フレンドテロリスト

有箱

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 とは言え、問題は山積みだ。下された命令は残っており、解決されていない。

 白都は手首に煌く刃を付け、力を込めて引いていた。それでも傷は浅く、血の滲み一つ見えてこない。
 今朝入っていたメールに、期限は一週間以内だと記載されていた。
 これから六日葛藤すれば、次こそ可能かもしれない。

 変に前向きな発想に自分自身厭きれながらも、白都は一週間の猶予に少し喜んでいた。
 今まで、こんな長期の猶予を与えられた記憶は無い。長くて三日程度で、実行のタイミングを逃すまいと気を張り続けてばかりだった。

 無論、今回も気は抜けないが、僅かに余裕が持てる気がする。
 白都は、今までより少しだけ、力を込めてナイフを引いた。

***

 別校舎に向かうため廊下を歩いていた穂積だったが、向こうからやってくる侑也を遠目に発見した。
 その顔は物憂げで、疲弊しているようにも見える。

「おーい、侑くーん!」
「あっ、えっ、九十九さん!?」

 慌てて顔を上げた侑也と、穂積の視線がぶつかった。
 穂積は、認識されたと知り軽い駆け足で近付く。

「教室移動?」
「そうっす。体育館へ行きます」
「合同かな? 最近も楽しい?」

 何気なく聞いたつもりの問いに対し、一瞬立ち上ったオーラが穂積には禍々しく感じた。だが侑也の笑顔は、確信する前に意とも簡単に色を塗り替えてしまう。

「そうっすね! 楽しいっすよ!」
「そう、なら良かったー」
「じゃあ俺、行きますね!」

 軽く会釈し体育館へと駆けて行った侑也の背を見て、穂積は眉を顰めていた。
 本能で勝手に動く右手が、ポケットに忍ばせた物体を握った。

***

 授業を終え、白都は帰路に着いていた。昼食前で授業が終わり、明るいのに拘らず裏道では恐怖が寄り添ってくる。
 目の前に近づけられた、刃の色や角度が忘れられない。悪寒が背筋を駆け巡って止まらない。

 急激に溢れ出す不安感を蹴飛ばそうと、白都は道の上を全力疾走した。

「白都」

 アパートに着いた時、頭上から声が降ってきた。見上げると、ベランダから帝がこちらを見下ろしている。

「どうしたの?」
「景色を撮っていたんだ。授業もう終わったのか?」

 右手に軽く、デジタルカメラが掲げられた。

「うん、今日は早いんだ」
「そうか、ならそのまま家に来い」

 そう言い放つと、素早く自宅に引っ込んでしまった。
 白都は一瞬躊躇いを覚えたが、成り行きに逆らう理由も思いつかず従うことにした。

***

 部屋は相変わらず綺麗だ。殺風景では無いが、色が統一されているからか騒がしくない。
 帝はリビングに入っても着席せず、横目を向けたキッチンを親指で指した。

「久々に一緒に料理しないか」
「え? うん、いいよ」

 嘗ては、料理も共にしていたことがあった。手伝いと称して簡単な作業をする程度のものだったが、楽しかった記憶がある。
 白都は帝の後ろにつき、久しぶりのキッチンに入った。

 本日は和食中心のメニューにするらしく、魚や旬の野菜などの食材が豊富に揃えられていた。恐らく野菜は届いたものだろう。

 的確な指示に従いながら、拙い手付きで調味料と食材を混ぜ合わせていると、帝が白都の名を呼んだ。
 その声には、変わらない静けさがある。だが、普段感じない重みも乗っていた。
 振り向くと、帝は冷蔵庫から何かを探っていた。

「何? 食材ないとか? 買ってこようか?」
「何か隠していないか?」

 想定外の問いかけに、白都は一瞬凍りついた。しかし直ぐにスイッチが入り、顔面を笑顔で彩る。

「えーどうしたの、何もないよ」
「悩んでることとかないか? ……最近様子が可笑しいように見えて。少し気にかかっていたんだ」
「うーん、悩みがないことは無いけど。ほら、人間だから」

 自分でも意味の分からない発言を並べ、どうにか疑惑を外へ向けようとした。だが、振り向いた帝から、訝しさは消えていなかった。

「……まぁ、それもそうだな」

 冷蔵庫から出した、おろし生姜のチューブが差し出される。材料内に追加、との指示を受け取った。

「……本当に悩んだらいつでも聞くからな。私は白都の味方だから」

 移動しながら何気なく落とされた台詞は、白都の胸を強く締め付けた。
 脅迫がなければ、直ぐにでも全て打ち明けるのに。誰の身も危険に陥らないような、そんな悩みなら打ち明けるのに。

「ありがとう。帝も悩んでたら言ってね」
「……あぁ」

 火加減を見極める帝は背を向けた状態にあり、表情の確認は出来なかった。
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