43 / 83
42
しおりを挟む
葛藤をはじめて三日、傷の濃さは少し深まった。線にはならない小さな血溜りが、幾つか膨らむ程度だ。
白都は、着々と達成に近付いていることに安堵を抱いていた。自分でも可笑しいと感じるが、これなら今回は切り抜けられるかもしれない、と安心しまうのだ。
もちろん、心の重みが軽減された訳では無いが。
***
「ああっ……帝さん、お早うございます……!」
白都が自宅で葛藤している頃、帝は丁度登校しているところだった。偶然前を歩いていた侑也を見つけ、声を掛けたところだ。
「どうかしたか?」
「えっ? なんでっすか?」
図星なのか、侑也は苦笑しているように見える。本人は自然体を演じているつもりなのだろうけれど。
「……考えごとをしていたように見えてな」
「気の所為っすよー」
侑也の演技力の高さを白都から聞いてはいたが、帝は未だに納得出来なかった。
専攻が違い、授業では一緒にならないからだろう。帝は寧ろ、侑也は分かりやすくて、感情がすぐ表に出る人物だと思っている。
「……まぁ、人間だもんな……」
そう、人である以上煩悩は尽きない。しかも自分たちはまだ若者だ、悩むことも多いだろう。
白都の言い訳が、帝の中で辻褄を合わせ始める。
「何すかそれ、またなんか見たんすか?」
「いや、気にしなくて良い」
「そうっすかー」
珍しく侑也が引き下がったことに違和感を覚えつつ、先入しすぎてもいけないだろうと、その時を待つことにした。
***
授業の関係で、それから二時間ほど遅れて白都は登校していた。
手首を擦る、袖の感触が妙に気になる。止血し、乾いた傷口も見たはずなのに、傷が開いて滲み出ていないか確認したくなる。
もちろん、いつ誰が見ているか分からない状況で、袖を捲くりはしないが。
校門を潜った辺り、数メートル手前に穂積の姿が見えた。手に携帯を持ち、深刻な顔で何やら打ち込んでいる。
目の前の障害物は器用に避けて進んでいるが、どうやら後方に注意は向けていないらしく、こちらに気付いていない模様だ。
玄関口に向かって不安定に歩く姿を、ただハラハラとしながら見つめる。だが、ポケットに忍ばせていた携帯の着信音が微かに聞こえ、そこで注意を逸らした。
時間帯や命令中であることから、御面では無いだろうと推測する。
ゆえに、軽い気持ちでメールを開いたが、期待は裏切られ、瞳には¨御面¨の表示が映った。
タイミングが疑惑を生む。
白都は勢いよく顔を上げたが、穂積は玄関内に消えたのか居なくなっていた。
渦巻く感情をどうにか沈め、新たな命令を目で追う。
“今回の命令は、金を用意すること、です。金額は給料額の2倍です。
指定場所は学校の屋上、時間は朝一でお願いします。
期限は4日後の朝まで、です。”
白都は自然と溜め息を吐いた。貯金額が零に近い今、給料の二倍の金額など用意できるはずがないのだ。
友人たちは皆、生活を切り詰めていると知っているはずだが――御面はどこまでも非道な人間らしい。
はっとなり、自分が完全に友人達を疑っていることに気付いた。
根拠はなく、まだ拒否の余地は残されているはずなのに、もう五人の中にいると決め付けてしまっている。御面の言葉を鵜呑みにしてしまっている。
鬩ぎあう感情に押し潰されそうになりながらも、白都は命令の実行法を思案した。
白都は、着々と達成に近付いていることに安堵を抱いていた。自分でも可笑しいと感じるが、これなら今回は切り抜けられるかもしれない、と安心しまうのだ。
もちろん、心の重みが軽減された訳では無いが。
***
「ああっ……帝さん、お早うございます……!」
白都が自宅で葛藤している頃、帝は丁度登校しているところだった。偶然前を歩いていた侑也を見つけ、声を掛けたところだ。
「どうかしたか?」
「えっ? なんでっすか?」
図星なのか、侑也は苦笑しているように見える。本人は自然体を演じているつもりなのだろうけれど。
「……考えごとをしていたように見えてな」
「気の所為っすよー」
侑也の演技力の高さを白都から聞いてはいたが、帝は未だに納得出来なかった。
専攻が違い、授業では一緒にならないからだろう。帝は寧ろ、侑也は分かりやすくて、感情がすぐ表に出る人物だと思っている。
「……まぁ、人間だもんな……」
そう、人である以上煩悩は尽きない。しかも自分たちはまだ若者だ、悩むことも多いだろう。
白都の言い訳が、帝の中で辻褄を合わせ始める。
「何すかそれ、またなんか見たんすか?」
「いや、気にしなくて良い」
「そうっすかー」
珍しく侑也が引き下がったことに違和感を覚えつつ、先入しすぎてもいけないだろうと、その時を待つことにした。
***
授業の関係で、それから二時間ほど遅れて白都は登校していた。
手首を擦る、袖の感触が妙に気になる。止血し、乾いた傷口も見たはずなのに、傷が開いて滲み出ていないか確認したくなる。
もちろん、いつ誰が見ているか分からない状況で、袖を捲くりはしないが。
校門を潜った辺り、数メートル手前に穂積の姿が見えた。手に携帯を持ち、深刻な顔で何やら打ち込んでいる。
目の前の障害物は器用に避けて進んでいるが、どうやら後方に注意は向けていないらしく、こちらに気付いていない模様だ。
玄関口に向かって不安定に歩く姿を、ただハラハラとしながら見つめる。だが、ポケットに忍ばせていた携帯の着信音が微かに聞こえ、そこで注意を逸らした。
時間帯や命令中であることから、御面では無いだろうと推測する。
ゆえに、軽い気持ちでメールを開いたが、期待は裏切られ、瞳には¨御面¨の表示が映った。
タイミングが疑惑を生む。
白都は勢いよく顔を上げたが、穂積は玄関内に消えたのか居なくなっていた。
渦巻く感情をどうにか沈め、新たな命令を目で追う。
“今回の命令は、金を用意すること、です。金額は給料額の2倍です。
指定場所は学校の屋上、時間は朝一でお願いします。
期限は4日後の朝まで、です。”
白都は自然と溜め息を吐いた。貯金額が零に近い今、給料の二倍の金額など用意できるはずがないのだ。
友人たちは皆、生活を切り詰めていると知っているはずだが――御面はどこまでも非道な人間らしい。
はっとなり、自分が完全に友人達を疑っていることに気付いた。
根拠はなく、まだ拒否の余地は残されているはずなのに、もう五人の中にいると決め付けてしまっている。御面の言葉を鵜呑みにしてしまっている。
鬩ぎあう感情に押し潰されそうになりながらも、白都は命令の実行法を思案した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる