フレンドテロリスト

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 葛藤をはじめて三日、傷の濃さは少し深まった。線にはならない小さな血溜りが、幾つか膨らむ程度だ。

 白都は、着々と達成に近付いていることに安堵を抱いていた。自分でも可笑しいと感じるが、これなら今回は切り抜けられるかもしれない、と安心しまうのだ。
 もちろん、心の重みが軽減された訳では無いが。

***

「ああっ……帝さん、お早うございます……!」

 白都が自宅で葛藤している頃、帝は丁度登校しているところだった。偶然前を歩いていた侑也を見つけ、声を掛けたところだ。
 
「どうかしたか?」
「えっ? なんでっすか?」

 図星なのか、侑也は苦笑しているように見える。本人は自然体を演じているつもりなのだろうけれど。

「……考えごとをしていたように見えてな」
「気の所為っすよー」

 侑也の演技力の高さを白都から聞いてはいたが、帝は未だに納得出来なかった。
 専攻が違い、授業では一緒にならないからだろう。帝は寧ろ、侑也は分かりやすくて、感情がすぐ表に出る人物だと思っている。

「……まぁ、人間だもんな……」

 そう、人である以上煩悩は尽きない。しかも自分たちはまだ若者だ、悩むことも多いだろう。
 白都の言い訳が、帝の中で辻褄を合わせ始める。

「何すかそれ、またなんか見たんすか?」
「いや、気にしなくて良い」
「そうっすかー」

 珍しく侑也が引き下がったことに違和感を覚えつつ、先入しすぎてもいけないだろうと、その時を待つことにした。

***

 授業の関係で、それから二時間ほど遅れて白都は登校していた。

 手首を擦る、袖の感触が妙に気になる。止血し、乾いた傷口も見たはずなのに、傷が開いて滲み出ていないか確認したくなる。
 もちろん、いつ誰が見ているか分からない状況で、袖を捲くりはしないが。

 校門を潜った辺り、数メートル手前に穂積の姿が見えた。手に携帯を持ち、深刻な顔で何やら打ち込んでいる。
 目の前の障害物は器用に避けて進んでいるが、どうやら後方に注意は向けていないらしく、こちらに気付いていない模様だ。

 玄関口に向かって不安定に歩く姿を、ただハラハラとしながら見つめる。だが、ポケットに忍ばせていた携帯の着信音が微かに聞こえ、そこで注意を逸らした。

 時間帯や命令中であることから、御面では無いだろうと推測する。
 ゆえに、軽い気持ちでメールを開いたが、期待は裏切られ、瞳には¨御面¨の表示が映った。

 タイミングが疑惑を生む。
 白都は勢いよく顔を上げたが、穂積は玄関内に消えたのか居なくなっていた。
 渦巻く感情をどうにか沈め、新たな命令を目で追う。

“今回の命令は、金を用意すること、です。金額は給料額の2倍です。
指定場所は学校の屋上、時間は朝一でお願いします。
期限は4日後の朝まで、です。”

 白都は自然と溜め息を吐いた。貯金額が零に近い今、給料の二倍の金額など用意できるはずがないのだ。
 友人たちは皆、生活を切り詰めていると知っているはずだが――御面はどこまでも非道な人間らしい。

 はっとなり、自分が完全に友人達を疑っていることに気付いた。
 根拠はなく、まだ拒否の余地は残されているはずなのに、もう五人の中にいると決め付けてしまっている。御面の言葉を鵜呑みにしてしまっている。

 鬩ぎあう感情に押し潰されそうになりながらも、白都は命令の実行法を思案した。
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