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日を跨ぎ、実行猶予最終日、白都は黒板を見ながらも上の空だった。
横に帝が座っているのに関わらず、授業中だからか物思いに耽ってしまう。
自宅にいる間、挑んでは負け挑んでは負けを繰り返し、結局御面が望む程の自傷には至っていなかった。
どう努めても、赤い線が仄かにできる程度に留まってしまうのだ。
あと数週間あれば、慣れを重ねて遂行できたかもしれない。けれど既に猶予は零に近くなっている。
期限は夜七時だが、今日はバイトがあり、休み時間など一人の時間を使用するしかチャンスは残されていない。
だとしても、自信は無いけれど――。
視界の端、帝が使用しているノートが動いた。自然と反応し、視線が勝手にそちらへと向く。どうやら、ノートは態とずらされたらしく、余白に文字が綴られていた。
“具合でも悪いのか”
集中しているとばかり思い込んでいた帝に指摘され、白都は苦笑していた。
すらすらと自分のノートに文字を綴り、帝へと差し出す。
“大丈夫 ただの寝不足”
数秒文字を見詰めた帝は、また直ぐに返事を書き出した。小さな動作でノートをずらす。
“無理するなよ”
白都は声を無しに、唇だけで“ありがとう”と伝えた。
***
授業が終了すると、帝は素早く教科書をしまいだす。
「今日はバイトあるのか?」
互いに目線が逸れており、話しかけられると思っていなかった白都は、一瞬ぎくりと肩を竦めてしまった。
「……うん、あるけど」
「そうか。次はいつ休みだ?」
敢えて訊ねられ妙な不安感が過ぎったが、はぐらかそうとも思えずシフトを記憶から探る。
「うーんと、明日かな」
「じゃあ、明日会えないか?」
「えっ? どうかした?」
約束を据えてまで面会する理由が、白都には想像もつかなかった。重々しい何かがあるのでは無いかと疑ってしまう。
「……いや、また一緒に食事でもと思ってな。最近遣り繰りも大変そうだし」
裏を付く純粋な理由に、白都は胸を撫で下ろしていた。だが、同時に一方的な優しさに痛み入ってしまう。
親切にされるほど、比例して気が重くなってゆく。
「……そっか。何かごめん、ありがとう。食事、嬉しいよ」
「じゃあ決まりだ。明日、待ってるな」
「うん」
帝は約束だけ取り付けると、颯爽と教室を後にした。
帝が誘ってきた理由は、多分援助のためだろう。まともに食べていない自分の身を案じ、誘ってくれたのだ。いつもの何食わぬ顔で。
帝はいつだって味方で居てくれる。
観察されているのか、勝手に意思疎通が出来てしまうのか、見破られていることがよくある。
その特性を生かして、出しゃばらない程度に助けてくれるのだ。彼はいつだってそうだ。いつだって。
――もしかして帝は、事件に巻き込まれていることに、いやそこまでは至らずとも、重篤な悩みを抱えていることに気付いているのでは無いだろうか。
可能性に気付いた瞬間、心が矛盾に包まれ動揺した。
想像が正解ならば素直に嬉しい。だが、第三者に秘密が知られてしまってはならないとの現実が、手放しの喜びを阻んだ。
秘密が知られたら。その人物がどうなるか、容易に想像出来てしまう。
白都は帝に確信されないよう、疑惑の目を塗り替える為の手段に頭を捻った。
横に帝が座っているのに関わらず、授業中だからか物思いに耽ってしまう。
自宅にいる間、挑んでは負け挑んでは負けを繰り返し、結局御面が望む程の自傷には至っていなかった。
どう努めても、赤い線が仄かにできる程度に留まってしまうのだ。
あと数週間あれば、慣れを重ねて遂行できたかもしれない。けれど既に猶予は零に近くなっている。
期限は夜七時だが、今日はバイトがあり、休み時間など一人の時間を使用するしかチャンスは残されていない。
だとしても、自信は無いけれど――。
視界の端、帝が使用しているノートが動いた。自然と反応し、視線が勝手にそちらへと向く。どうやら、ノートは態とずらされたらしく、余白に文字が綴られていた。
“具合でも悪いのか”
集中しているとばかり思い込んでいた帝に指摘され、白都は苦笑していた。
すらすらと自分のノートに文字を綴り、帝へと差し出す。
“大丈夫 ただの寝不足”
数秒文字を見詰めた帝は、また直ぐに返事を書き出した。小さな動作でノートをずらす。
“無理するなよ”
白都は声を無しに、唇だけで“ありがとう”と伝えた。
***
授業が終了すると、帝は素早く教科書をしまいだす。
「今日はバイトあるのか?」
互いに目線が逸れており、話しかけられると思っていなかった白都は、一瞬ぎくりと肩を竦めてしまった。
「……うん、あるけど」
「そうか。次はいつ休みだ?」
敢えて訊ねられ妙な不安感が過ぎったが、はぐらかそうとも思えずシフトを記憶から探る。
「うーんと、明日かな」
「じゃあ、明日会えないか?」
「えっ? どうかした?」
約束を据えてまで面会する理由が、白都には想像もつかなかった。重々しい何かがあるのでは無いかと疑ってしまう。
「……いや、また一緒に食事でもと思ってな。最近遣り繰りも大変そうだし」
裏を付く純粋な理由に、白都は胸を撫で下ろしていた。だが、同時に一方的な優しさに痛み入ってしまう。
親切にされるほど、比例して気が重くなってゆく。
「……そっか。何かごめん、ありがとう。食事、嬉しいよ」
「じゃあ決まりだ。明日、待ってるな」
「うん」
帝は約束だけ取り付けると、颯爽と教室を後にした。
帝が誘ってきた理由は、多分援助のためだろう。まともに食べていない自分の身を案じ、誘ってくれたのだ。いつもの何食わぬ顔で。
帝はいつだって味方で居てくれる。
観察されているのか、勝手に意思疎通が出来てしまうのか、見破られていることがよくある。
その特性を生かして、出しゃばらない程度に助けてくれるのだ。彼はいつだってそうだ。いつだって。
――もしかして帝は、事件に巻き込まれていることに、いやそこまでは至らずとも、重篤な悩みを抱えていることに気付いているのでは無いだろうか。
可能性に気付いた瞬間、心が矛盾に包まれ動揺した。
想像が正解ならば素直に嬉しい。だが、第三者に秘密が知られてしまってはならないとの現実が、手放しの喜びを阻んだ。
秘密が知られたら。その人物がどうなるか、容易に想像出来てしまう。
白都は帝に確信されないよう、疑惑の目を塗り替える為の手段に頭を捻った。
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