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思惑は正しく、想像通り御面は背後から現れた。肩を掴まれ、勢いよく突き飛ばされる。
イメージ通りの展開であるのに拘らず、心臓は早まるばかりだ。謝罪も喉で留まり、声が出ない。
『何であのくらいの命令が聞けないんだ』
御面の語気は単調で、怒っているのか厭きられているのかすら掴めない。
『まだ殺されないとでも思ってんのか?』
「…………ご、め……なさ……」
この状況に遭遇したくないなら、全てを捨てて逃亡すれば良い。逃亡が嫌なら、命令に従い自分を傷付ける方がマシだろう。
白都自身分かってはいた。だが、それでも行動に移せなかった。拒否し続けている内に段々混乱し、結局最悪の事態を選択してしまうのだ。
尻餅を着いたまま動かない白都の目の前、角膜の数mm寸前まで刃先が近づけられる。体が石のごとく硬直した。
『次はちゃんと出来るな?』
求められ、白都は何度も頷く。目の前にある苦痛から逃げ出したくて、そうしているに過ぎない。
――そうやって、また後悔するのに。
***
足元が覚束ない。駆けようとする足が縺れる。真っ暗な道が、心の状態を反映しているかのようだ。
死んでしまえたら、楽になれるんだろうか。自ら命を絶てば、殺されるより楽だろうな。
ふと、これまでの人生の中、想像したことのない逃避法が浮かんだ。
だが、浮かべた瞬間、怖くなり我に帰る。自分は何を考えているんだと戦慄した。
死ぬ気など――死ぬ勇気など持ち合わせてはいないのに。
アパートの仄暗い電灯の下を潜り、自室の前まで俯きながら走る。
「……安斎さん?」
はっと顔を上げると、扉の前で体操座りをする日向が居た。仰天し、唖然としてしまう。
「…………遅かったですね……」
多くを語らず立ち上がった日向は、近付くなり鞄に触れ軽く手を滑らせた。さらさらと乾いた土が舞う。
「……鞄、落としました? ……えっ……?」
白都はその場で座り込んでいた。それでも、我慢を守るため涙だけは堪えた。
一度発散してしまえば、戻れないような気がする。
「……ごめん、実は具合が悪くて……職場で休んでたんだ……」
顔を下げる事により、表情を悟らせないよう仕立てた。日向は困惑しているのか、固まったまま無言だ。
「……なんで待ってたの……?」
「…………なんででしょうね……」
直接見てはいないが、きょとんとしているのが目に浮かぶ。自覚のない優しさが、痛手を負った心に暖かく染みた。
「…………ありがとう、ごめんね……」
顔を上げ無理矢理に笑ってみせると、日向は不思議そうにしていた。
――日向にアリバイが出来た。
御面と分かれてから駆け足で帰宅したのだ。もし日向が御面だったとしたら、マントや仮面を取り、どこかへ隠し、玄関先に来なければならない。
しかし、そんなのは無理な話だ。
白都は明白な確信を得られ、少しだけ安らぎを取り戻した。
イメージ通りの展開であるのに拘らず、心臓は早まるばかりだ。謝罪も喉で留まり、声が出ない。
『何であのくらいの命令が聞けないんだ』
御面の語気は単調で、怒っているのか厭きられているのかすら掴めない。
『まだ殺されないとでも思ってんのか?』
「…………ご、め……なさ……」
この状況に遭遇したくないなら、全てを捨てて逃亡すれば良い。逃亡が嫌なら、命令に従い自分を傷付ける方がマシだろう。
白都自身分かってはいた。だが、それでも行動に移せなかった。拒否し続けている内に段々混乱し、結局最悪の事態を選択してしまうのだ。
尻餅を着いたまま動かない白都の目の前、角膜の数mm寸前まで刃先が近づけられる。体が石のごとく硬直した。
『次はちゃんと出来るな?』
求められ、白都は何度も頷く。目の前にある苦痛から逃げ出したくて、そうしているに過ぎない。
――そうやって、また後悔するのに。
***
足元が覚束ない。駆けようとする足が縺れる。真っ暗な道が、心の状態を反映しているかのようだ。
死んでしまえたら、楽になれるんだろうか。自ら命を絶てば、殺されるより楽だろうな。
ふと、これまでの人生の中、想像したことのない逃避法が浮かんだ。
だが、浮かべた瞬間、怖くなり我に帰る。自分は何を考えているんだと戦慄した。
死ぬ気など――死ぬ勇気など持ち合わせてはいないのに。
アパートの仄暗い電灯の下を潜り、自室の前まで俯きながら走る。
「……安斎さん?」
はっと顔を上げると、扉の前で体操座りをする日向が居た。仰天し、唖然としてしまう。
「…………遅かったですね……」
多くを語らず立ち上がった日向は、近付くなり鞄に触れ軽く手を滑らせた。さらさらと乾いた土が舞う。
「……鞄、落としました? ……えっ……?」
白都はその場で座り込んでいた。それでも、我慢を守るため涙だけは堪えた。
一度発散してしまえば、戻れないような気がする。
「……ごめん、実は具合が悪くて……職場で休んでたんだ……」
顔を下げる事により、表情を悟らせないよう仕立てた。日向は困惑しているのか、固まったまま無言だ。
「……なんで待ってたの……?」
「…………なんででしょうね……」
直接見てはいないが、きょとんとしているのが目に浮かぶ。自覚のない優しさが、痛手を負った心に暖かく染みた。
「…………ありがとう、ごめんね……」
顔を上げ無理矢理に笑ってみせると、日向は不思議そうにしていた。
――日向にアリバイが出来た。
御面と分かれてから駆け足で帰宅したのだ。もし日向が御面だったとしたら、マントや仮面を取り、どこかへ隠し、玄関先に来なければならない。
しかし、そんなのは無理な話だ。
白都は明白な確信を得られ、少しだけ安らぎを取り戻した。
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