねぇ」
穂積は白都の顔を思い浮かべ、浅い溜め息を吐いた。
帝と日向だけが普段通り物静かで、会話の中に自ら介入することはしなかった。
***
その頃、白都も彼らのことで頭を悩ませていた。
本当は信じたくないが、やはり勝手な作り話だと割り切れもしない。
候補に挙がっている幾人もの人間を除外した、たった五人の枠内で、白都はまず一人の人物に焦点を宛てていた。
それは日向だった。常にどこか放心気味な彼が大胆な行動を取れるとも思えないが、最近の一件が疑惑を向けさせる。
彼が持ってきたペットボトル、それを渡した人物とは一体誰なのか。
その答えを求め始めた結果、疑惑に繋がっていた。
そんな人物など始めから存在せず、日向自身が準備し持ってきたのでは無いだろうか。
彼の物忘れは演技で、実は確りと考え行動できる人物だと仮定すれば不可能では無いのではないか。
だとしても、見え透いた嘘を吐けるほど、彼が器用だとはどうしても思えない。
となると第三者を利用した人間が他にいることになる。日向に直接接触せず、性格を利用し、渡させた人物だ。
あの日は屋上に一番乗りしてしまい、誰が誰と接触を図ったのか欠片程も想像できない。
結局、考えれば考えるほど、雁字搦めになり嵌っていってしまう。だとしても、思考放棄は意思では到底叶わなかった。
記憶に刻まれた思い出が、猜疑心により黒へ黒へと曇ってゆく。そんな現実が、白都には地獄のように感じられた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる