フレンドテロリスト

有箱

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 大好きで大切な彼らを信じたい気持ちと、疑ってしまう自分に挟まれ、白都は悄然としていた。
 しかし、考え込んでいても埒があかないだろう。大学へ行くまでまだ多くの時間があったため、散歩に向かうことにした。

 散歩は気分を落ち着かせてくれる。人通りのある場所を選んでいるお陰で、過剰な警戒をする必要は生じず、思うまま景色に心を許せる。
 この間と方向の違う太陽光が、陰影を上手く作り出していて綺麗だ。

 穏やかな心を取り戻す方法を、思い出させてくれた帝に感謝しなくてはならないな――。

 考えていると、反対の歩道に日向を見つけた。
 日向は変わらぬ無表情で、やや俯き気味に歩いている。地面を見詰める顔は、方角の所為か濃く影が落ちているように見えた。

「日向くん、これから授業―?」

 真っ直ぐ張った手の平を口角に付け、メガホン代わりに呼びかけると、日向が緩やかに顔を上げる。

「…………安斎さん……?」

 錯覚ではなかったらしく、顔色が明らかに悪い。
 ぼんやりとしている日向の近くに寄ろうと、白都は道路を横切った。

「こんなところで会うなんて珍しいね。いつもこの道使ってるの?」
「……そうです……安斎さんはどうして……」

 言葉を半分にして、日向が前屈みに揺らぐ。反射的に白都が手を出したのも空しく、その場で踏み止まった。

「だ、大丈夫?」
「…………眠い……です……」
「えっ?」

 どうやら日向は、体調不良ではなく睡眠不足に陥っていたらしい。ふらついた理由に拍子抜けしてしまう。
 無言で立ち止まる彼は、今にも寝落ちてしまいそうだ。

「あっ、とりあえず家に来なよ!」

 白都は対処に追われ、一番に思いついた案を口にしていた。

***

 白都に連れられ家に来るなり、日向は直ぐに眠ってしまった。相当眠気に責められていたらしい。
 無防備な寝顔を披露する日向を見ていると、自然と疑問が呼び起こされる。

 日向にペットボトルを渡した人物のことが知りたい。それさえ分かれば、御面への糸口が掴める可能性は高いはずだ。
 解決には至らずとも、せめて御面の正体だけでも分かっておきたい。皆を疑い、その上で自分を偽り続けるのは辛すぎる。それだけでも無くしたい。

 白都は眠る幼顔を見詰め、脳内で問い方を形成した。

 目覚めた日向に、物憂げな顔を見られないように――そんな思惑を根底に、無我でレポートに勤しむ。
 しかし、その途中、様子見で日向を見たとき、頬に雫が伝っているのを発見してしまった。
 見たことの無い涙に一驚してしまう

「日向くん日向くん……大丈夫?」

 悪夢を見ていると考え、軽く揺らしてみたところ、日向は直ぐに目をあけた。

「大丈夫? 泣いてたけど」
「……え、僕泣いてましたか……」

 当人である日向は、きょとんとしていて何のことだか分からない様子だ。

「……何でもないなら良いけど……」

 寝起きの所為か茫然としていた日向だが、少しして口だけを動かし始める。

「……すっかり寝ちゃいました……御免なさい……」
「良いよ良いよ。寝不足なんて珍しいね、徹夜でもした?」

 常に眠る場所を探し、昼食を犠牲にして眠るような人物だ。眩暈がするまで眠らないなんて想像がつかない。

「……いえ……そうではないんですが……」

 日向は答えを半端に濁らせたまま、すっかり黙り込んでしまった。いや、彼のことだ、これが答えの全量なのかもしれない。

「……日向くん、聞きたいことがあるんだけど」

 話が終了したと取り、白都は目覚めたら問おうと決めていた質問を掘り出した。

「…………なんですか?」

 寝惚け眼を向ける日向の内面が読めず、少し不安になる。だが、この期を逃しては次いつ時機が訪れてくれるか分からない。
 白都は緊張しつつ、予め作っておいた通りに質問した。

「……この間ペットボトル渡してくれた人、誰だったか思い出してみて欲しいんだ。ほら、ちゃんとお礼言いたいなって思って……」
「……ペットボトルの人ですか……えっと……」

 疑念が全くないのか、早速考える仕草を見せる。だが、やはり記憶に無いのか、前回出てきたキーワードさえ出てこなかった。
 代わりに謝罪され、残念に思いながらも流すように笑った。

 日向を利用できる人物なら、和月が一番身近だと言えよう。二番目に穂積だろうか。でも、仲が良い侑也も可能かもしれない。
 白都は、日向の帰宅後、夢中で考えていた。

 恐らく、ループだけして答えは出ないだろう。幾つもの疑問に向き合ってきた白都には、辿り着く場所が分かり始めていた。
 それでも止められない訳だが。
 それにしても、あの涙は一体なんだったのだろう。彼も彼なりに悩んでいるということなのだろうか。

 解決を待つ疑問だけが立て積みになり、白都は無意識に深く溜息を吐いていた。
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