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「最近白くん元気なかったよねぇ?」
白都の居ない屋上、切り出していたのは穂積だった。カメラはすぐ傍らに置かれているが、今日はまだシャッターが切られていない。
「うん、疲れてる気がする……。まだ仕事の疲れを引き摺ってるだけなら良いんだけど、無理させすぎたかなぁ……」
和月は溜め息交じりで空を見上げ、以前白都に頼んだ余分な勤務日数を指折った。
その膝元で、膝枕を借りながら日向は眠っている。だが目覚めて、不安げな和月の顔を仰いだ。
「もしや今日は体調不良で来れないとかですかね!?」
侑也は、無言で食事していた帝に問いかける。表情は本気で心配している顔だ。
帝は冷静に顔を上げ、ポケットから携帯を取り出す。連絡の有無を確認したが、通知自体が無かった。
「……どうだろう、ただ単に教科選択してないとかなら良いんだが……」
言いながら白都へのメール作成画面を開き、適当な文章を繋ぎ合わせてゆく。
「悩んでるなら話してくれれば良いのにねぇ? 帝くんは何も聞いてないんだよね?」
穂積は帝の携帯へと視線を落としながら、不安げに自らの腕を摩った。
「はい。ただ、レポートに詰まってるってのはよく聞きますけど」
「……レポート……。バイト調整してあげた方が良いかな……」
言いながら、和月は携帯を取り出しシフト写真を表示する。
横目でちらりと写真を見遣った侑也は、見えなかったのか視線を帝へ注いだ。
「でも白都さん金欠っぽいんすよね?」
「あぁ、大分な」
帝は、送信画面を見送り電源を落とす。だが返信待機の為ポケットにはしまわなかった。
「……白都さん肝心なところは言わない人っすからねぇ……ちょっとくらい頼ってくれてもいいのに……」
「それだけ俺たちのこと考えてくれてるんでしょ」
和月は携帯を持ち出し、帝同様メールを作成し始めた。
侑也は弁当を頬張りながら、物憂げに空を見上げる。
「でも、ちょっと寂しいっす」
「……そうだねぇ」
穂積は白都の顔を思い浮かべ、浅い溜め息を吐いた。
帝と日向だけが普段通り物静かで、会話の中に自ら介入することはしなかった。
***
その頃、白都も彼らのことで頭を悩ませていた。
本当は信じたくないが、やはり勝手な作り話だと割り切れもしない。
候補に挙がっている幾人もの人間を除外した、たった五人の枠内で、白都はまず一人の人物に焦点を宛てていた。
それは日向だった。常にどこか放心気味な彼が大胆な行動を取れるとも思えないが、最近の一件が疑惑を向けさせる。
彼が持ってきたペットボトル、それを渡した人物とは一体誰なのか。
その答えを求め始めた結果、疑惑に繋がっていた。
そんな人物など始めから存在せず、日向自身が準備し持ってきたのでは無いだろうか。
彼の物忘れは演技で、実は確りと考え行動できる人物だと仮定すれば不可能では無いのではないか。
だとしても、見え透いた嘘を吐けるほど、彼が器用だとはどうしても思えない。
となると第三者を利用した人間が他にいることになる。日向に直接接触せず、性格を利用し、渡させた人物だ。
あの日は屋上に一番乗りしてしまい、誰が誰と接触を図ったのか欠片程も想像できない。
結局、考えれば考えるほど、雁字搦めになり嵌っていってしまう。だとしても、思考放棄は意思では到底叶わなかった。
記憶に刻まれた思い出が、猜疑心により黒へ黒へと曇ってゆく。そんな現実が、白都には地獄のように感じられた。
白都の居ない屋上、切り出していたのは穂積だった。カメラはすぐ傍らに置かれているが、今日はまだシャッターが切られていない。
「うん、疲れてる気がする……。まだ仕事の疲れを引き摺ってるだけなら良いんだけど、無理させすぎたかなぁ……」
和月は溜め息交じりで空を見上げ、以前白都に頼んだ余分な勤務日数を指折った。
その膝元で、膝枕を借りながら日向は眠っている。だが目覚めて、不安げな和月の顔を仰いだ。
「もしや今日は体調不良で来れないとかですかね!?」
侑也は、無言で食事していた帝に問いかける。表情は本気で心配している顔だ。
帝は冷静に顔を上げ、ポケットから携帯を取り出す。連絡の有無を確認したが、通知自体が無かった。
「……どうだろう、ただ単に教科選択してないとかなら良いんだが……」
言いながら白都へのメール作成画面を開き、適当な文章を繋ぎ合わせてゆく。
「悩んでるなら話してくれれば良いのにねぇ? 帝くんは何も聞いてないんだよね?」
穂積は帝の携帯へと視線を落としながら、不安げに自らの腕を摩った。
「はい。ただ、レポートに詰まってるってのはよく聞きますけど」
「……レポート……。バイト調整してあげた方が良いかな……」
言いながら、和月は携帯を取り出しシフト写真を表示する。
横目でちらりと写真を見遣った侑也は、見えなかったのか視線を帝へ注いだ。
「でも白都さん金欠っぽいんすよね?」
「あぁ、大分な」
帝は、送信画面を見送り電源を落とす。だが返信待機の為ポケットにはしまわなかった。
「……白都さん肝心なところは言わない人っすからねぇ……ちょっとくらい頼ってくれてもいいのに……」
「それだけ俺たちのこと考えてくれてるんでしょ」
和月は携帯を持ち出し、帝同様メールを作成し始めた。
侑也は弁当を頬張りながら、物憂げに空を見上げる。
「でも、ちょっと寂しいっす」
「……そうだねぇ」
穂積は白都の顔を思い浮かべ、浅い溜め息を吐いた。
帝と日向だけが普段通り物静かで、会話の中に自ら介入することはしなかった。
***
その頃、白都も彼らのことで頭を悩ませていた。
本当は信じたくないが、やはり勝手な作り話だと割り切れもしない。
候補に挙がっている幾人もの人間を除外した、たった五人の枠内で、白都はまず一人の人物に焦点を宛てていた。
それは日向だった。常にどこか放心気味な彼が大胆な行動を取れるとも思えないが、最近の一件が疑惑を向けさせる。
彼が持ってきたペットボトル、それを渡した人物とは一体誰なのか。
その答えを求め始めた結果、疑惑に繋がっていた。
そんな人物など始めから存在せず、日向自身が準備し持ってきたのでは無いだろうか。
彼の物忘れは演技で、実は確りと考え行動できる人物だと仮定すれば不可能では無いのではないか。
だとしても、見え透いた嘘を吐けるほど、彼が器用だとはどうしても思えない。
となると第三者を利用した人間が他にいることになる。日向に直接接触せず、性格を利用し、渡させた人物だ。
あの日は屋上に一番乗りしてしまい、誰が誰と接触を図ったのか欠片程も想像できない。
結局、考えれば考えるほど、雁字搦めになり嵌っていってしまう。だとしても、思考放棄は意思では到底叶わなかった。
記憶に刻まれた思い出が、猜疑心により黒へ黒へと曇ってゆく。そんな現実が、白都には地獄のように感じられた。
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