35 / 83
34
しおりを挟む
大好きで大切な彼らを信じたい気持ちと、疑ってしまう自分に挟まれ、白都は悄然としていた。
しかし、考え込んでいても埒があかないだろう。大学へ行くまでまだ多くの時間があったため、散歩に向かうことにした。
散歩は気分を落ち着かせてくれる。人通りのある場所を選んでいるお陰で、過剰な警戒をする必要は生じず、思うまま景色に心を許せる。
この間と方向の違う太陽光が、陰影を上手く作り出していて綺麗だ。
穏やかな心を取り戻す方法を、思い出させてくれた帝に感謝しなくてはならないな――。
考えていると、反対の歩道に日向を見つけた。
日向は変わらぬ無表情で、やや俯き気味に歩いている。地面を見詰める顔は、方角の所為か濃く影が落ちているように見えた。
「日向くん、これから授業―?」
真っ直ぐ張った手の平を口角に付け、メガホン代わりに呼びかけると、日向が緩やかに顔を上げる。
「…………安斎さん……?」
錯覚ではなかったらしく、顔色が明らかに悪い。
ぼんやりとしている日向の近くに寄ろうと、白都は道路を横切った。
「こんなところで会うなんて珍しいね。いつもこの道使ってるの?」
「……そうです……安斎さんはどうして……」
言葉を半分にして、日向が前屈みに揺らぐ。反射的に白都が手を出したのも空しく、その場で踏み止まった。
「だ、大丈夫?」
「…………眠い……です……」
「えっ?」
どうやら日向は、体調不良ではなく睡眠不足に陥っていたらしい。ふらついた理由に拍子抜けしてしまう。
無言で立ち止まる彼は、今にも寝落ちてしまいそうだ。
「あっ、とりあえず家に来なよ!」
白都は対処に追われ、一番に思いついた案を口にしていた。
***
白都に連れられ家に来るなり、日向は直ぐに眠ってしまった。相当眠気に責められていたらしい。
無防備な寝顔を披露する日向を見ていると、自然と疑問が呼び起こされる。
日向にペットボトルを渡した人物のことが知りたい。それさえ分かれば、御面への糸口が掴める可能性は高いはずだ。
解決には至らずとも、せめて御面の正体だけでも分かっておきたい。皆を疑い、その上で自分を偽り続けるのは辛すぎる。それだけでも無くしたい。
白都は眠る幼顔を見詰め、脳内で問い方を形成した。
目覚めた日向に、物憂げな顔を見られないように――そんな思惑を根底に、無我でレポートに勤しむ。
しかし、その途中、様子見で日向を見たとき、頬に雫が伝っているのを発見してしまった。
見たことの無い涙に一驚してしまう
「日向くん日向くん……大丈夫?」
悪夢を見ていると考え、軽く揺らしてみたところ、日向は直ぐに目をあけた。
「大丈夫? 泣いてたけど」
「……え、僕泣いてましたか……」
当人である日向は、きょとんとしていて何のことだか分からない様子だ。
「……何でもないなら良いけど……」
寝起きの所為か茫然としていた日向だが、少しして口だけを動かし始める。
「……すっかり寝ちゃいました……御免なさい……」
「良いよ良いよ。寝不足なんて珍しいね、徹夜でもした?」
常に眠る場所を探し、昼食を犠牲にして眠るような人物だ。眩暈がするまで眠らないなんて想像がつかない。
「……いえ……そうではないんですが……」
日向は答えを半端に濁らせたまま、すっかり黙り込んでしまった。いや、彼のことだ、これが答えの全量なのかもしれない。
「……日向くん、聞きたいことがあるんだけど」
話が終了したと取り、白都は目覚めたら問おうと決めていた質問を掘り出した。
「…………なんですか?」
寝惚け眼を向ける日向の内面が読めず、少し不安になる。だが、この期を逃しては次いつ時機が訪れてくれるか分からない。
白都は緊張しつつ、予め作っておいた通りに質問した。
「……この間ペットボトル渡してくれた人、誰だったか思い出してみて欲しいんだ。ほら、ちゃんとお礼言いたいなって思って……」
「……ペットボトルの人ですか……えっと……」
疑念が全くないのか、早速考える仕草を見せる。だが、やはり記憶に無いのか、前回出てきたキーワードさえ出てこなかった。
代わりに謝罪され、残念に思いながらも流すように笑った。
日向を利用できる人物なら、和月が一番身近だと言えよう。二番目に穂積だろうか。でも、仲が良い侑也も可能かもしれない。
白都は、日向の帰宅後、夢中で考えていた。
恐らく、ループだけして答えは出ないだろう。幾つもの疑問に向き合ってきた白都には、辿り着く場所が分かり始めていた。
それでも止められない訳だが。
それにしても、あの涙は一体なんだったのだろう。彼も彼なりに悩んでいるということなのだろうか。
解決を待つ疑問だけが立て積みになり、白都は無意識に深く溜息を吐いていた。
しかし、考え込んでいても埒があかないだろう。大学へ行くまでまだ多くの時間があったため、散歩に向かうことにした。
散歩は気分を落ち着かせてくれる。人通りのある場所を選んでいるお陰で、過剰な警戒をする必要は生じず、思うまま景色に心を許せる。
この間と方向の違う太陽光が、陰影を上手く作り出していて綺麗だ。
穏やかな心を取り戻す方法を、思い出させてくれた帝に感謝しなくてはならないな――。
考えていると、反対の歩道に日向を見つけた。
日向は変わらぬ無表情で、やや俯き気味に歩いている。地面を見詰める顔は、方角の所為か濃く影が落ちているように見えた。
「日向くん、これから授業―?」
真っ直ぐ張った手の平を口角に付け、メガホン代わりに呼びかけると、日向が緩やかに顔を上げる。
「…………安斎さん……?」
錯覚ではなかったらしく、顔色が明らかに悪い。
ぼんやりとしている日向の近くに寄ろうと、白都は道路を横切った。
「こんなところで会うなんて珍しいね。いつもこの道使ってるの?」
「……そうです……安斎さんはどうして……」
言葉を半分にして、日向が前屈みに揺らぐ。反射的に白都が手を出したのも空しく、その場で踏み止まった。
「だ、大丈夫?」
「…………眠い……です……」
「えっ?」
どうやら日向は、体調不良ではなく睡眠不足に陥っていたらしい。ふらついた理由に拍子抜けしてしまう。
無言で立ち止まる彼は、今にも寝落ちてしまいそうだ。
「あっ、とりあえず家に来なよ!」
白都は対処に追われ、一番に思いついた案を口にしていた。
***
白都に連れられ家に来るなり、日向は直ぐに眠ってしまった。相当眠気に責められていたらしい。
無防備な寝顔を披露する日向を見ていると、自然と疑問が呼び起こされる。
日向にペットボトルを渡した人物のことが知りたい。それさえ分かれば、御面への糸口が掴める可能性は高いはずだ。
解決には至らずとも、せめて御面の正体だけでも分かっておきたい。皆を疑い、その上で自分を偽り続けるのは辛すぎる。それだけでも無くしたい。
白都は眠る幼顔を見詰め、脳内で問い方を形成した。
目覚めた日向に、物憂げな顔を見られないように――そんな思惑を根底に、無我でレポートに勤しむ。
しかし、その途中、様子見で日向を見たとき、頬に雫が伝っているのを発見してしまった。
見たことの無い涙に一驚してしまう
「日向くん日向くん……大丈夫?」
悪夢を見ていると考え、軽く揺らしてみたところ、日向は直ぐに目をあけた。
「大丈夫? 泣いてたけど」
「……え、僕泣いてましたか……」
当人である日向は、きょとんとしていて何のことだか分からない様子だ。
「……何でもないなら良いけど……」
寝起きの所為か茫然としていた日向だが、少しして口だけを動かし始める。
「……すっかり寝ちゃいました……御免なさい……」
「良いよ良いよ。寝不足なんて珍しいね、徹夜でもした?」
常に眠る場所を探し、昼食を犠牲にして眠るような人物だ。眩暈がするまで眠らないなんて想像がつかない。
「……いえ……そうではないんですが……」
日向は答えを半端に濁らせたまま、すっかり黙り込んでしまった。いや、彼のことだ、これが答えの全量なのかもしれない。
「……日向くん、聞きたいことがあるんだけど」
話が終了したと取り、白都は目覚めたら問おうと決めていた質問を掘り出した。
「…………なんですか?」
寝惚け眼を向ける日向の内面が読めず、少し不安になる。だが、この期を逃しては次いつ時機が訪れてくれるか分からない。
白都は緊張しつつ、予め作っておいた通りに質問した。
「……この間ペットボトル渡してくれた人、誰だったか思い出してみて欲しいんだ。ほら、ちゃんとお礼言いたいなって思って……」
「……ペットボトルの人ですか……えっと……」
疑念が全くないのか、早速考える仕草を見せる。だが、やはり記憶に無いのか、前回出てきたキーワードさえ出てこなかった。
代わりに謝罪され、残念に思いながらも流すように笑った。
日向を利用できる人物なら、和月が一番身近だと言えよう。二番目に穂積だろうか。でも、仲が良い侑也も可能かもしれない。
白都は、日向の帰宅後、夢中で考えていた。
恐らく、ループだけして答えは出ないだろう。幾つもの疑問に向き合ってきた白都には、辿り着く場所が分かり始めていた。
それでも止められない訳だが。
それにしても、あの涙は一体なんだったのだろう。彼も彼なりに悩んでいるということなのだろうか。
解決を待つ疑問だけが立て積みになり、白都は無意識に深く溜息を吐いていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる